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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 「リフレクション」の第一人者に訊く!「学習する学校」に向けての活用方法

2022.05.30
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VUCAの時代を迎えるにあたり、教育の転換が求められています。そこで今回は、新学習指導要領を核とした教育改革の狙いと期待、そしてその達成のために重要なキーとなる「リフレクション」について、21世紀学び研究所代表で、「学習する学校」の浸透を進めている熊平美香氏とJTB教育事業ソリューションセンター長の中野憲が対談を行いました。

熊平美香氏、中野憲

プロフィール

熊平美香(くまひら みか)氏

熊平美香(くまひら みか)氏

21世紀学び研究所代表理事

ハーバード大学経営大学院でMBAを取得後、2015年に21世紀学び研究所を設立し、企業と共にニッポンの「学ぶ力」を育てる取り組みを開始。経済産業省が2018年に改定した社会人基礎力の中に、リフレクションを盛り込む提案を行った。文部科学省国立大学法人評価委員会委員、文部科学省中央教育審議会委員、内閣官房教育再生実行会議 高等教育ワーキンググループ委員、経済産業省未来の教室、EdTech研究会委員などを務める。著書に、『リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『チーム・ダーウィン――「学習する組織」だけが生き残る』(英治出版)などがある。

中野 憲 (なかの けん)

中野 憲 (なかの けん)

株式会社JTB 教育事業ソリューションセンター長

国際理解教育・留学の専門企業を経て、株式会社ジェイティービー(現JTB)へ。国際交流推進室長、国際交流センター長を歴任後、現職。教育全般の高度化を目指し、商品プログラムやスキーム開発に従事。

新たな教育に向けて世界で高まるリフレクションの重要性

中野
新しい学習指導要領において、学校の位置づけが「知識・技術をインプットする場」から、「生徒の資質・能力を高めていく場」と転換されたように思います。そのために、先生方はファシリテーターやメンターであることが求められるようになりました。そういった意味で、今回の教育改革は根本的な思想を変えるものだと感じています。文科省と経産省の両方で委員を務めてきた熊平さんは、今回の改革に対してどうお考えでしょうか。
熊平

教育が変わるために、すごく大事なことはビジョンが共有されていることです。これまでは、「何のために」という目的がなく、教育の手段だけを追って学習指導要領が変わっていました。

本来教育のビジョンは、「未来の社会」と「未来の人」を考えた上で、その「未来の人を育てるにはどのような教育が必要なのか」を考えなければ描けません。今回の改革は、「2030年にこうあるべきだ」「だからこの学びが必要だ」といった対話からスタートしています。つまり、やっと教育が社会と同期し始めたと感じています。

中野
教育に対する根本的な考え方が変わったということですね。喜ばしいことですが、世界に比べると日本はその気づきに至るまでに時間がかかったように思います。
熊平

OECDでは2003年の時点で、「個人の成功」と「社会の成功」は両立しなければいけないと示していました。つまり、個人の幸福を追う教育と経済は「双子」であるはずなんです。日本では、そのことになかなか気づくことができませんでした。

「個人の成功」を実現するために必要なこととして、キーコンピテンシー(※詳細はホワイトペーパーを参照)が掲げられています。そのキーコンピテンシー育成の要となるのが、「リフレクション」であると示されているのです。

リフレクションとは何か? 対話と掛け合わせることで創造を生む

熊平氏
中野
リフレクションというと、「反省」と捉えられたり、事後の感想を書けばよいと理解されていたりする側面があります。有効なリフレクションとはどういったものなのでしょうか。
熊平
まず、リフレクションと反省は違います。反省もリフレクションも過去のことに目を向ける点では同じですが、リフレクションは「自分の内面を客観的、批判的に省みること」で、過去そのものを振り返ることが目的ではありません。振り返って、そこから学んで、次にどうするかというアクションにつなげていく。つまり、未来に向かっていくための方法です。「内省」と訳すと静的なものに感じ、躍動感を覚えにくいですが、OECDではリフレクションを「未来を創る力」と定義しているんです。
中野
なぜ、今の時代に特にリフレクションが重要となっているのでしょう。
熊平
これまで通りの社会ではなく、新たな未来を創造することが求められるようになったからです。逆にいうと、今まで通りのことをしていればよいのであれば、リフレクションは必要ないのです。「現状」と「ビジョン(ありたい姿)」があり、そのギャップを埋めるために課題解決(創造)が生まれます。人は、いきなり未来のことを考えようとしてもうまくできません。だからこそ、リフレクションが欠かせないのです。
リフレクションと対話
中野
過去を正確に分析できなければ、未来につなげていくことは難しいということですね。リフレクションをし、どのような課題解決の方法があるかに気づいていくためには他に何が必要なのでしょう。
熊平
そこで必要になるのは、「対話」です。現在、対話型の授業が重視されていますがただ話し合えばいいということではなく、リフレクションをセットにしていく必要があります。相手に自分の意見を伝えるためには、まずは自分の意見がどう形成されているのかを知らなければいけません。つまり、リフレクションを十分にできていない状態では対話は成立しないはずなのです。リフレクションにより内省し、さらに自分の「枠」を超えるような対話を経ることで、メタ認知の向上につなげていくことが可能です。

リフレクションを実行するために必要な「認知の4点セット」

中野
熊平さんのご著書『リフレクション』を読んでいて、リフレクションには多様な「型」があると実感しました。実際に、リフレクションを行うためには、まず何からスタートするとよいのでしょうか。
熊平

