インセンティブ制度は、社員のがんばりを称えることで、従業員のモチベーションや満足度の向上、そして企業全体の業績アップにつなげるものです。導入・運用にあたってのポイントは、さまざまな人に配慮した制度設計にすることです。もし、そうでなければ、社員のモチベーションを逆に低下させてしまう可能性があります。そこで本記事では、社員のモチベーション向上に効果的なインセンティブ制度と運用のポイントについてご紹介します。
代表的な3つのインセンティブ制度
インセンティブ制度と聞くと報奨金のイメージが強いですが、社員表彰や旅行、記念品の授与、役職に就けるなど、金銭以外の報酬を用意している企業も数多くあります。その中でも今回は代表的な3つの制度ついてご紹介します。
01仕事の成果に応じて賞与が変動する「変動賞与制度」
変動賞与制度とは、仕事の成果に応じて賞与が変動する制度です。そのため、売上に貢献した社員に対して賞与が多く支給されます。JTBの調査※では、報奨金を支給する企業が最も多いことがわかりました。
JTBコミュニケーションデザイン ワーク・モチベーション研究所「ごほうびとモチベーションに関する調査」(2020年5月)より
02成果だけでなくプロセスも評価の対象にする「表彰制度」
表彰制度は金銭的な報酬ではなく、承認や感謝に重きを置いた制度です。表彰制度の対象者は、売上以外の理由で選ばれることもあります。代表的な例としては、勤続年数や業務改善・効率化への貢献などです。成果だけでなくプロセスも評価の対象に含めれば、バックオフィス部門や経験の浅い若手社員のモチベーションアップも期待できます。
03リーダーとして活躍できる「リーダー登用制度」
リーダー登用制度は、年齢や勤労年数にかかわらずリーダーとして活躍できる制度です。リーダーになることは、「自分の能力が認められることにより、承認欲求が満たされる」「他の社員から一目置かれる存在になる」「メンバーを統率する経験ができる」などのメリットがあり、このメリットが受賞者にとってのインセンティブになります。
種類 | 特徴 | 主な対象者 |
---|---|---|
変動賞与制度 | 仕事の成果で賞与が変動する | 売上など成果を出した社員 |
表彰制度 | 数字に表れにくい成果に対して表彰しやすい | ・勤続年数が長い社員 ・接客に対するお客様の評価が高い社員 ・業務改善に貢献した社員 |
リーダー登用制度 | 勤続年数や年齢にかかわらずプロジェクトのリーダーに抜擢する | 会社の成長に寄与するプロジェクトを提案した社員 |
ポイントは、「多くの社員にチャンスがあること」と「社員自ら行動したくなる目標設定」
インセンティブ制度にはさまざまな形がありますが、重要なのは「多くの社員にチャンスがある制度にすること」です。導入の際には、不平等感が出ず、他者と比較をしない絶対評価を取り入れるのもおすすめです。また営業サポート部門など、数値では評価しにくい部署のために、部門毎の表彰カテゴリーを設けるのも有効な手段です。
また上司による評価のみで判断するのではなく、社員自身に目標を立てさせ、その達成状況を自分で評価する制度にするのも効果的です。 社員が自分の意志で目標達成を目指すようになれば、より高い成果が得られます。さらに、自分で成果を振り返ることで自分自身を褒めるきっかけにもなり、仕事へのモチベーションもさらにアップすることが期待できます。
仮に成果を出せなかった場合でも、自分で目標を決めて評価をするので納得感も上がります。むしろ、悔しい気持ちから一念発起して、次年度以降に大きな成果を出せるかもしれません。
各制度の導入・運用のポイント
01変動賞与制度
変動賞与制度は、一般的な賞与のように会社の業績と連動するとは限りません。個人のがんばりを評価しやすいため、売上拡大をミッションとする営業職に適している制度だと言えます。
変動賞与制度の導入例
変動賞与制度を導入している企業は、不動産業や自動車販売業、保険業、美容系(美容師、エステサロン)などに代表されます。導入している多くの企業が以下のような基準でインセンティブを設定しています。
