「社員が指示された通りにしか動かない」「顧客との関係が事務的で深まらない」。現場でこのようなもどかしさを感じることはありませんか?これらは個人の資質の問題ではなく、組織としての「顧客対応力」の課題かもしれません。
ホスピタリティは「おもてなし」ではなく、「相手の期待を超える気持ちと行動」です。マナーでは生まれない「選ばれ続ける関係性」をつくる企業戦略であり、人的資本経営の実践そのものです。
この記事では、顧客の心を動かし、リピートや紹介といったビジネス成果につなげるための、ホスピタリティ研修の導入と実践について解説します。

なぜ、いまホスピタリティが企業競争力のカギなのか

商品やサービスの機能的な差がなくなりつつある現代において、顧客に選ばれ続けるためには「感情的なつながり」が重要視されています。ここでは、多くの企業が抱える現場の課題から、ホスピタリティ研修が必要とされる背景を解説します。
クレームが多いわけではないのに、リピートにつながらない
大きなトラブルはないものの、契約更新や再来店につながらないケースが増えていないでしょうか。これは、顧客にとって「不満はないが、感動もない」という状態だからです。顧客は、期待通りのサービス(基本的価値)だけでは満足せず、期待を超える「情緒的価値」を感じて初めて、継続的なファンになります。
不満を取り除くだけの対応から脱却し、顧客の記憶に残るポジティブな体験を提供することが、離反を防ぐ鍵となります。ホスピタリティ研修で培うスキルを通じて、「また会いたい」と思われる関係性を築くことが、安定したリピート確保には効果的です。
営業が「用件だけ」で終わり、関係が広がらない
営業担当者が商談で事務的な用件のみを済ませて帰ってくるため、信頼関係が深まらず、新たな提案のチャンスを逃している。こうした課題もよく聞かれます。これは、相手の潜在的なニーズや感情を察知し、雑談や気遣いを通じて「人としての魅力」を伝える力が不足しているためです。
専門知識やスキルだけでなく、相手に寄り添う「人間力」や「対話力」を磨くことが重要です。ホスピタリティを学ぶことで、顧客との心の距離を縮め、ビジネスの相談相手として選ばれる信頼関係を構築できるようになります。
管理職が「対応の質」を指導できない
現場のリーダーや中間管理職が、部下の顧客対応に対して「何が足りないのか」を具体的に指導できず悩むケースも少なくありません。ホスピタリティは感覚的なものと捉えられがちで、言語化してフィードバックすることが難しいためです。
感覚論ではなく、体系化された指標を用いることで、指導の質は大きく向上します。何をどう改善すれば顧客の心を動かせるのかを論理的に理解し、共通言語で指導できる環境を整えることが、組織全体の対応力底上げには不可欠です。
マナーではなく「顧客対応力」:ホスピタリティの本質

「マナー研修と何が違うのか?」という疑問を持たれることも多いホスピタリティ研修ですが、目指すゴールが明確に異なります。ここでは、顧客対応を3つの段階に整理し、ホスピタリティが目指すべき領域について解説します。
マナー:最低限の型
マナーとは、相手に不快感を与えないための「最低限のルール」や「型」のことです。迅速、正確、言葉遣い、身だしなみなどがこれに当たり、ビジネスの場に立つための基本的な前提条件といえます。これらが欠けているとマイナス評価になりますが、できているだけでは「当たり前」と受け取られ、感動にはつながりません。
サービス:期待通りの提供
サービスとは、顧客との約束や契約に基づき、求められたことを正確かつ迅速に提供することです。約束を守る、必要な情報を提供するなど、顧客が対価を支払う対象となる「当たり前の価値」を指します。
サービスが期待通りに提供されると、顧客は「満足」を感じます。しかし、これもあくまで「予定通り」の結果であり、顧客の記憶に強く残る体験にはなりにくいのが現実です。ビジネスの基盤として不可欠ですが、ファンを作るにはもう一歩踏み込んだ対応が効果的です。
ホスピタリティ:期待を超え、心に残る「情緒的価値」を生む行動
ホスピタリティとは、相手に喜んでもらうために自ら進んで行う、期待を超えた「気持ち」と「行動」のことです。マニュアルにはない気配りや、相手の状況を察した先回りの行動などが、顧客に「うれしい驚き」や「感動」を与えます。
この領域に達して初めて、顧客は「あなただからお願いしたい」という感情を抱き、リピートや紹介といった行動を起こしてくれます。ホスピタリティは、専門性だけでは差別化できない時代において、企業の強力な武器となる「情緒的価値」の源泉なのです。
組織変革としてのホスピタリティ研修【3つのステップ】

