文部科学省が教員の働き方改革の推進を始めてから約4年。働き方の改善が見られた部分がある一方で、「子どもと向き合う時間が十分に取れない」「教材研究や自己研鑽の時間がない」などの課題を抱えている教員は少なくありません。
このような現状に対して、文部科学省はどのような取り組みを進めており、各自治体や学校では具体的に何をしていけば良いのでしょうか。この記事では、文部科学省の取り組みの説明とともに、働き方改革の成功事例とポイントを紹介します。
INDEX
「教員の働き方改革」とは?
文部科学省が推進する教員の働き方改革の目的は、「教師のこれまでの働き方を見直し、自らの授業を磨くとともに、その人間性や創造性を高め、子供たちに対して効果的な教育活動を行うことができるようにすること」です。
2019年から始まった教員の働き方改革の推進により、教員の在校等時間は減少しました。しかし、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」で定められている残業時間の上限である月45時間を超えて勤務しているとみられる教員は、小中学校で6~7割に上ります。
この現状を踏まえて、文部科学省は2024年度からの3年間を集中改革期間として、働き方改革、処遇改善、指導・運営体制の充実を一体的に進めていく方針を打ち出しています。
中教審が提言した“緊急的に取り組むべき施策”
中央教育審議会の質の高い教師の確保特別部会は、教員を取り巻く環境の危機的状況を踏まえ、2023年8月28日に「教師を取り巻く環境整備について緊急的に取り組むべき施策」を提言しました。国や各自治体、各学校がそれぞれの権限と責任に基づいて直ちに取り組むべき項目として、以下の3点があげられています。
- 学校・教師が担う業務の適正化の一層の推進
- 学校における働き方改革の実効性の向上等
- 持続可能な勤務環境整備等の支援の充実
それぞれの項目について詳しく説明します。
1学校・教師が担う業務の適正化の一層の推進
文部科学省が発表した「学校・教師が担う業務に係る3分類※」に基づく14の取り組みの徹底を図る必要があります。例えば、「学校行事の準備・運営」の改善に向けては前向きな姿勢を示している教員は多いものの、教員によって学校行事に係る時間にばらつきがあることが明らかになっています。負担軽減のために、準備や進行の簡素化や省力化をさらに進めるとともに、児童生徒に必要な資質・能力の育成をする観点を維持しながら精選・重点化を図ることが求められています。また、ICT環境の整備を進めつつ、クラウドツールの活用をすることで校務処理や教職員間の情報共有の効率化を推進していくことも必要とされています。
参考:文部科学省「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について (中間まとめ)」
2学校における働き方改革の実効性の向上等
保護者や地域住民の理解や協力を得ながら取り組みを進めていくために、学校運営協議会や総合教育会議では働き方改革について積極的に議題として扱うことが求められています。また、保護者からの要求に対して学校のみで応えることが難しい場合は、教員が個人で対応するのではなく、学校が組織として対応することが重要です。場合によっては、教育委員会等の行政が積極的に支援していくことも求められています。さらに、ICTを活用することで教員の勤務時間を客観的に把握するとともに、勤務時間の途中に休憩時間を適切に確保できるように取り組むことが求められています。
3持続可能な勤務環境整備等の支援の充実
教職員定数の改善を図ることで、2022年度から4年程度かけて、小学校高学年の教科担任制の実現が段階的に進められることとされています。また、教員業務支援員や学校マネジメント等の業務を専門的に支援するための人材、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等を配置することによって、学校運営や支援体制の改善を図っていく必要があります。さらに、国においては、教員の処遇改善や教員のなり手を確保するための取り組みを推進する必要があります。
教員の働き方改革の現状
なぜ今、教員の働き方改革が求められているのでしょうか?その背景には、「長時間労働による教員の疲弊」や「教員志望者の減少」などがあります。このような実態があることで、子どもたちに対して質の高い教育を施せない可能性が高まります。
詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
教員の働き方改革を推進するための2つのポイント
学校で教員の働き方改革を推進していくにあたり、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。
POINT01働き方改革の目的を確認し、業務を見直す
