「社内インセンティブの価値の変化と営業メンバーの意欲を高める制度のポイント」でご紹介したように、営業メンバー1人ひとりのライフスタイルや就業観を考慮したインセンティブ制度の導入が、業績アップや組織力向上につながっています。この記事では、「従業員のエンゲージメントを高めたい」「営業のモチベーションを上げたい」と考える担当者に、「インセンティブ制度」導入のメリットと組織力の強化につながる事例をご紹介します。
インセンティブ制度とは
インセンティブ制度とは、「やる気を起こさせるための外的刺激」を仕組み化したものです。これは、手当や報酬、動機付け、見返りという言葉に言い換えることもできます。企業におけるインセンティブ制度は、主に営業職などのモチベーションを高め、やる気やエンゲージメントを持続させて企業の利益につなげようとする制度で、企業と従業員の双方にとってメリットがあるものです。
ここからは、「インセンティブ制度」導入のメリットとインセンティブの種類について説明していきます。
■「インセンティブ制度」導入の3つのメリット
メリット01短いスパンで従業員のやる気を引き出すきっかけになる
企業業績と連動するボーナスとは異なり、チームや従業員に最適なサイクルで評価を設定することができます。例えば、週の成約数や月間の営業成績の場合、週や月単位で報酬が変わることになるので、短期的に従業員のやる気を起こすよい起爆剤になります。
メリット02行動が明確になる
評価する行動や具体的な指標を決めることで、目標達成のための行動が明確になります。例えば、「なりたい自分」や「理想の働き方」に対して条件を示すことで、従業員が目標を達成するモチベーションがあがります。
メリット03評価基準が明確になる
企業が評価する人材や行動を明確にすると、企業の方針を従業員に浸透させたり、採用時に「手本となる人材」として示すことができます。
■インセンティブの5つの種類
01物質的インセンティブ(成果報酬型)
営業部、不動産、プロスポーツ選手など成果に対して報酬を上乗せしていく仕組みです。お金ではなく社長賞やMVPという称号の場合もありますし、報奨旅行の場合もあります。
02評価的インセンティブ(考課・昇進)
評価することでやる気を駆り立てて、心理的な満足度を高めます。これには、褒める・期待するという心理的なもので評価をする「心理的評価」と、役職を与える(昇進やポジションを与える)という「地位的評価」の2つがあります。
03人的インセンティブ(人間関係)
上司の人間性やチームの良い雰囲気は、従業員のやる気に好影響を与えます。異動希望を出しやすくする、人材配置の意見を聞くなどの工夫で従業員のモチベーションを高めます。
04理念的インセンティブ(価値観・企業理念)
企業理念によって従業員のモチベーションを持続させることができます。「共感」からモチベーションに働きかけるので、ボランティアやNPO法人に興味がある人、社会貢献を働きがいにしている人に向いています。
05自己実現的インセンティブ(夢・希望)
仕事を通して社員が望むことを実現していくことで、やる気を持続させることができます。夢や希望、やりがいのある仕事を与えることでモチベーションを高めることができ、特に若い社員に有効です。
多くの企業が採用している「インセンティブ制度」は、個人の年間目標値を設定し業績に応じて通常の賞与に上乗せする物質的インセンティブ(成果報酬型)です。また年間以外のインセンティブとして、週間売上の目標達成や月間売上の目標達成など短いスパンで社員の意欲を刺激するものもあります。
モチベーションを上げる施策の柱は2つ
JTBコミュニケーションデザインのワーク・モチベーション研究所では、インセンティブ制度を導入する企業の営業担当者1,030人を対象に「ごほうびとモチベーションに関する調査」を行いました。その調査結果によると、ワークライフバランスという「働きやすさ」と、周囲から認められることで生まれる「働きがい」が、従業員のモチベーションを上げることがわかりました。また、実際にごほうび施策として実施されるインセンティブについて聞いたところ、その報酬内容としては「報奨金・現金」が約70%、「表彰式やパーティー」が約60%となっています。
また、インセンティブを「受賞したい」「どちらかと言えば受賞したい」と思う人の合計が全体の90%という結果になりました。
引用元:「ごほうびとモチベーションに関する調査」発表|JCD NOW!|株式会社JTBコミュニケーションデザイン
以上のことから、従業員のモチベーション向上や意欲創出の観点では、ワークライフバランスの実現とがんばりの評価につながるインセンティブ施策は有効であることがわかります。社内インセンティブについてご紹介した記事でもお伝えしたとおり、従業員のインセンティブに対する価値観が変わってきています。そのため「社員の気持ち(価値観)」に寄り添うインセンティブを実施することが、大きなカギとなるでしょう。