ホスピタリティを企業に根づかせるためには、単発の研修では不十分です。社員の意識変化から行動変容、そして文化の定着までを段階的に設計する。この3ステップを踏むことで、顧客からも社員からも「選ばれ続ける組織」へと進化できます。
ステップ1 現状の可視化:顧客・社員の「体験価値」をデータで把握
まずは、現在の顧客対応力がどの段階にあるのかを客観的に把握することから始めます。顧客へのアンケートや社員意識調査を通じて、「顧客が感じている価値」と「社員の意識」のギャップを数値化して分析しましょう。
感覚的な「なんとなく良い/悪い」ではなく、データに基づいて自社の強みや課題を特定することが重要です。現状を正しく認識することで、目指すべきゴールが明確になり、社員も納得感を持って次の変革フェーズへと進むことができます。
ステップ2 行動変容:察知力と共感力を高める実践トレーニング
課題が明確になったら、具体的なスキルやマインドを習得するトレーニングを行います。座学で知識を得るだけでなく、ロールプレイングや体験型プログラムを通じて、顧客の心理を「察知する力」や「共感する力」を実践的に養います。
現場スタッフだけでなく、管理職も巻き込んでトレーニングを行うことがポイントです。上司が部下のホスピタリティ行動を認め、引き出すようなマネジメントを学ぶことで、現場の行動変容が加速し、組織全体の対応力が底上げされます。
ステップ3 組織文化への定着:日常業務にホスピタリティを根づかせる
研修で学んだことを一過性のものにしないために、組織全体で継続的な取り組みを行います。企業のビジョンや行動指針(クレド)を策定し、それを日々の業務判断の基準として浸透させていく活動が中心となります。
優れたホスピタリティ行動を称える表彰制度(アワード)や、好事例の共有会などを通じて、社員のモチベーションを高める仕組みも効果的です。「ホスピタリティを発揮することが賞賛される文化」を作ることで、自然と日常業務に定着していきます。
コストではなく投資へ:ホスピタリティ研修が生み出すビジネス成果

研修費用は単なる経費(コスト)ではなく、将来の利益を生み出すための「投資」です。ホスピタリティの向上は、顧客満足度という抽象的な指標にとどまらず、最終的には企業の利益に直結する具体的な数値として表れます。
顧客の期待を超える感動を提供できるようになると、顧客は「ファン」となり、2つのポジティブな行動変化を起こします。
一つは「経済的行動」です。再利用(リピート)の頻度が増える、購入単価が上がる、割引を求めず正価で購入してくれるといった行動により、直接的な売上拡大に貢献します。もう一つは「支援的行動」です。感動した顧客は、企業に感謝や賛辞を送るだけでなく、よい口コミを広めたり、知人に紹介したりしてくれます。
これらは広告費をかけずに新たな優良顧客を獲得することにつながり、長期的に安定した収益基盤を築く上で大きな価値となり得ます。
失敗しない研修パートナーの選び方

研修パートナーの選定は、プロジェクトの成否を分ける重要なプロセスです。単にパッケージ化された研修を提供する会社ではなく、自社の課題に寄り添い、変革に伴走してくれるパートナーを選ぶことが大切です。
ただ研修を売る会社では成果は出ない
決まったカリキュラムをこなすだけの研修会社では、根本的な課題解決には至りません。大切なのは、自社が抱える固有の課題、例えば特定の部署のモチベーション低下や、顧客層の変化などを深く理解し、それに合わせたプログラムを設計してくれるかどうかです。
「研修をすること」自体を目的とせず、「顧客対応力を向上させ、ビジネス成果を出すこと」をゴールに設定し、そこから逆算して必要な施策を提案してくれるパートナーを選ぶことが、投資対効果を高めるための第一歩です。
「業界理解」「データ比較」ができるかが分岐点
ホスピタリティの基準は、業界や業種によって異なります。そのため、自社の業界特有の商習慣や顧客心理を理解しているパートナーであることが望ましいです。さらに、他業界との比較データを持っているかどうかも重要な判断基準になります。
客観的なデータに基づいて「自社のレベルは他業界と比べてどの位置にあるのか」を知ることで、目指すべき水準が明確になります。経験則だけでなく、実証データに基づいた精度の高い分析と提案ができる企業を選ぶと安心です。
調査→研修→定着までワンストップで支援できるか
研修は実施して終わりではなく、その後の「定着」が最も重要です。事前の調査から、研修の実施、クレドの策定、社内イベントによる活性化、そして効果測定までをトータルで支援できるパートナーであれば、一貫性のある施策が可能になります。
部分的な支援ではなく、組織変革のフェーズに合わせて継続的に伴走してくれる企業であれば、途中で施策が頓挫するリスクを減らせます。長期的な視点で組織作りをサポートしてくれるパートナーシップが、成功への近道です。
JTBのホスピタリティマネジメントの3つの特長

