将来、世界で活躍できるイノベーティブなグローバル人材を育成するため、高校などと国内外の大学、企業、国際機関などが協働して、高校生に高度な学びを提供する仕組みを作る文部科学省の「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」。
【前編】に続いて今回も、2020年にWWL事業拠点校に指定された富士見丘中学高等学校(東京都渋谷区)の取り組みをご紹介します。今回は、同校のWWLにとって重要な取り組みのひとつである「模擬国連部」の活動を中心にお届けします。模擬国連部顧問の吉田成利先生(理事長補佐・校長補佐)と田中裕樹先生(広報副部長)、そして模擬国連部の生徒たちにお話を聞きました。
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学校プロフィール
学校法人富士見丘学園 富士見丘中学高等学校
1940年設立の私立女子校。女子校ならではの恵まれた環境を活かし、21世紀のグローバル社会を生きる力「グローバル・コンピテンシー」の育成に取り組んでいる。
- 文部科学省指定事業「スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)指定校」(2015-19)
- 文部科学省指定事業「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業・カリキュラム開発拠点校」(2020-22)
- 所在地
- 東京都渋谷区笹塚3丁目19番9号
- 学校HP
模擬国連
模擬国連とは、学生が各国の大使になりきり、実際の国連の会議を模擬する活動です。各大使は、会議準備として担当国や議題についてリサーチを行い、政策を立案します。会議では自国の政策をもとにそれぞれの国益を考慮しながらも、国際社会としての問題解決に貢献するために、演説や交渉を行います。
出典:グローバル・クラスルーム日本委員会HPより
学校全体に好循環をもたらす模擬国連部
2016年から活動を開始した模擬国連部は、「ジャパンメトロポリタン模擬国連大会(JMMUN 2021)」で多数の受賞者を出すなど、これまで数々の優秀な実績をおさめてきました。部設立当初は、全校生徒の約20%を占める帰国生のコミュニティとしての機能が大きかったのですが、次第に一般の生徒もその活動に関心を持ち、入部するようになったといいます。現在では、模擬国連部に入部したくて入学してくる生徒や、グローバルな視点を身に付けたいという強い希望を持って入学する一般の生徒も増えています。
2020年に同校が文部科学省の「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業・カリキュラム開発拠点校」に指定されたことを機に、模擬国連部の活動がWWLの一環に位置付けられました。そのねらいを模擬国連部顧問の吉田成利先生(理事長補佐・校長補佐)はこう語ります。
グローバル・マインドセットについては【前編】をご参照ください。
実際、模擬国連部の活動は全校生徒へよい影響を及ぼしていると、顧問のひとりである田中裕樹先生はいいます。
各国の立場で議題に向き合い、英語で話し合う
活動ステップ
Background Guide(バックグラウンドガイド):
大会で会議運営者が参加者(国)に配付する議題解説書。議題設定理由や議題に関する現状分析、会議での論点などがまとめられている。
*Position Paper(ポジションペーパー):
参加者が担当国の大使として国情や政策などをリサーチしてまとめた文書
議題についての理解を深め、英語でのパフォーマンスを高める。
各国の立場となり、英語で議論を行う。
普段の部活動では、1つのテーマにつき2週間でバックグラウンドガイドを読み、1週間でポジションペーパーを仕上げ、その後、2週間かけて話し合いを行なっていきます。テーマは、年度はじめは生徒たちが考えやすいものとし、少しずつ難度を上げていきます。また、大会前には1ヶ月半ほど時間をかけて提示されたテーマと向き合い、準備をします。
「昨年度のはじめは、『WHOの委員会としてコロナ対策をどう実施していくか』をテーマに議論を進めました。先進国と発展途上国では衛生意識がまったく異なりますし、そもそも発展途上国にはコロナ対策どころではないという情勢の国々もあります。そうした各国の立場に立って、話し合うのです。
年度の後半には、国連の小委員会として『サイバー犯罪』について議論しました。国によってITデバイスやインターネットの普及率、依存度は異なります。ITやサイバー犯罪、そして各国の状況など、多様な観点で調べ、発表資料を作る必要がありました」(田中先生)
お互いの得意分野を活かしながらペアを編成
模擬国連には、それぞれの国の立場に立つ困難さがあります。田中先生は、活動のそうした難しさと同時に手応えも感じていると語ります。
「各国の立場になって話すことは簡単なことではありません。自分の内心としてはこう思っているけれど、担当する国の立場になるとこんな施策が必要であるということを考えていかなければいけません。そのため、特に自分視点が強い子は苦しむ傾向があります。しかし、こうした経験を重ねていくと自分の頭で考え、オリジナルの言葉で表現していくことができるようになっていきます」
また、田中先生は「帰国生は英語のパフォーマンスに長けており、一般の生徒はコツコツ研究し、レポートをまとめることが得意」という特徴があるといいます。こうした生徒一人ひとりの得意不得意があることで、協働する姿勢を身につけることができると吉田成利先生は続けます。
「誰とペアを組むかは生徒たちに任せています。そうすると、必ずしも仲のよい生徒同士で組むわけではないんです。生徒たちは、『自分に足りないこの力を補ってほしい』という意識を持って組んでいるんです。そのため、模擬国連部の活動は仕事をするためのチームビルディングのような考え方を身につける体験になるのではないかと思っています。先日は、来年の大会に向けてペアを決めましたが、1年生が2年生の先輩に頼んで新チームができました」
活動を通して自己の在り方生き方を発見
部員のなかには、活動の中で得た関心や課題意識を進路に結びつけている生徒も多いと田中先生は語ります。
「テーマを深掘りしていくことで、『大学でもこの領域について学びたい』と語る生徒が増えています。推薦入試の準備で志望動機を尋ねると、『模擬国連で担当した貧困国の解決策を検討したい』『主要国としての責任を全うする施策を考えたい』といった思いを語る生徒は少なくありません」
吉田成利先生は、模擬国連部の生徒たちの成長に目を細めます。
「部活動を立ち上げた2016年から5年が経ち、部内の雰囲気も大きく変わりました。英語の上達はもちろんのこと、どう世界の諸問題に向き合うか、しかも1人ではなく協働して取り組むにはどうしたらよいかを生徒たちは真剣に考え続けています。こうした経験により、教科の枠を超えた学びを深め、自分の言葉でコミュニケーションを取れるように成長していると感じます」
部員である生徒たちはどのような感想を抱いているのでしょうか。模擬国連部の部長とキャプテンにお話を聞きました。
部長 関本さん(高校2年)
キャプテン 稲垣さん(高校2年)
記事で紹介しきれなかった模擬国連部の生徒たちの声はこちら
まとめ
富士見丘中学高等学校の生徒たちは、グローバル社会との協働的な学びを通じて多様な価値観に触れ、一人ひとりが自分の成長を実感しながら未来に向けて着実に歩んでいます。 SGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)からWWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム拠点校へと、ますます進化を続ける富士見丘中学高等学校のグローバル教育。これからも同校の取り組みや生徒たちの活躍から目が離せません。