コロナと共存するニューノーマルの時代、ビジネスではテレワークの定着が進みました。これまでのリアルな対面式のコミュニケーションは激減し、オンラインでのコミュニケーションの割合が高まっています。オンラインのコミュニケーションでは、五感を使って人と相対することができません。そのため、相手から受け取る情報量は対面時よりも格段に減ってしまいます。顧客や職場の仲間とのコミュニケーションの多くがオンラインで行われるこれからの時代、コミュニケーションの定義やあり方が変わってくるでしょう。
オンラインでコミュニケーションを深めるためには、どのような心構えが必要なのでしょうか。今回のコラムでは、2019年に80社以上の企業で「涙活(るいかつ)セミナー」を行ったという「なみだ先生」こと吉田英史さんにインタビューし、ニューノーマル時代のコミュニケーションのポイントについて探ります。
ストレス解消にも効果的な「涙活」とは?
「涙活」とは、能動的に悲しみや感動の涙を流すことによって心のデトックスを図る活動です。
悲しみや感動による涙、つまり、情動の涙を流すことは、人の心をスッキリさせる効果があります。情動の涙により、緊張や興奮を促す「交感神経が高ぶった状態」から、脳がリラックスしている「副交感神経が優位な状態」へとスイッチが切り替わるのです。涙を流すことで、ストレス解消の効果だけでなく、心の混乱や怒り、敵意も軽減することが研究で明らかになっています。また、そのストレス解消の効果は、情動の涙を1回流すことで1週間持続するともいわれています。
私が主催する「涙活セミナー」では、効果的に泣く方法を伝えて参加者にその場で実際に泣いてもらい、ストレス解消を体感してもらったり、どんなポイントで泣けたのかを参加者同士で話し合ったりする活動を行っています。
「涙活」で仕事がしやすくなる!?各地のセミナーでわかった「涙活」の効能
2015年に、従業員50人以上の企業にストレスチェック制度が義務付けられたことが追い風となり、「涙活セミナー」を数多くの企業で実施してきました。各地でセミナーを重ねる中で、「涙活によってチームのコミュニケーションがとりやすくなった」「仕事がしやすくなった」という事例が数多くあったのです。
セミナーでは、参加者それぞれの「泣けたポイント」を発表して、共有する時間を設けています。これにより、他者の共感ポイントや価値観を知ることができます。他者の「その人らしさ」「ありのままの姿」を知ることで、自分自身と違う点や同じ点を学べるわけです。こうして自分の中になかった他者の視点や共感ポイントを獲得でき、共感力を高められます。
また「涙活セミナー」では、匿名で泣き言を書いてもらい、「涙千箱(るいせんばこ)」に集めて会場で読み上げる「泣き言セラピー」も行っています。この活動は、「他の人も自分と同じような悩みを抱えているんだ」と知って前向きになれたり、上司や同僚との相互理解を深めたりすることにつながります。チームに一体感が醸成され、仕事を進めやすくなるのです。
実際に、「涙活セミナー」後に次のような報告が寄せられました。
- 話しにくかった上司や同僚が「涙活セミナー」で涙する姿を見て、声をかけやすくなった
- コミュニケーションがとりやすくなり、チームの結束力、連帯感が生まれた
- チームとしての絆が深まり、仕事の生産性が上がった
このように「涙活」は、ストレスの軽減、心のリラックスだけでなく、チームの結束が高まって仕事がしやすくなるといった意外な効果もあることがわかってきました。
「涙活」からわかった!
これからのコミュニケーションのポイントは「共感力」
ニューノーマルの時代、オンラインのコミュニケーションが当たり前になり、人の息遣いや場の空気を感じることが難しくなっています。オンラインコミュニケーションでは、相手の全体像が見えず、相手から受け取る情報が一部に限られます。ビジネスでは、その限られた情報から多くのことを想像して他者の思考に寄り添い、次の一手を考える必要があります。そのため、オンラインでのビジネスの場では、よりいっそう高い共感力、豊かな想像力が必要不可欠です。
これからの時代、チームやクライアントとのコミュニケーションを深めるための鍵は「共感力」にあります。「共感力」は、オンラインのコミュニケーションが増えれば増えるほど、ますます重要なビジネススキルとなるでしょう。
「共感力」を高めるための方法とは?
