2021年1月、「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」という答申が中央教育審議会から出されました。「令和の日本型学校教育」とは「『子供たちの多様化』『情報化への対応の遅れ』『教師の長時間労働』などの課題を解決するために、子供たちの知・徳・体を一体で育む日本型学校教育のよさを受け継ぎつつ、GIGAスクール構想などの新しい動きも取り込んで発展させる、『新しい時代の学校教育の実現』を目指していること」とされます。
参考元: 中央教育審議会「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)【総論解説】|文部科学省
講演DIGEST
「学校ソリューションセミナー2021 ~全ての子供たちの可能性を引き出す『令和の日本型学校教育』とは?~」(2021年9月18日・WEBセミナー)では3名の登壇者をお招きし、「令和の日本型学校教育」を進めるにあたり、学校組織および教員は何をしていくべきか、取り組み例などを伺いました。(以下、講演およびセッション抜粋)
01 令和の日本型学校教育の考え方と要諦について 「令和の日本型学校教育」とは~学び合う場・機会としての学校へ~
独立行政法人教職員支援機構 理事長/中央教育審議会 初等中等教育分科会長 荒瀬克己氏
私たちは探究を軸に、部活や学園祭、海外研修、生徒が行う学校説明会などの活動にも広げました。実際に3年生は、教員があまり手伝わずとも高校最後の文化祭を自分たちで考えて実行していました。「見えるものはすべて 見えないところで準備されている」、そう実感します。誰もが「私は人から大切な一人として認められているか」と考えたときに、「認められている」と気づけることが、自己肯定感のスタートとなります。同時に「人をそのように大切な一人として認めているか?」も重要な感覚。この感覚を大切にしていくことが、新たな学習指導要領を具体的に実施していくうえで、非常に重要な前提になっているとも考えます。
02 学校現場が実践する「子供を主語にする学校教育」 「生徒の主体性を最大限引き出す取り組み~新カリキュラム『SHOWA NEXT』による学校文化の変化~」
昭和女子大学附属昭和中学校・昭和高等学校 中学校教頭 粕谷直彦氏
カリキュラムでは主体性をキーワードに、「①選べる(生徒が選ぶ)②現地体験(学校から社会・世界に出て、現地で感じ、学ぶ)③他流試合(生徒が外の世界に挑む)」を重視しています。カリキュラム内では探究の時間や「理想試験」、カリキュラム外では模擬国連や国際貢献ボランティア活動などを実施、それらをボーダーレスな教育環境(国籍・年齢関係なく日常的に多様な人材と交流がある環境)をもって下支えしています。探究ではテーマ選び・課題発見を自分で行い、最終的には周囲の人あるいは地域を巻き込んで進めます。また「理想試験」は、定期考査を監督なしで実施。まず自分たちで監督なしでテストができるか、自分や友人、生徒と教員の関係に信頼を持てるかを考え、クラスや学年の意思で実施します。これはまさに生徒の主体性につながる取り組みと考えます。また世田谷区と協力して、サービスラーニング(ボランティアをとおした社会奉仕体験学習)として、地元商店街の活性化を図る活動なども行っています。
主体性をキーワードとしたカリキュラムを続けてきたことにより、本校の生徒は次のように変化してきました。それは「チャレンジすることを好む生徒、一歩上を目指す生徒」が増えてきたということです。そうした生徒が増えることにより、「お互いに刺激し合って、さらなる高め合い」が生まれます。それらは一時的なものではなく、新たな学校の文化となり得ています。
03 学校現場が実践する「子供を主語にする学校教育」 「自律を育む生徒支援がもたらす可能性」「対話を重視した学校のルールづくり」
立命館守山中学校・高等学校 教諭(生徒部主任) 加藤智博氏
また、自律を育むための手段として、4つの質問に行きつきました。それは、「①どうしたの? ②どうしたいの? ③何か自分でできそうなことはある? ④先生にどんなサポートをしてほしい?」というものです。③は、私自身が日々子供と接するなかで考え、付け足した質問です。自律を育むには、自己決定の場が必要です。しかし子供には経験値が不足しているので、自己決定をさせる前に、メタ認知が働く言葉かけがあるとよいようです。それがこの4つの質問です。また、自己決定の際に、「決定の後(先)を一緒に予測する」ということも必要です。例えば、その決定をして「どんなことが起こりそう? どんな反応がありそう? そのためにはどんな対策が必要? (ときには)その決定を先生・大人はこう思うよ」を一緒に考えるという具合です。自己決定に慣れていない子供に選択肢を与えてみること、自分の選択した未来を予測しながら自分で最終決定していくことの繰り返しの作業が、子供たちの自律を育むうえで有効だと感じます。
私は、子供たちに「自分の人生の主体者は自分」ということをよく話します。2030年を生きる子供たちの核は「エージェンシー(当事者意識)」であると、OECDの資料にもあります。麹町中では、新標準服の制定にあたり、生徒と保護者と教員、制服業者や専門家も交えて対話し、ルールづくりを行いました。立命館守山中では、校内でのスマートフォンに関するルールづくりを生徒会と保護者と教員が一緒にやっています。それぞれが当事者となることで、子供も保護者も、世の中に多様な考え方・状態の人たちがいることに気づけました。子供の自律を育みながら、各人が当事者意識を持ち、議論・対話を重ねることで相互理解を深め、各々の“最上位の合意点”を探す。そうした取り組みが、子供を主語にした学校教育、学校づくりにもつながっていくのではないでしょうか。
SESSION DIGEST 「子供を主語にする学校教育」の実践を可能にするカリキュラム・マネジメントとは?
