営業戦略の一環として、インセンティブ制度を導入する企業が増えています。本記事は、インセンティブ制度の種類やメリットだけでなく、多くの企業がつまずきがちな『導入で陥りがちなデメリット』や『制度設計の具体的な手順』まで踏み込んで解説する、人事・営業マネジメント担当者のための完全ガイドです。

インセンティブ制度とは
インセンティブ制度とは、「やる気を起こさせるための外的刺激」を仕組み化したものです。これは、手当や報酬、動機付け、見返りという言葉に言い換えることもできます。企業におけるインセンティブ制度は、主に営業職などのモチベーションを高め、やる気やエンゲージメントを持続させて企業の利益につなげようとする制度で、企業と従業員の双方にとってメリットがあるものです。ここからは、インセンティブ制度導入のメリットやデメリット、そしてインセンティブの種類について説明していきます。
営業戦略におけるインセンティブ制度導入の3つのメリット
メリット01短いスパンで従業員のやる気を引き出すきっかけになる
企業業績と連動するボーナスとは異なり、チームや従業員に最適なサイクルで評価を設定することができます。例えば、週の成約数や月間の営業成績の場合、週や月単位で報酬が変わることになるので、短期的に従業員のやる気を起こすよい起爆剤になります。
メリット02行動が明確になる
評価する行動や具体的な指標を決めることで、目標達成のための行動が明確になります。例えば、「なりたい自分」や「理想の働き方」に対して条件を示すことで、従業員が目標を達成するモチベーションがあがります。
メリット03評価基準が明確になる
企業が評価する人材や行動を明確にすると、企業の方針を従業員に浸透させたり、採用時に「手本となる人材」として示すことができます。
要注意!インセンティブ導入で陥りがちな3つのデメリットと対策例
デメリット01個人プレーの横行とチームワークの崩壊
インセンティブ制度は成果を重視するため、過度な成果主義に偏ると営業担当者が「自分の数字だけ」を追いかける傾向が強まります。その結果、情報共有や協力体制が希薄になり、組織全体のパフォーマンスが低下するリスクがあります。
対策例として、個人目標だけでなく、チーム目標達成インセンティブを併用しましょう。チーム全体で達成した場合に追加報酬や特典を付与することで、協力意識を高め、健全な競争と連携を両立できます。
デメリット02評価基準の形骸化と不公平感の増大
評価基準が曖昧だと、インセンティブ制度が逆効果になり、社員の不満や不信感を招きます。「何を達成すれば報酬が得られるのか」が不明確だと、モチベーションどころか離職リスクが高まります。
対策例として、成果だけでなくプロセスも評価対象にすることが重要です。例えば「新規顧客訪問件数」「提案書提出数」など、行動指標を評価に組み込むことで、努力が正しく報われる仕組みを構築できます。
デメリット03モチベーションの"金銭依存"と持続性の欠如
金銭的インセンティブは即効性がありますが、長期的には効果が薄れ、報酬額のエスカレートを招く恐れがあります。結果として「お金がもらえないならやらない」という依存状態に陥る危険性があります。
対策例として、非金銭的インセンティブを組み合わせましょう。例えば「旅行や体験型報酬」「スキルアップ研修」「社内表彰」など、成長機会や承認を与える施策を取り入れることで、モチベーションの持続性を高められます。
インセンティブの5つの種類
01物質的インセンティブ(成果報酬型)
営業部、不動産、プロスポーツ選手など成果に対して報酬を上乗せしていく仕組みです。お金ではなく社長賞やMVPという称号の場合もありますし、報奨旅行の場合もあります。
02評価的インセンティブ(考課・昇進)
評価することでやる気を駆り立てて、心理的な満足度を高めます。これには、褒める・期待するという心理的なもので評価をする「心理的評価」と、役職を与える(昇進やポジションを与える)という「地位的評価」の2つがあります。
03人的インセンティブ(人間関係)
上司の人間性やチームの良い雰囲気は、従業員のやる気に好影響を与えます。異動希望を出しやすくする、人材配置の意見を聞くなどの工夫で従業員のモチベーションを高めます。
04理念的インセンティブ(価値観・企業理念)
企業理念によって従業員のモチベーションを持続させることができます。「共感」からモチベーションに働きかけるので、ボランティアやNPO法人に興味がある人、社会貢献を働きがいにしている人に向いています。
05自己実現的インセンティブ(夢・希望)
仕事を通して社員が望むことを実現していくことで、やる気を持続させることができます。夢や希望、やりがいのある仕事を与えることでモチベーションを高めることができ、特に若い社員に有効です。
多くの企業が採用しているインセンティブ制度は、個人の年間目標値を設定し業績に応じて通常の賞与に上乗せする物質的インセンティブ(成果報酬型)です。また年間以外のインセンティブとして、週間売上の目標達成や月間売上の目標達成など短いスパンで社員の意欲を刺激するものもあります。
営業戦略に沿ったインセンティブ制度設計 5つのステップ
Step 1 目的の明確化 - 何のために導入するのか?
インセンティブ制度を成功させる第一歩は、導入目的を明確にすることです。
「売上120%達成」「新規顧客獲得数+30%」「営業利益率5%改善」など、SMART(具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限)な目標設定を行いましょう。目的が曖昧だと、制度が形骸化し、モチベーション向上につながりません。
Step 2 対象者と期間の設定 - 誰に、いつ?
