会社案内は企業情報を並べた冊子ではなく、価値観やビジョンを伝え、信頼と共感を生むコミュニケーションツールです。しかし実際には情報を詰め込みすぎてしまい、自社の魅力が伝わらない資料になってしまうケースも少なくありません。たとえば「営業現場で使われない」「学生に刺さらない」「競合と横並びに見られてしまう」といった悩みは、多くの担当者が抱える課題です。
本記事では、会社案内を「企業の未来を動かす戦略ツール」へと変えるため、目的設計から構成・デザイン・制作・費用・活用方法までを体系的に解説します。新しい会社案内の可能性とあわせ、「選ばれる会社案内」の作り方を具体的に紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

会社案内とは?企業価値を伝え、信頼を生む戦略ツール

会社案内は単なる情報を羅列したパンフレットではなく、企業の「本当の価値」を定義し、株主や従業員、顧客などの利害関係者を動かすための戦略ツールです。営業・採用・社内エンゲージメントという3つの目的に共通する本質的な役割と、現代企業における重要性を解説します。
会社案内と会社概要・サービス資料はどう違う?
「会社概要」と「会社案内」は、似ているようで役割が明確に異なります。会社概要が「情報を伝える」ツールであるのに対し、会社案内は企業の「物語を伝え、意味を共有する」唯一無二のツールです。
単なるスペックの提示にとどまらず、創業の想いやビジョンといった「温度感」のある情報を届けることで、読み手との間に心理的なつながりを生み出します。企業の存在意義や価値観といった目に見えない資産を可視化し、ステークホルダーからの深い共感を呼び起こすことができるのです。
なぜ今、会社案内が改めて注目されているのか
Webで情報が手軽に手に入る時代だからこそ、企業の姿勢や信頼性・人間味の伝わる媒体として、「会社案内」の価値が高まっています。デジタル上の情報は断片的になりがちですが、会社案内は一冊を通じて、体系的に企業の姿勢を伝えることができます。
実際に、採用や営業の現場、さらには社内浸透においても、その効果が再評価されています。応募者への動機付けや顧客との信頼関係の構築、そして社員への理念浸透など、人と企業をつなぐコミュニケーションの起点として、改めて評価されています。
紙の会社案内は時代遅れ?
「今はすべてデジタルの時代だから」と思われがちですが、紙の会社案内には、Webでは代替できない強みがあります。それは、紙の質感や装丁を通じて、伝わりにくい「企業の世界観や信頼感」を手触りとともに届けられる点です。
手元に届く「Push型ツール」である紙媒体は、相手の手元に物理的に残るという特徴があります。興味喚起やブランドイメージ訴求は紙で行い、詳細な情報収集はWebへ誘導するといったように、デジタルと組み合わせることで、より深い理解まで導く効果的なコミュニケーションが可能になります。
会社案内の3つの主要目的と活用シーン
会社案内は「誰に」「何のため」に使うのかによって、構成も伝え方も変わります。営業・採用・社内エンゲージメントという3つの目的に応じた活用方法と、成果につながる見せ方のポイントを解説します。
営業活動を加速させる会社案内