JTBのホスピタリティマネジメントは、顧客接点の質を高めるだけでなく、組織全体の行動変容と文化定着を目的とした人材育成プログラムです。
このプログラムは、単なる一時的な「研修」の実施に留まりません。現状の可視化から始まり、現場での実践、そして組織文化としての定着までをトータルで支援します。人材育成を通じて、自社のファンを増やし続ける「強い組織づくり」に伴走する独自のソリューションです。
特長1.顧客対応力の可視化:32業種のデータベース比較が可能
西武文理大学・小山周三教授の監修により開発した独自のメソッドを用いて、ホスピタリティを「6つのレベル」と「29のサービス価値」に分解して数値化します。これにより、目に見えにくい「顧客対応力」を客観的に可視化できます。
さらに、32業種にわたる豊富な調査データと比較することで、自社の強みや弱みを相対的に把握できるのが大きな特長です。感覚論ではなく、データに基づいた納得感のある現状分析ができるため、的確な改善策を立案することが可能になります。
特長2.多彩な体験・トレーニング設計:行動変容を促す仕組み
座学だけでなく、受講者の「気づき」と「実感」を重視した多彩なトレーニングプログラムを用意しています。ホスピタリティマインドを醸成する研修から、具体的なスキルを習得する研修まで、階層や課題に合わせて柔軟にカスタマイズが可能です。
また、ホテルやレストランなどの現場で本物のホスピタリティに触れる「体験トレーニング」もJTBならではの強みです。五感を使った体験を通じて、理想のサービス像を具体的にイメージできるようになり、現場での行動変容を強力に後押しします。
特長3.文化としての浸透支援:クレド策定・アワード・活性化施策まで伴走
研修効果を持続させるための組織開発サポートも充実しています。社員全員が参画して行動指針を作る「クレド策定」や、優れた行動を称えるアワードの運営など、ホスピタリティを社内文化として定着させるための活動をトータルで支援します。
社内報や動画などのコミュニケーションツールの制作や、キックオフイベントの演出など、JTBのイベント運営ノウハウを活かしたサポートも可能です。社員のやる気を引き出し、組織全体を巻き込んだムーブメントを作ることで、自走する組織づくりに貢献します。
ホスピタリティ研修についてよくある質問

ホスピタリティ研修の導入を検討されているご担当者様から、よくいただく質問にお答えします。
オンライン研修と対面研修、どちらが効果的?
知識の習得や理論の理解には、時間や場所を選ばないオンライン研修が効率的でおすすめです。一方で、相手の空気感を察知する力や、チームでの一体感を醸成するには、対面での研修がより高い効果を発揮します。
JTBでは、目的やフェーズに合わせて、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッドな提案も可能です。基礎知識はeラーニングで学び、実践的なロールプレイングは対面で行うなど、それぞれのメリットを活かしたプランをご提案いたします。
現場の反発をどう乗り越えるか?
新しい取り組みには、「忙しいのに」「やらされている」といった現場の抵抗感がつきものです。これを乗り越えるには、経営層やリーダーが「なぜ今これが必要なのか」というビジョンを明確に伝え、本気度を示すことが重要です。
また、一方的な押し付けにならないよう、現場のキーマンを巻き込んだ委員会を発足させたり、現場の意見を吸い上げる場を作ったりすることも有効です。自分たちが作ったルールであれば、納得感を持って取り組めるようになります。
小規模企業でも導入可能?最小実施人数は?
企業の規模を問わず導入いただけます。数名程度の小規模なチーム単位での研修から、全社的なプロジェクトまで、柔軟に設計することができます。
調査パッケージも、例えばJTBでは100名様規模から実施可能なものがあり、まずは特定の部署だけでトライアル導入し、成果を確認してから全社に広げるといったスモールスタートもおすすめです。ご予算や人数に合わせて最適なプランをご提案します。
座学以外のプログラム内容もあるの?
ホスピタリティ研修は、座学だけでなく、実際のサービス現場での体験学習や、屋外でのチームビルディング、ワークショップなど、多彩なプログラムがあります。身体や五感を使った体験は記憶に残りやすく、深い学びにつながります。
研修後のフォローアップとして、好事例の共有や表彰イベントの開催など、楽しく参加できる施策を打つのも効果的です。参加者が「面白い」「ためになる」と感じられる演出を取り入れることで、能動的な参加を促すことができます。
研修の効果はどのように測定できるの?
効果測定には、定量的・定性的の両面からのアプローチが有効です。定量面では「リピート率」「顧客単価」「紹介数」などのビジネス指標の変化を追います。定性面では、顧客アンケートや口コミの内容の変化を確認します。
さらに、組織への浸透度を測るために、従業員意識調査(サーベイ)を活用することも重要です。JTBでは「WILL CANVAS」等のツールを用い、社員の意識や行動がどう変わったかを数値化し、研修の投資対効果(ROI)を検証できる仕組みを提供しています。
まとめ

ホスピタリティ研修は、単なるマナー教育ではなく、顧客に選ばれ続けるための組織戦略です。現状を可視化し、実践的なトレーニングを行い、文化として定着させることで、リピートや紹介を生む強い組織へと生まれ変わることができます。
JTBでは、貴社の課題に合わせた最適なプログラムをご提案いたします。まずは現状の課題整理から、お気軽にご相談ください。
