今回は、2021年5月18日~26日に開催された「日本の人事部 HRカンファレンス2021春」の特別講演の模様をレポートします。EVP(Employee Value Proposition)とは、企業が従業員に対して提供する価値であり、従業員が実感できる、その企業で働く価値のことです。「EVPが充実する企業の従業員はイキイキとしている」と言われ、いま企業には、EVPをいかにバランスよく、的確に提供できるかが問われています。本特別講演では、「感動」をキーワードに、新たにEVPソリューション事業に進出した弊社から企業の総務人事ご担当の皆さまへ、EVP発想による企業支援についてお伝えしました。
~『日本の人事部』HRカンファレンス2021-春-講演レポートより転載~
企業と従業員の間に新たな絆をつくり出すEVP
JTBでは2020年、新たに人事・総務向けのEVPソリューションの提供を開始。近年、労働力の流動性が高まり、労働人口が減少する中で、優秀な人材を採用・定着させるには「EVP」発想による、従業員への価値提案によるエンゲージメントの醸成が必須と言われています。EVP(Employee Value Proposition)とは、企業が従業員に対して提供する価値であり、従業員が実感できる、その企業で働く価値のことです。
JTBが提供するEVPソリューションは、従業員や組織の真の課題を見つけ出し、持続的な企業成長に導くためにEVPを高め、企業の持続的な成長に貢献することを目的としています。EVPソリューションでは、課題を可視化する「サーベイ分析機能」、課題抽出・施策提案・効果検証を行う「コンサルティング機能」、課題解決策としてJTBが培ってきた法人顧客とその従業員の関係性強化に資するサービス群を提供する「施策提供機能」を一連のサイクルとして提供します。
「まずは、今EVPが求められる背景についてお話します。日本ではまだ聞きなれないEVP(Employee Value Proposition)ですが、欧米ではすでにポピュラーな言葉として定着しています。企業が従業員に対して提供する価値のことであり、会社ビジョン、キャリア、報酬、風土・文化、職場環境、手当・制度など、企業が従業員に提供するほぼすべてのものを含みます。EVPが充実している企業の従業員はイキイキとしていると言われており、これらをいかにバランスよく、的確に提供できるかが企業に問われています」
EVPがなぜ今求められているのか。企業を取り巻く環境が大きく変わる中で、優秀な人材を獲得するために、企業ではエンゲージメントの醸成が求められています。そこで注目されるキーワードがEVPです。
「企業で働く人材の中には、現状に満足して“まったり”している社員や、やらされ感でワーカホリズムになっている社員もいます。そうした状況を変えるには、企業が従業員の間に新たな絆、ワークエンゲージメントをつくり出す必要がある。その施策としてEVPが重視されているのです」
「旅行会社のJTBがなぜEVPなのかとよく聞かれます。なぜJTBがEVPを推奨するのか。弊社のブランドスローガンは『感動のそばに、いつも。』であり、この感動を重視する視点がEVPにつながると考えています」
「このスローガンは従業員に深く浸透しています。まさに感動というキーワードが従業員の皆様のエンゲージメントを高め、EVPを高めることにつながる。そこで、感動をキーワードに皆さまのお手伝いをしていきたいと、この事業を立ち上げました」
EVPを高めることが、従業員の不安抑制につながる
ここ数年、働く環境において大きな変化がもたらされています。2019年施行の働き方改革では、長時間労働の是正や柔軟な働き方の実現が求められ、2020年2月以降のコロナ禍では、在宅勤務やニューノーマルが求められるようになりました。
「テレワークの導入により、コミュニケーション不足やエンゲージメントの低下が問題になっています。従業員も、この先どうなっていくのかと不安になっている。この状況は結果として、今後メンタル不調・離職者の増加を招くのではないでしょうか」
「人のやる気を考えるとき、マズローの欲求段階をみると、企業は『安全の欲求→社会的欲求→承認欲求→自己実現』と、階層ごとの欲求に応える必要があります。また、人が働くうえで働きがいをもたらす「達成、承認、責任、昇進、成長」といった動機付け要因に加え、働きやすさを実現する衛生要因も満たす必要があります。まさに今、企業は従業員のEVPを高めるための、さまざまな仕掛けを行うべきです」
EVPを高め、課題を解決した4つの企業事例
次に、弊社がEVPを高める支援を行った4つの事例を紹介しました。
事例011on1で新入社員のコミュニケーション不足を解消したケース
A社は、コロナ禍でも業績が好調ということで600名の新人を採用。しかし、コロナにより自宅待機状態となり、コミュニケーションが取りづらい状況となりました。600名ものサポートは人事では行えず、部署単位でのOJTを依頼しようとしましたが、現場は「新人の人となりがわからない」と難色が。そこで1on1ミーティングを含め、コミュニケーション強化を図ろうとしましたがツール環境が整っていませんでした。
「対応策として、flappiという仕組みをご提供。最初にサーベイを実施し、個人の『能力と働く価値観』を把握し、従業員一人ひとりの能力とその伸ばし方、働くうえで大切にしていることや不安・不満を相互に確認しました。次にコンディションパルスサーベイ機能を活用し、毎週1回という定期的な実施により、日々の気持ちを天気マークで示してもらい、従業員個々の心の変化を把握しました。パルスサーベイでアラートが出た従業員を中心に、対話ノートを使った上司とのショート面談を実施。1on1ミーティングにおいてもパワハラにならないよう交換日記のような形で記録を残すことが大切とも言われています。」