採用成功に導く会社案内

社内エンゲージメント向上につながる会社案内

会社案内の作り方|成果につながる7つのステップ

ここでは、課題認識から効果測定まで、成果を出すための7つのステップを詳しく解説します。
ステップ1 課題と目的を明確にする
制作を始める前に、「何を作るか」よりも「なぜ作るのか」を徹底的に掘り下げることが最優先です。ここが曖昧なままだと、どれだけ見栄えがいい冊子を作っても、期待する成果にはつながりません。
「経営方針が変わったため」「採用に課題があるため」「営業ツールが古く、成約率が伸び悩んでいるため」など、会社案内が必要となった背景を言語化しましょう。目的が明確になることで、後の工程でのブレがなくなり、プロジェクトがスムーズに進みます。
ステップ2 ターゲットと伝えるべき価値を定める
次に、誰に向けて届けるのかを具体的に定めます。採用候補者なのか、新規の取引先なのか。あるいは既存の社員なのか。ターゲットを明確にし、その相手が今、どのような期待や課題を抱えているのかを深く理解することが大切です。
そのうえで、現状から理想の姿へと相手を導くために、自社が提供できる「価値=メッセージの核」を設定しましょう。相手にとってのメリットや解決策を提示することで、初めて「自分事」として読んでもらえる資料になります。
ステップ3 掲載コンテンツと情報構成を設計する
メッセージが決まったら、それを伝えるためのコンテンツを設計します。ここでは、企業理念や事業内容などの「信頼を担保する情報」と、社員の声や働く環境といった「共感を生む情報」を、バランスよく組み合わせることがポイントです。
情報の並べ方も重要です。目的やターゲットに合わせて、「どの情報をどの順番で配置するか」を戦略的に組み立てます。例えば営業用なら実績を先に、採用用なら理念を先に持ってくるなど、読み手の心理に合わせたストーリー設計が、納得感を高めます。
ステップ4 仕様・デザインの方向性を決める
会社案内の形状には、中綴じ冊子、ポケットホルダー型、折り加工など、さまざまな選択肢があります。これらは単なる見た目の違いではなく、使う場面やコスト、伝えたい印象などによって最適解が変わります。
例えば、情報の更新頻度が高いなら差し替え可能なホルダー型、世界観をじっくり伝えたいなら冊子型といった使い分けが考えられます。どのような場面で渡され、どのように読まれるかをシミュレーションし、予算とのバランスを見ながら仕様とデザインコンセプトを固めましょう。
ステップ5 制作体制を選ぶ(自社制作か外部委託か)
制作を進めるにあたり、自社で内製するか、外部の制作会社へ依頼するかを検討します。それぞれにメリット・デメリットがあり、コストや品質、社内のリソース、求めるクオリティに応じた判断が必要です。
自社制作はコストを抑えられますが、クオリティの限界や担当者の工数負担が課題になることもあります。一方、外部委託はプロの品質が期待できますが、相応の費用がかかります。求める完成度や納期、予算を総合的に判断し、稟議を通すための根拠を整理しておくとスムーズです。
ステップ6 取材・原稿作成・デザイン制作を進める
構成と体制が決まったら、いよいよ実制作に入ります。定めたメッセージをもとに取材や撮影を行い、原稿とデザインに落とし込んでいきましょう。ここで重要になるのが、読み手の心を動かすクリエイティブの「質」です。
単なる説明的な文章やフリー素材の写真ばかりでは、企業の熱量は伝わりません。プロのコピーライターによる共感を呼ぶコピーや、現場の空気を切り取ったオリジナル写真など、細部の表現にこだわることで、会社案内の完成度と説得力が格段に高まります。
ステップ7 活用方法と効果測定まで設計する(作って終わりにしない)
会社案内は「完成して終わり」ではありません。営業担当者が商談でどう使うか、採用イベントでどう配布するかなど、制作後の配布方法や活用シーンまで計画に落とし込むことが重要です。
また、「作りっぱなし」を防ぐために、効果測定の仕組みも入れておきましょう。アンケートやQRコードからのアクセス数などをKPI(重要業績評価指標)に定めて反応を可視化し、次回の改訂に活かせるサイクルを作ります。常に改善・更新できる仕組みにすることで、会社案内はより強力なツールへと育っていきます。
盛り込むべき基本コンテンツと構成要素