- 一定の契約件数や売上金額
- 会社の決めた目標達成率
契約件数や売上に対しての変動賞与の場合、1件の成約で●円、売上の●%といった基準が一般的です。また、半期や四半期ごとに会社側が設定した目標達成率により賞与が変動する仕組みを採用している企業もあります。どちらの場合も、成績が優秀な社員とそうでない社員では支給額に大きな差が出る可能性があります。
02表彰制度
表彰制度は、営業職以外の社員も対象にしやすいのが特徴です。表彰制度のメリットは4つあります。
- 表彰された社員のモチベーションが上がりやすい
- 全社員に対して企業が理想とする社員像を伝えられる
- 多くの社員の前で讃えられる
- 非受賞者のモチベーションも上がる
表彰制度では、受賞者を表彰する社内イベントを実施するのがポイントの1つです。他の社員の前で表彰されることで、自身の行動を会社が認め、他の社員からも尊敬されている感覚を味わうことで、受賞者のモチベーションをさらに高めることができます。さらに、他の社員に対しても効果があります。「自分もあの人のように」と一念発起しやすく、社員全体のモチベーションの底上げにつなげることができます。
大手コンビニエンスストアA社が成功した表彰制度とは?
表彰制度を導入し成功している企業の1つが大手コンビニエンスストアA社です。A社では、『自律型挑戦大賞』と呼ばれる社員の自発的なチャレンジを表彰する制度を設けています。この制度は、A社の全社員がエントリー可能で、優秀な事例については全社員参加の席で表彰され、チャレンジ内容を発表します。また、成果だけではなく以下のようなプロセスや仕事に対するスタンスも評価されます。
- 自分から周囲を巻き込んで動いたか
- 慣習や慣例にとらわれない発想や工夫があるか
- ほかの社員や組織の業務改善や成長につながる取り組みか
2015年に開催された『自律型挑戦大賞』は、全社員の3割がエントリーするなど大成功を収めました。表彰制度を導入する際は、受賞者と非受賞者が以下のように感じられる仕組みが必要です。
- 受賞者が「人の役にたった・感謝された・尊敬された」と感じるようなプログラム
- 非受賞者が「次は自分もできるはず」と感じるようなプログラム
大手コンビニエンスストアA社の例は、受賞者だけでなく非受賞者のモチベーションも上げたことが大きな特徴です。
03リーダー制度
リーダー制度は、リーダーになれるチャンスが誰にでもある制度設計にすることが重要です。例えば、新規事業プロジェクトの募集の場合、応募対象者を絞らず全社員にしたり、社員1名でも応募可能にするなど、門戸を広くすることがポイントになります。また、リーダーという役職だけではなく、特別手当や成果報酬などのインセンティブを併用するのも効果的です。リーダーになることで、チームやプロジェクトのリーダーとして業務により深く関わることができたり、任される仕事の範囲が広がったりと権限と責任が増します。その結果、社員が、自分から社員を引っ張るようになったり、さらに新しい提案をするなど自発的なアクションに変わる可能性があります。
まとめ
今回は、インセンティブ制度の3つの制度について、その概要と運用のポイントをご紹介しました。コロナ禍によりテレワークが増え、社員間のコミュニケーションが減っただけではなく、社員と企業のコミュニケーションも少なくなりました。その結果、社員の帰属意識は低下していると言われています。だからこそ、社員を讃え、感謝する機会が一層重要になってきます。インセンティブ制度は、企業が多くの社員とコミュニケーションをするチャンスとも言えます。売上を上げた社員のみを評価するのではなく、表彰制度やリーダー制度なども導入し、できるだけ多くの社員にチャンスがある制度にすることが、ニューノーマル時代のインセンティブ制度の形なのではないでしょうか。皆さまも自社のインセンティブ制度について見直しを検討してみてはいかがでしょうか。