事例02組織分析でエンゲージメント低下を解消したケース
B社では、長きにわたり会社をけん引してきたトップが交代。新社長は経営層と従業員の間に距離があると感じていました。ただ、課題はあるが明確なものではなく、対処方法もわかりませんでした。しかし、周年記念というタイミングを迎えていたこともあり、何らかの手を打つ必要がありました。
「この企業には、従業員意識調査機能及び施策実行機能を持った組織開発コンサルティング型クラウドであるWILL CANVASを導入しました。従業員調査によりビジョン、風土、労働環境、各種制度、人財活用の五つの視点で組織課題を可視化。調査では最初、企業風土において一般平均よりも大幅に低い数値が出ていました。
特に低かったのは会社へのエンゲージメントです。そこで具体策としてマネジメントスタイルの改革を行うことを決定。具体策として、新社長が周年記念を機に改革を行うという決意を表明。各レイヤー向けにビジョン浸透の施策を行い、人事制度の改革を実行。最後に全従業員を対象に周年記念のイベントを行いました。結果として、エンゲージメントスコアの大幅アップを実現しています。組織課題を可視化することの大切さが実感できた事例となりました」
事例03オンラインイベントでエンゲージメント低下を解消したケース
C社は全国に拠点があり、全社員が同じ時間同じ場所に一堂に会することが現実的に難しく、これまで事業部間での交流が活発ではありませんでした。結果、社内はコミュニケーション不足とお互いの理解が進まない事態に陥りました。近く行われる創立50周年イベントが、社員が一体感を実感できる大変よい機会になると若手メンバーによる実行委員会を組織。テーマを「ONE」とし、全社員が主役になるイベントとして企画していたが、準備途中でコロナ禍が発生し、開催が危ぶまれる事態に。
「結果として、プロジェクトメンバーはイベントをリアル開催からオンライン開催へと切り替えました。イベントは成功し、『感染リスクも抑えられ最善策だった』と社内でも好評を得たという事例です。この事例を聞いてすぐに思い出したのがメラビアンの法則です。人のコミュニケーションにおいて伝達される情報は、言葉の内容は7%でしかなく、視覚・聴覚への訴求が93%占めるというものです。人の心を動かすには、リアルでもオンラインでも良いが、視覚・聴覚へ訴えることが絶対に必要です。エンゲージメントを高める施策として、社員旅行や報奨旅行、表彰イベント、研修プログラムなどがありますが、その実施にはリアル以外にも、オンライン、ハイブリッド、バーチャルといった手法があります。特にリアルとオンラインの両方のメリットが活きるハイブリッドは、リアル以上の効果が期待できます。エンゲージメントを高めるときに、コロナ禍のリスクを最小限に抑えるには、それに対応した手法が求められます」
「また工夫も必要になってきます。例えば、ハイブリッドイベントの演出の場合、一つ目は、オンライン参加の比率を変えることで、異なる雰囲気が演出できること。二つ目は、複数のリアルな拠点をオンライン接続することで一体感を醸成できること。三つ目は、スクリーン投影・チャット・投票機能の活用。四つ目は、「世界記録への挑戦」「オンラインビンゴ大会」「ご当地グルメプレゼン対決」などのオンライン上での参加型プログラムの実施です」
事例04社員食堂に代えて、コミュニケーション不足を解消したケース
D社は本社ビル内のカフェテリアが好評で、お得なランチメニューが提供されるとともに、夕方はアルコール入りのパーティーを開けるスペースもあり、社員同士のランチミーティングやコミュニケーションで活発に利用されていました。しかし、コロナ禍により、密状態の回避、さらにテレワークの導入により、利用者が減少。採算も合わなくなり無期休止に。現状では代替手段がまったくない状態となっています。
「そこで私たちが提案したのが、全国の飲食店やコンビニなどの加盟店で使用できる食事補助サービスのチケットレストランです。これは食事補助に特化したカード型の電子決済サービスであり、企業側が従業員の食事補助を行うことができます。これまでの食事手当、在宅勤務手当(光熱費)、定期券廃止分の代替、コミュニケーション機会の創出といったものへの転用としても活用できるものです。事例の企業でも、チケットレストランの活用によって、コミュニケーション機会の創出、エンゲージメント高揚への効果が現れています」
このコロナ禍により、さまざまな社内サービスや支援が制限される中、企業の食事補助ニーズはますます高まっています。チケットレストランの仕組みはシンプルであり、カードを全社員に予め配付しておけば、担当者は画面操作一つで、いつでも個人ごとにチャージをすることができます。また、条件を合わせれば非課税処理も可能です。実際に実施した企業におけるサービスの利用率は99%以上と従業員のほぼ全員が利用しており、実施の社員満足度も90%以上と大変人気がある施策です。
「これら事例を踏まえ、これからの企業成長に欠かせない取り組みはEVPを高めることだと言えます。JTBのEVPソリューションでは、従業員視点、組織視点に立ち、調査を行ったデータに基づいて課題を可視化し、施策には効果検証を行っています。皆さまもぜひEVPを活用して、コミュニケーションを増やす取り組み、エンゲージメントを高める取り組みを行ってみてください。本日はありがとうございました」