コロナ禍において製薬業界を取り巻く環境は凄まじい勢いで変化しています。特に大きく変化したのが病院へのさらなる訪問規制とMRのワークスタイルの変化です。在宅勤務がスタンダードとなり、社外、社内ともにコミュニケーションのデジタル化が進みました。一方でそうした状況下でも組織編制の動きは相次いでいます。営業所の統廃合も大きな話題の1つです。そんなデジタル環境下における製薬業界のエンゲージメント強化策について最新事例をもとに紹介していきます。
コロナ禍における非対面コミュニケーションの頻度加速
近年、製薬業界は薬価改定や後発薬の促進をはじめとする国の薬剤費抑制策が強まり、収益モデルの変化が加速しています。売上規模1,000億円超のブロックバスターと呼ばれる大型製品が減少。市場争いでしのぎを削ったMRもここ数年で減少し、この2年間だけで見ても5,000人以上が業界を去るという選択をしました。
そしてコロナ禍の影響で病院への訪問規制がより一層厳しくなり、各社オンラインでの情報提供体制へと移行しています。WEB面談や各種チャットツールによる活動が増え、非対面コミュニケーションが増加し、病院側としてもオンライン診療を導入する施設も増え、ヘルスケア業界全体で見ても非対面コミュニケーションが増加傾向にあります。
製薬会社の社内においてもリモートワークが推進され、情報共有の手段もデジタル化しています。以前から行われているメールコミュニケーションやWEBミーティングが主なコミュニケーション手段となり、情報収集も業界誌等によるオンラインでの情報取得が主となりました。このような環境変化による影響は顕著に数字としても現れてきています。
業界誌ミクスOnlineの意識調査によるとワークスタイルの変化による不安を訴えるMRが6割を超えるという結果が出ており、各社デジタルコミュニケーションでのエンゲージメント向上施策が急務とされています。
「デジタルキックオフイベント」の価値と重要性
コロナ禍の前は各社リアルでのキックオフイベントを開催し、トップマネジメントからの直接的な情報共有や、営業所の垣根を越えたコミュニケーションの場が定期的に開催されていました。社内での成功事例の共有や表彰なども設けられていた為、モチベーションが向上し、自社に対する信頼を高める社員も多く、大きな効果が得られていました。
しかし、コロナ禍によってリアルでのキックオフイベント開催ができない状況となった今、意識調査にもある通り6割を超える社員が現職に不安を抱いている現状があり、エンゲージメント低下の影響を感じずにはいられません。
そのような中、デジタル環境下でのキックオフイベントが注目されています。デジタルであれば非対面で感染拡大のリスクを負うことなく、さらには各種デジタルツールの活用によりトップマネジメントや一部の社員からの一方的な情報共有ではなく、全員参加型での双方向コミュニケーションも可能となっています。
製薬会社による「デジタルキックオフイベント」の成功事例と体験価値
某製薬会社では、自社開発のミーティングアプリケーションを使用し「デジタルキックオフイベント」を開催。この会社ではデジタルへの挑戦をビジョンの一つとして掲げている中で、コロナ禍前からデジタル施策の取り組みに力を入れており、今回のキックオフイベントもリアルイベントの代替案という消極的な姿勢ではなく、リモート環境をプラスに捉え、会社として目指すべき姿を体現させるためのイベントという位置づけになっています。
社内エンゲージメントの向上を目的とし、当日は部門の約500名がオンラインで参加をしました。今回のデジタルキックオフイベントは3日間に渡り開催され、部門の長期展望について多角的なテーマでトップマネジメントによるパネルディスカッションを実施。会社や部門の掲げるビジョンやミッションを共有し、およそ8割を超える参加者が「自部門の理解を深めるのに役立った」と回答しています。
また本イベントでは、参加者の没入感を高める為の演出として、以下の2点に力を入れていました。
01スタジオを利用した近未来的なCG背景の演出
馴染みのある会議ツールでの資料投影、プレゼンではなく、常に動きがあり、参加者が会のタイトルと今後の自分達のあるべき姿をイメージできるようなCG背景を合成。登壇者のレピュテーションが向上し、本部主催者のプロジェクトマネジメントの力をアピールできます。
02デジタル環境の中でより主体的に参加できるアンケートツールを利用した双方向コミュニケーション
デジタル環境の中でこそ双方向のコミュニケーションに没入出来ます。イベントへの参加意識が高まることで所属組織へのポジティブなマインドが醸成されます。
開催後には、参加者がアプリケーションの使用に対してポジティブなフィードバックを行っており、7割以上が次回のキックオフでもミーティングアプリを使用したいと回答。トップマネジメントとの双方向コミュニケーションや事例共有への満足度も高く、デジタルキックオフにおける双方向参加型ツールとして有効であるという意見が多くを占めました。
また実際の患者さんの映像も共有され、「情報提供活動の先で多くの患者さんに貢献できることを再認識することができ、現状の仕事にやりがいを感じた」という感想もあり、リアルでのキックオフイベントに劣ることのない、部門全体として高いエンゲージメントの獲得に成功しています。
まとめ
デジタルキックオフイベントでもエンゲージメント向上は可能
非対面コミュニケーションの増加に伴い、エンゲージメント低下が不安視される中、デジタルを活用しエンゲージメント醸成を促進した事例を紹介させていただきました。実際にリアルでは直接伝えにくいことも、デジタルでの双方向コミュニケーションツールを活用することで、伝達が可能となり、多くの情報を共有することが出来ます。またデジタルキックオフの特徴の一つとして、ロジスティックが伴わないからこそ、アジャイルに会社や部門の最新の情報が届けられることも挙げられます。人材の流動が激しい製薬業界では、人の出入りが多い中でも常に組織として一体感を醸成しなければなりません。そうした状況下でアジャイルに組織理念を浸透させ、最新のアクションプランを伝達することは必要不可欠です。ケースとして紹介した製薬会社では、半年に一回のペースでキックオフイベントを開催し、エンゲージメントを高めています。変化の激しい今だからこそ、デジタルを効果的に活用したエンゲージメント向上施策を考えてみてはいかがでしょうか。