参加者/荒瀬氏、粕谷氏、加藤氏
― 講演のなかで、「子供を主語にするには、教員が主語にならねば」というお話がありました。
- 荒瀬氏
- 子供を主語とする学校をつくるには、教員が主語になる/学ぶ主体になる必要があります。それができるような場をつくっていくことが、学校の管理職としての重要な役目だと思います。先ほどの加藤先生の「4つの質問」は、主語の転換をして、教員間でも同じように使いたいですね。「学校はこうしてきたけれど、あなた(教員)はどう思うの?」と聞くことが、とても大切だと思います。
- 加藤氏
- 私は前職で、「学校としてはどうなのですか」と、”外野”のように、管理職に尋ねていた時期もありました。校長に「あなたも学校の一員ですよ」と言われまして、「そうだよな」と。「えらそうに言っている場合じゃない。一教員として何ができる?」を探さなきゃという気持ちが、少しずつ耕されてきた感があります。また、教員同士でいえば、日々の雑談がお互いの考え方や認識のズレを修正する役目を果たしますよね。「この先生がこう思うのは、こういう背景があったからか」など、相手を理解して合意点を探っていく機会になります。
- 粕谷氏
- 生徒に「チャレンジしなさい」と言う以上は、教員もその姿勢を生徒に見せなくては、と。生徒と教員の「刺激し合い」も必要ですね。
― コロナ禍で学校行事が制限されている昨今ですが、学校行事とカリキュラム・マネジメントの連動性、あるいはカリキュラム・マネジメントにおける学校行事の役割などについて、ご意見をお伺いします。
- 荒瀬氏
- 堀川高時代、受験前の3年生が文化祭を楽しむ様子を保護者が見に来られまして。「ご心配でしょうけれど、高3の文化祭は人生で一度ですから」とお伝えしたところ、保護者も「仕方ないな」と笑ってくれました。これは口幅ったいようですが、保護者と対話があり、信頼関係ができていたからだと思っています。「受験だから学校行事はだめだ」「いや一生一度の思い出だ」とか、それぞれの結論をぶつけ合っても、対話も信頼関係もできません。結論をちょっと横において話す、それは「子供を主語にする」ことにもつながると思います。そうしながら実施してく学校行事というのは、大切な取り組みで、カリキュラム・マネジメントの軸になると感じます。
- 加藤氏
- 「行事の目的を明確にもつこと」も大切ですよね。中学校の学校行事や宿泊行事は生活指導の場になりがちですが、「この行事はこの目的で!」という一点に絞り、3学年の発達段階を考慮しながら…というふうに実施するのがよいと思います。対話を重視し、他者の違いを受け入れながら、考えの違う人たちと混ざり合うことによって、新しいアイデアや自分では思いつかなかったアイデアを生み出せる体験ができる...それが学校行事の役割ではないでしょうか。
- 粕谷氏
- 学校は、“不易と流行”の部分があると思いますので、その本質の部分をしっかり見失わず、しかし時勢に合ったかたちでの目的・手段を考えていくことが大切だと思います。余談ですが、宿泊行事は生徒の成長の場であり、教員の成長の場でもあって。生徒の就寝後に教員同士でする雑談は、加藤先生がおっしゃるように、みんなのズレを調整したり、共有したりする場でもありました。そういう面では、早くコロナ禍がおさまってほしいと思います。
― コロナ禍があったからこそ、その学校行事の目的や意義を、客観的に見直すことができているのかもしれませんね。
まとめ
「令和の日本型学校教育」では、子供の自己肯定感の醸成、そのための自立・自律の育成が肝要です。また、生徒はもちろんのこと、教員・管理職も学ぶ主体となることが、「新しい時代の学校教育の実現」につながります。それを可能にするのが、カリキュラム・マネジメントへの取り組み。育みたい子供の姿や育みたい子供の学びの姿を軸に、建学の精神やスクールミッションに基づく“基盤の整備”、教科横断的な視点やPDCAサイクルの確立といったことを学校全体で組織的に推進するカリキュラム・マネジメントが、今後一層求められるのではないでしょうか。