効果的な会社案内には、信頼を生む「必須情報」と、企業らしさを伝える「差別化情報」の両方が必要です。ここでは各コンテンツの役割と作成ポイントを、実践的かつ優先度の高い順に整理します。
必須項目1.会社概要・企業理念・沿革
企業の基本情報は、単なるデータとして掲載するのではなく、「意味のある情報」として伝えることが重要です。単なる数字や事実の羅列だけでは、読み手の印象に残りづらいためです。
特に企業理念(MVV:ミッション、ビジョン、バリュー)は、美しい言葉を並べるだけでなく、「なぜその理念を掲げているのか」という創業の経緯や具体的なエピソードも添えましょう。背景にあるストーリーを語ることで信頼感と共感につなげましょう。
必須項目2.事業内容・サービス紹介
事業内容の説明では、専門用語の多用を避け、図解やフレームワークを用いて直感的に分かりやすく伝える工夫が必要です。「誰に・何を・どのように」価値提供しているかをシンプルに見せましょう。
また、単なる自社の説明にとどまらず、「競合他社と何が違うのか」や「自社独自の強みは何か」を明確に伝えることも重要です。顧客や求職者が数ある企業の中から自社を選ぶべき「理由」を提示することで、比較検討の土俵で有利に立つことができます。
必須項目3.代表メッセージ・ビジョン
社長挨拶は、形式的な文章で終わらせないことが重要です。企業の未来像や社会に対する姿勢、そして「なぜこの事業に情熱を注いでいるのか」を力強く語る「意志のメッセージ」であるべきです。
読み手の心に響かせるためには、堅苦しい文章よりも、ストーリー形式やインタビュー形式を採用するのも一つの手です。代表者の人柄や熱量がより伝わる形を選ぶことで、自社のビジョンがより鮮明にイメージされ、読者の心に届きます。
差別化要素1.社員インタビュー・職場環境
「人」の魅力は、企業文化や社風を伝えるための最強のコンテンツです。社員の声や働く姿は、読み手が自分を投影しやすく、親近感を抱くきっかけになります。
1日の仕事の流れを写真付きで紹介したり、社員の本音を引き出すインタビューを掲載したりすることで、「どんな人が・どんな想いで働いているか」を可視化しましょう。職場のリアルな雰囲気が伝われば、入社後のミスマッチを防ぐ効果も期待できます。
差別化要素2.地域・社会とのつながり
企業を「単なる職場」ではなく、「地域の一員」として見せることも、差別化につながります。SDGsへの取り組みや地域貢献活動、その土地ならではの暮らしの魅力などを発信しましょう。
働くことは、暮らすことと密接に関わっています。オフィスの周辺環境や地域の魅力をあわせて紹介することで、「ここで働き、暮らすこと」の豊かさをイメージしてもらえます。これは採用ブランディングとして特に有効で、企業のブランド価値の向上にも寄与します。
制作費用の相場と予算計画の立て方

会社案内の費用は、制作方法や仕様によって大きく変わります。予算内で最大の効果を出すための考え方を見ていきましょう。
デザイン制作会社に依頼する場合の費用内訳と相場
制作会社に依頼する場合、費用は主に「企画構成費」「デザイン費」「撮影・取材費」「印刷・加工費」などで構成されます。見積もりを取る際は、総額だけでなく各工程の内訳を理解しておくことが重要です。
例えばページ数が増えればデザイン費や印刷費が上がり、特殊な加工を加えればコストは増します。どこにお金をかけ、どこを削れるかを判断するためにも、項目ごとの相場感や追加費用が発生しやすいポイントを理解しておくと安心です。
自社制作と外部委託のどちらを選ぶべきか
自社制作は、テンプレートやクラウドツールを使えばコストを抑えやすく、スピーディに形にできます。しかし独自性やクオリティの確保が難しく、担当者の業務負担が増えることも課題になりがちです。
一方、外部委託はプロによる高品質な仕上がりが期待でき、客観的な視点での企画提案も受けられますが、その分費用が高くなります。予算や社内リソース、納期、そして何より「達成したい目標の重要度」を天秤にかけ、最適な体制を選びましょう。
投資利益率(ROI)を最大化するための考え方
会社案内の制作費は、単なるコスト(経費)ではなく、将来の利益を生むための「投資」として捉えることが重要です。かけた費用に対して、どれだけの成果がかえってくるかという「投資利益率(ROI)」の視点を持ちましょう。
「営業成約率の向上」「採用コストの削減」「定着率の改善」など、具体的なKPIを設定し、経営層に説明できるようにします。目標達成に寄与するツールとして位置づけることで、適切な予算配分や戦略的な運用が実現します。
よくある失敗と対策