リフレクションには、あらゆる経験を学びに変え、自分をアップデートし続ける力があります。しかし、ただ闇雲に取り組んでも理想を実現することはできません。リフレクションの質を担保するために重要なことは、「認知の4点セット」というフレームをおさえてリフレクションをすることです。

このフレームでは、過去の出来事を、「意見」「経験」「感情」「価値観」に分けて整理し、可視化していきます。これまで「振り返りをしなさい」といった際には、「こうした方がよかった」など「意見」だけに終始しがちでした。しかし、本来「意見」は、「経験」「感情」「価値観」から結論づけられているはずなのです。

中野
このように可視化することで、自分自身を客観視することができますね。それに、意見が対立している状況だけを見て話し合うよりも、その背景までつまびらかにして対話した方がお互いの理解にもつながるはずです。

認知の4点セット

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学校現場でどうリフレクションを取り入れていくか

中野
リフレクションを学校現場に取り入れていくにはどうしたらよいのでしょうか。
熊平
大事なポイントは、「こうなりたい」というビジョンを持ち、「こうしたらできるはず」という仮説を立て、実際に行動をし、何が足りないかをリフレクションするという一連の流れです。こうした活動は、学校現場において、修学旅行や地域探究など体験型の学習で行いやすいでしょう。

なぜリフレクションが必要なのか

なぜリフレクションが必要なのか
中野
体験学習の後には、感想を書く指導をなさる学校が多いですが、そこにリフレクションの型を組み込むことで、未来につながる学びへと導いていくことができそうですね。
熊平
修学旅行などで日常とは異なる場所に行き、したことのない体験をすると、必ず想定していなかった出来事が起きます。これを振り返ることで自分自身の思考が可視化されます。さらにそのリフレクションを他者と共有することで、その差分から自己理解と他者理解につなげていくこともできます。自分の視野は限られているので、他人のレンズを借りることができるとより広く体験を意味づけられますよね。
中野
まさに個人ではなく、学校という組織で体験活動を行う意義がそこにありますね。また、リフレクションをすることで互いに信頼関係を築くことにもつながりそうです。
熊平
そうなんです、一緒にリフレクションをするとお互いのことが好きになるんです。他にも、事実と解釈を分ける学びにもつながります。何かを調べていく際には、自分なりの解釈をするものです。しかし、解釈と事実は距離があるものですよね。真実を理解しようと思ったら、自分の解釈に留まらず、みんなが拾ってきた事実をテーブルにのせてそれに目を向けていく必要があります。この活動を経ることではじめて、真実や全体像が見えてくるのです。
中野
思考を整理するロジカルシンキングにもつながる学びですね。社会に出るととても必要な力ですが、ほとんど鍛える機会がないまま大人になっているのが実情です。リフレクションは体験型学習をより効果的にするために非常に重要な手法だと感じました。

リフレクションを習慣化し、「学習する学校」へ成長する

中野 憲
中野
今後、学校の中でリフレクションを習慣化していくにはどうしたらよいのでしょう。
熊平
これからの学校は「生徒エージェンシー」の教育へと変わっていくので、先生と生徒が一緒にリフレクションをしていけるとよいと思います。

生徒エージェンシー:生徒は、よりよい社会を創造する”主体”であるという考え方

中野
教師も生徒も一緒に新しい社会に必要な力を身につけていこうということですね。
熊平

そうです、OECDや新学習指導要領にも、世の中の誰も知らない未来社会に必要な資質・能力やその育成の手法を示しています。誰もわからない未知のことに先生方は挑まなければならず、そのご苦労は大変なものだと思います。

先生方がそれを実現するために重要なことは、「学習する学校」になることです。ビジョン・ミッション・バリューを定めて、先生たちがスクラムを組んで、何のために、何に取り組んでいるのかを話し合い、それを互いに応援し合って実現する。そして、それを実行し、実現できたかどうかをリフレクションしていくことで、理想に近づいていくことができます。

中野
先生方が組織で学び合い、変わっていくことが重要なのですね。とはいえ、抵抗感があったり個人の先生の力ではなかなか学校全体が動きにくかったりします。「学習する学校」になるための第一歩は、どう踏み出したらよいのでしょう。
熊平
半信半疑でもいいので、まずは一度リフレクションをしてみてほしいと思います。例えば、先日高校で探究学習のリフレクションをしたのですが、最初の頃は「何の意味があるかわからない」と言っていた生徒もいたんです。それが体験した後には、「すごく役に立つと感じるようになった」と実感を述べていました。先生方も一度経験すればその感覚が得られるはずです。校長先生のリーダーシップが必要ですが、研修はもちろん、職員会議をリフレクションの場として機能させている学校もあります。
中野
リフレクションは、大人・子ども関係なく必要な学びの手法だと実感しました。先ほども「リフレクションを一緒にすると相手を好きになる」とおっしゃっていましたが、信頼関係のある組織づくりにも有効ですよね。これから私たちも社内外を問わず「リフレクション」、「学習する学校(組織)」についてお伝えしていきたいと考えています。

ホワイトペーパー(お役立ち資料)「学習する学校」になるためのリフレクション実践手法

今回の対談では、VUCAと言われる予測困難な時代を生きていく中で、必要とされるリフレクションについて、お話を伺いました。既にこの考え方を取り入れて、「学習する学校」への第一歩を踏み出している学校もあります。今回のホワイトペーパーでは熊平先生の著書にも記載されているワークの一部を、すぐに使えるフレームとともにご用意しました。ぜひ一度リフレクションを体験してみてください。

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