社員の気持ちに寄り添うインセンティブの事例
企業はどのようなインセンティブ制度を実施しているのか、いくつかの事例を業界別に紹介します。
事例01営業活動のプロセスにポイントを付与するインセンティブ
製薬メーカーA社の事例
これまで売上を基準にした報奨制度を設けていましたが、報奨対象者が偏ってしまい組織全体のモチベーションが低下してしまいました。その結果、売上にも影響し、数字が伸び悩むという課題が浮き彫りに。
さらに女性営業メンバーの増加やコロナ時代による営業のアプローチ方法が多様化したことで、自由度が高く、選択肢の多い報奨が求められるようになりました。
そこで、新たに売上金額に加え、営業のプロセスに対してもポイントを付与する制度を構築。個人だけでなくチームでの取り組みも報奨の対象とするポイント付与基準を導入しました。
例えば、「個人向け年間売上達成MVP 100,000 ポイント」や「全国売上1位チーム賞(1人につき) 20,000ポイント」「月間売上達成MVP15,000ポイント」「ホスピタリティー部門特別賞(1人につき) 10,000ポイント」「業務改善提案(1案件につき)1,000ポイント」などです。いずれもポイントの有効期限を付与から3年に設定しています。
その結果、売上に加え、活動プロセスも報奨対象とすることで報奨対象者が増加。チーム力強化による組織の底上げが図られ、生産性の向上が実現しました。具体的には、営業職全体のパフォーマンスが向上し、さまざまなアイデアが提案される職場環境を醸成することができました。
事例02「モノよりコト」お金には代えがたい体験を...選べるインセンティブ
IT/システム関連B社の事例
評価期間内で高い評価を得た社員に対して、金銭的なインセンティブとは別に『選べるインセンティブ』を付与しています。お金には代えがたい体験をメニュー化し、その中から選択してもらうかたちです。ラインアップは、社員のニーズに応じて毎年改善。利用率の高かったものは継続するとともに、毎年、新しいものも追加しています。
例えば、「研修・イベント参加」。社外の有料の研修やイベントに参加できるというものです。外部の研修は自己負担で参加するには金額が高いものが多いため社員にも好評です。「ランチオーナー」というメニューは、権利を取得した社員が、他の社員を誘ってランチに行く際の費用を負担するもの。社員間のコミュニケーション促進にも役立っています。またプロジェクトや部署を問わず役職や業務を1日体験できる「社内インターン」というメニューもあります。今の業務以外の仕事を知ることで、社員自身のキャリア形成につながっています。
事例03社員の自発的取り組みを評価するインセンティブ
自動車部品メーカーC 社の事例
自動車業界は100年に1度のパラダイムシフトと言われる大きな変革期を迎えています。これまで培ってきた会社の強みを活かしつつ、仕事の進め方や発想を変えていかねば立ち行かなくなるという危機感がある中で、働き方改革を根底にした新しい取り組みが求められていました。会社が向かうべき方向に社員自らが進むために取り入れたのが『応援金制度』です。社員1人ひとりが気づき、意識を変えるためのきっかけづくりが狙いです。
この応援金制度は、例えば月4日以上、8000歩以上歩いた社員や健康メニューを食べた社員、オンライン講座を終了した社員へ奨励金を支給するというものです。
「健康」に着目したのは、企業成長の土台には心身ともに健康な従業員がいてこそだと考えたからです。また「学び」は、異業種参入が増える中、自分たちにはどういった専門性や技術が求められているのかを理解し、自分たちのポジションを知ることが大切だと考えたからです。この2つは社員に理解してほしい「会社の考え」です。
まとめ
働く意欲を劇的に高めるならインセンティブの導入が効果的!
働き方が大きく変わる中、社会や従業員の価値観も刻々と変化しています。それに応じ、インセンティブ制度のあり方もアップデートが必要な時代に突入しています。営業活動のマンネリ化やモチベーション低下といった課題を抱える企業は、現在のインセンティブが効果的に運用されていないケースがほとんどです。企業の成長に必要な優秀な人財を定着させるためにも、これまで実施してきたインセンティブの見直しをおすすめします。社員のエンゲージメントを高めるためには、社員の価値観やライフスタイル、企業のありたい姿を反映したインセンティブ制度を構築することがポイントです。ぜひ、この機会に既存のインセンティブ制度を見直し、新たな制度を構築してみてはいかがでしょうか。