次に、インセンティブの対象者と期間を決めます。
個人かチームか、新人かエースか、目的に応じて設定を変えることが重要です。期間も「月次」「四半期」「年次」など、営業戦略に合わせて柔軟に設計しましょう。短期目標は即効性を、長期目標は持続性を高めます。
Step 3 評価指標の決定 - 何を評価するのか?
評価指標は、結果指標(売上、契約数)と行動指標(訪問数、提案数、CRM入力率)を組み合わせるハイブリッド型がおすすめです。
結果だけでなくプロセスも評価することで、努力が正しく報われ、営業担当者の納得感が高まります。
Step 4 報酬(インセンティブ)の設計 - 何で報いるのか?
報酬設計では、「インセンティブの5つの種類」を活用します。金銭的報酬(成果報酬、ボーナス)と非金銭的報酬(表彰、キャリア機会、旅行など)のバランスが重要です。
例えば、報酬マトリクスを作成し、「短期成果には金銭」「長期貢献には成長機会」といった組み合わせを検討しましょう。
Step 5 告知・運用・改善 - どう育てるか?
制度は設計して終わりではありません。
社内への効果的な周知(説明会、イントラネット)、効果測定のフレームワーク(PDCA)、そして定期的な見直しが不可欠です。営業環境や市場変化に応じて制度をアップデートし、常に最適な状態を維持しましょう。
社員の気持ちに寄り添うインセンティブの事例
企業はどのようなインセンティブ制度を実施しているのか、いくつかの事例を業界別に紹介します。
事例01 営業活動のプロセスにポイントを付与するインセンティブ
製薬メーカーA社の事例
これまで売上を基準にした報奨制度を設けていましたが、報奨対象者が偏ってしまい組織全体のモチベーションが低下してしまいました。その結果、売上にも影響し、数字が伸び悩むという課題が浮き彫りに。
さらに女性営業メンバーの増加や営業のアプローチ方法の多様化により、自由度が高く、選択肢の多い報奨が求められるようになりました。

そこで、新たに売上金額に加え、営業のプロセスに対してもポイントを付与する制度を構築。個人だけでなくチームでの取り組みも報奨の対象とするポイント付与基準を導入しました。
例えば、「個人向け年間売上達成MVP 100,000 ポイント」や「全国売上1位チーム賞(1人につき) 20,000ポイント」「月間売上達成MVP15,000ポイント」「ホスピタリティー部門特別賞(1人につき) 10,000ポイント」「業務改善提案(1案件につき)1,000ポイント」などです。いずれもポイントの有効期限を付与から3年に設定しています。
その結果、売上に加え、活動プロセスも報奨対象とすることで報奨対象者が増加。チーム力強化による組織の底上げが図られ、生産性の向上が実現しました。具体的には、営業職全体のパフォーマンスが向上し、さまざまなアイデアが提案される職場環境を醸成することができました。
事例02 「モノよりコト」お金には代えがたい体験を...選べるインセンティブ
IT/システム関連B社の事例
評価期間内で高い評価を得た社員に対して、金銭的なインセンティブとは別に『選べるインセンティブ』を付与しています。お金には代えがたい体験をメニュー化し、その中から選択してもらうかたちです。ラインアップは、社員のニーズに応じて毎年改善。利用率の高かったものは継続するとともに、毎年、新しいものも追加しています。
例えば、「研修・イベント参加」。社外の有料の研修やイベントに参加できるというものです。外部の研修は自己負担で参加するには金額が高いものが多いため社員にも好評です。「ランチオーナー」というメニューは、権利を取得した社員が、他の社員を誘ってランチに行く際の費用を負担するもの。社員間のコミュニケーション促進にも役立っています。またプロジェクトや部署を問わず役職や業務を1日体験できる「社内インターン」というメニューもあります。今の業務以外の仕事を知ることで、社員自身のキャリア形成につながっています。
事例03 社員の自発的取り組みを評価するインセンティブ
自動車部品メーカーC 社の事例
自動車業界は100年に1度のパラダイムシフトと言われる大きな変革期を迎えています。これまで培ってきた会社の強みを活かしつつ、仕事の進め方や発想を変えていかねば立ち行かなくなるという危機感がある中で、働き方改革を根底にした新しい取り組みが求められていました。会社が向かうべき方向に社員自らが進むために取り入れたのが『応援金制度』です。社員1人ひとりが気づき、意識を変えるためのきっかけづくりが狙いです。
この応援金制度は、例えば月4日以上、8000歩以上歩いた社員や健康メニューを食べた社員、オンライン講座を終了した社員へ奨励金を支給するというものです。
「健康」に着目したのは、企業成長の土台には心身ともに健康な従業員がいてこそだと考えたからです。また「学び」は、異業種参入が増える中、自分たちにはどういった専門性や技術が求められているのかを理解し、自分たちのポジションを知ることが大切だと考えたからです。この2つは社員に理解してほしい「会社の考え」です。
まとめ
働く意欲を劇的に高めるならインセンティブの導入が効果的!
働き方が大きく変わる中、社会や従業員の価値観も刻々と変化しています。それに応じ、インセンティブ制度のあり方もアップデートが必要な時代に突入しています。営業活動のマンネリ化やモチベーション低下といった課題を抱える企業は、現在のインセンティブが効果的に運用されていないケースがほとんどです。企業の成長に必要な優秀な人材を定着させるためにも、これまで実施してきたインセンティブの見直しをおすすめします。社員のエンゲージメントを高めるためには、社員の価値観やライフスタイル、企業のありたい姿を反映したインセンティブ制度を構築することがポイントです。ぜひ、この機会に既存のインセンティブ制度を見直し、営業戦略に組み込んでみてはいかがでしょうか。