会社案内は「作れば終わり」の制作物ではなく、目的・活用・更新までを見据えたプロジェクトです。ここでは、ムダなく成果につながる会社案内を実現するために、よくある失敗とその防ぎ方を紹介します。
失敗1. 情報が多く詰め込みすぎ
「せっかくだから」と伝えたい情報をあれもこれもとすべて載せてしまうと、文字ばかりで読みづらく、読み手が要点をつかめなくなってしまいます。情報は「載せる」ことよりも「選ぶ」ことが重要です。
目的とターゲットに合わせて優先順位を決め、掲載する情報を絞り込みましょう。詳細なデータや補足情報は別途資料にまとめたり、QRコードからWebサイトへ誘導したりするなど、媒体の役割分担を明確にする設計が効果的です。
失敗2. ターゲットが不在
誰に向けた会社案内なのかが曖昧なままだと、メッセージの焦点が定まらず、誰の心にも響かない資料になってしまいます。「すべてのステークホルダー(利害関係者)」へと欲張らず、メインターゲットを絞ることが大切です。
具体的なペルソナ(読み手の人物像)を設定し、社内で共通認識を持ちましょう。「この人が読んだときにどう感じるか」という判断軸ができることで、構成やデザインの決定がスムーズになり、訴求力の高い会社案内になります。
失敗3. 更新されない
会社案内は完成した後も、企業の変化にあわせて内容を更新していく必要があります。しかし、一度作ると何年もそのまま放置され、情報が古くなって使われなくなるケースが少なくありません。
役員人事や業績データなど、頻繁に変わる情報は差し込み式のペラ紙にする、あるいはQRコードで最新のWeb情報に飛ばすなど、柔軟に更新できる仕組みにしておきましょう。Webやデジタル資料と連動させることで、常に鮮度のいい情報を届けられるようにすることが大切です。
新しい会社案内の可能性|JTB「るるぶ特別編集(企業版)」
最後に、多様な制作ニーズに応えるソリューションの中から、従来の会社案内の枠を超えた、革新的なアプローチとして、観光情報誌のノウハウを活かした新しい会社案内のカタチを事例とあわせて紹介します。
るるぶ特別編集とは?|企業×地域をつなぐ会社案内の新しい形
誰もが知る旅行ガイドブック『るるぶ』の編集フォーマットやブランド力を、会社案内に応用したサービスです。企業の情報だけでなく、その地域のおすすめスポットや暮らしの情報まで掲載できるのが最大の魅力です。
「働く」と「暮らす」の両面からアプローチすることで、リアルなイメージを伝えられます。紙冊子とデジタル(電子書籍)のハイブリッドで展開できるため、採用・広報・周年事業など、幅広いシーンで活用できます。
導入企業の事例と効果
実際にこの手法を取り入れた企業では、地域密着の魅力を発信し、採用やブランディングで成果を上げています。
01 株式会社ダイカン様の事例営業促進

02 関彰商事株式会社様の事例採用

03 ニデック株式会社様の事例従業員エンゲージメント

まとめ

会社案内は、単なる情報の羅列ではなく、企業の価値と未来を伝えるための重要な戦略ツールです。誰に、何を、何のために伝えるのかという「目的」を明確にし、ターゲットの心に響くストーリーを設計することで、採用や営業の成果は大きく変わります。
今回ご紹介した7つのステップや、JTBの「るるぶ特別編集」のような新しいアプローチを参考に、ぜひ貴社ならではの「選ばれる会社案内」を実現してみてはいかがでしょうか。