教員の働き方改革の目的は、「勤務時間を減らすこと」や「業務を減らすこと」ではなく、「子供たちに対して効果的な教育活動を行うことができるようにすること」です。そのためには、学校の体裁を保つために行われてきたことや前例踏襲で行われてきたことを見直し、教育活動の価値を検討することで、真に必要とされるものに精選していく必要があります。
POINT02地域や家庭と連携・協働しながら、働き方改革を推進する
教員の働き方改革を進めづらい理由の一つとして、「保護者の理解が得られない」「保護者から反対意見が出るかもしれない」などの声があります。教員の働き方改革が「教員が楽をするためだ」と捉えられてしまっては、反対意見が出る可能性はあるでしょう。大切なのは、地域や家庭との連携・協働を強化して、学校内外で子どもの生活の充実を図ることです。そのためには、教員の働き方改革が必要な理由や現状、成果などを丁寧に伝えていく必要があります。
教員の働き方改革の成功事例
全国の学校では、働き方改革に向けてどのような取り組みが行われているのでしょうか?ここでは、児童生徒の教育活動に直接関わる事例を中心に紹介していきます。
01 広島県三次市立十日市小学校 自主的な家庭学習への転換
取組内容
- 家庭学習を自主的な取組を中心にし、目的にあった最小限の量とした。
- 夏休みの作文や絵画などは、自由課題として任意で取り組むものとした。
効果
- 教職員が児童生徒の主体的な学びについて深く考えるようになった。
- 児童生徒が個々にあった学習の進め方を選ぶことができるようになった。
- 保護者への説明を実施したことにより、保護者が児童生徒の学びに興味を持つようになった。
02 山口県美祢市立秋芳中学校 定期考査の見直し
取組内容
- 年間の考査回数を減少させた。
- 小テストや日々の授業で行う評価の比重を上げ、定期テストの頻度を減らした。
- 1 学期の定期テストや中間考査をなくした。
効果
- テスト問題作成や採点、評定算出などの成績処理に費やされる時間が削減された。
- 普段から細かく生徒の学習状況を確認することで、授業の工夫が進んだ。
03 茨城県取手市立白山小学校 教職員全員で行事などの必要性を検討見直し
取組内容
- 教職員を3つのブロックに分けて、前年度の11月からすべての行事の必要性を検討。
- 「運動会の所要時間」、「持久走大会の開催場所」、「集会時のオンライン活用」の3点を見直した。
効果
- 教職員から「教材研究にあてる時間が増えた」、児童からは「一つひとつの行事に集中して取り組めるようになった」という声があがった。
参考:文部科学省「全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月改訂版)」
その他の事例は、こちらの記事でも紹介しています。
教育の質向上につながる学校行事の見直しへ “教育活動の効果測定”ツール
前述の中教審が提言した“緊急的に取り組むべき施策”の中でも、学校行事の在り方の見直しの必要性が謳われています。
多くの学校行事をコロナ禍以前のように実施することが可能となった今、単に元に戻すだけではなく、その目的や教育的価値を見直すことが働き方改革を進めていく上でも重要な観点となります。ただ、過去に実施していた学校行事を減らすことに対して、教員からは抵抗感があるという声があがっているのも事実です。学校行事の減らしづらさの背景には、教育活動の評価が教員の経験値や肌感覚によるものが中心となっており、客観的なデータを元にした評価がなされにくかったこともあげられます。
そのような課題に対して、JTBでは学校行事や探究における様々な教育活動が、生徒のコンピテンシー変容にどのような影響をもたらしたのかを可視化する教育活動効果測定システム「J’s GROW」を提供しています。
J’s GROWは、AIを活用した相互評価で生徒の気質やコンピテンシーを測定する「Ai GROW」に、活動前後での生徒の意識変容を測定するアンケートを組み合わせることによって、個々の教育活動が生徒のコンピテンシー変化に与えた影響を可視化します。学校行事の見直しだけではなく、保護者や地域の方へ教育活動を報告する際や学校の広報活動をする際にも、J’s GROWの結果をご活用いただけます。
まとめ
この記事では、文部科学省の取り組みの説明とともに、働き方改革の成功事例とポイントをお伝えしました。教員の働き方改革を進めていくことは、教員の心身の健康が保たれるだけではなく、教員不足の解消や教育の質向上など、様々な課題の解決に繋がっていきます。
そのためには、これまで行ってきた業務や教育活動を単に廃止・削減するだけではなく、教育的価値を考えた上で精選・見直しをしていくことが不可欠です。教員の働き方改革は、質の高い教育を実現するための重要なプロセスであることを忘れてはなりません。