「共感力」を高めるには、共感脳とも呼ばれる前頭前野を刺激してふるえやすくすることが重要です。例えば「涙活セミナー」では、いくつかの動画を見て、参加者それぞれが泣けたシーンがどこだったか、泣けた理由は何かを話し合い、自分や他者の価値観や意外な一面を共有します。このように、自分とは異なる他者の視点、価値観を獲得すると、共感脳が活発化してふるえやすくなるのです。
「共感力」を高めると、自分自身を肯定する力も身につく
対面でのコミュニケーションが激減する中、孤独感を募らせる人が増えています。「孤独でさびしい」「自分はとるに足らない存在だ」といった自己否定の感情を持つ人は、視野が狭くなっていて、物事を多様に見られない状態にあります。「涙活セミナー」は、他者の共感ポイントを知ることで他者を理解するとともに、お互いを肯定できる「やさしさにあふれる場所」を醸成します。この「やさしさにあふれる場所」に立ち会った経験によって視野が広がり、「自分はこれでいいんだ」と自己を肯定する力も養えるのです。
また、泣くことは「自分がここに存在する」と外界に向けてメッセージを発することでもあります。「泣くとはどういうことなのか」「共感とは何だろうか」と考える機会の一つが「涙活セミナー」であり、この時間を持つことが自己肯定力を高め、人生を充実させることにつながると感じています。
ニューノーマル時代を生きるビジネスパーソンへのアドバイス
クライアントとコミュニケーションをとるビジネスパーソンへ
ビジネスでは、「クライアントが何を求めているのか」「どう感じているのか」を察知する力が必要不可欠です。クライアントという他者を見る視点を多様にするために、映画、動画、漫画、アニメなどさまざまな作品を見て、共感力を磨いていただきたいと思います。
また、心が揺さぶられた経験を相手とシェアすることにより、コミュニケーションをさらに深めることができます。クライアントやチームメンバーと絆を深めたいときには、「最近感動したこと」「泣けた瞬間」などを雑談することも一案です。感動したことを共有することが自己開示のきっかけとなり、打ち解けた話しやすい場が作り出せます。
部下を持つミドルマネジメントへ
映画やドラマなどを見るときに、特定の登場人物に感情移入してみてください。同じ作品を二度、三度と見て、その都度、違う登場人物に感情移入してみるのです。これにより、部下を多面的に見られるようになり、部下との距離が縮まってより良好な関係を築けます。
また、ニューノーマルの時代には、メールなどテキストによるコミュニケーションの割合も増加しています。部下のテキストを読むときには「行間を読む」ことも大切にし、部下の気持ちに寄り添ってほしいと思います。
まとめ
ニューノーマルの時代、「共感力」は重要なビジネススキルに
直接対面する場では、相手の全体が見え、場の空気を感じられるため、関係を作りやすいものです。しかしオンラインのコミュニケーションでは、限られた一部の情報から多くのことを察知する必要があります。このときに必要となるのが「共感力」であり、「共感力」は感動の涙を流すことによってトレーニングが可能です。また涙を流した体験、感動した体験の共有は、他者の価値観を知ってお互いを認め合うことにつながり、チームの結束力、連帯感を高める効果も期待できます。
オンラインのコミュニケーションが当たり前となるニューノーマル時代において、「共感力」は重要なビジネススキルの一つとなっていくのではないでしょうか。
今回お話を伺った人:感涙療法士 吉田英史さん
元高校教師・スクールカウンセラー。通称、なみだ先生。早稲田大学で心理学、教育学を学び、同大学院で人材マネジメントを研究。2014年、認定資格「感涙療法士」を医師、脳生理学者で、東邦大学医学部名誉教授の有田秀穂氏と創設。感涙療法士として、学校(生徒・先生・PTA向け)、病院(患者・医師や看護師等の医療関係者向け)、企業、自治体において、涙活ワークショップや講演会を実施している。
なみだ先生 メディア出演情報(2021年2月)
- 2/9(火) NHK『おはよう日本』
- 家で効果的に泣いてストレス解消する方法(基礎編)についてZOOM出演予定
- 2/28(日) 日本テレビ『行列のできる法律相談所』
- スタジオで、おなじみの出演者たちに涙活セミナーを受講してもらいます。
- 2/16(火) NHK『おはよう日本』
- 上記の発展編になります。
- 2/22(土) 毎日新聞『私のまいにち3月号』
- 涙について詳しく解説します
※番組の出演は、変更になる場合もございます。