「CPA(獲得単価)が高騰し、利益を圧迫している」「LTV(顧客生涯価値)も伸びない」……。そんな行き詰まりを感じたときに検討したいのが、顧客との関係性を深めることで売上・支持・継続利用を生み出す経営戦略であるファンマーケティングです。
この記事ではファンマーケティングが注目されている理由から実践ステップ、失敗を避けるポイントまでをわかりやすく解説します。具体的な成功事例も紹介しますので、自社のファンづくりを検討している方はぜひ参考にしてください。

ファンマーケティングとは?今注目される理由

まずは、なぜ今ファンマーケティングが必要とされているのか、その背景と本質的な意味合いについて解説します。
ファンマーケティングの定義
ファンマーケティングとは、企業やブランドが顧客を単なる「購入者」としてではなく、思いを共有する「パートナー」として捉え、長期的な関係を築くことを目指す経営戦略です。一時的な販促キャンペーンとは異なり、共感や信頼、参加を通じてLTV(顧客生涯価値)の最大化を目指します。
顧客は見込み客から新規顧客、リピーター、そしてロイヤルカスタマー(ファン)へと段階的に深化します。ファンマーケティングはこの階段を上るための「体験」や「対話」を提供し、企業と顧客が互いに支え合う強固な絆を育むプロセスそのものといえるでしょう。
注目の背景
多くの企業がファンマーケティングへ注目する背景には、市場環境の大きな変化があります。
まず、Web広告の競争激化によりCPA(1人の顧客を獲得するために必要な広告コスト)が高騰し、新規獲得偏重のモデルが限界を迎えていることが挙げられます。また、SNSの普及により、UGC(User Generated Content:口コミ・レビュー・写真・動画など、消費者が自主的に投稿するコンテンツ)がブランドの信頼性を左右するようにもなりました。
さらに、モノがあふれる時代において、消費者の価値観は「モノ消費」から「体験・共感消費」へとシフトしています。「推し活」に代表されるように、好きな対象を応援することに喜びを見出す心理が一般的になったことも、ファンづくりがビジネス成果に直結しやすくなった要因です。
ファンマーケティングで得られる3つのメリット

ファンマーケティングは、CPA依存型の集客に限界を感じる企業に対し、売上の安定化・LTVの向上・自然な新規獲得という3つの具体的な成果をもたらします。
メリット1価格競争からの脱却と売上の安定化
ファンになった顧客は、価格の安さよりも「そのブランドであること」や「企業への信頼」を重視して購入を決定します。そのため、競合他社が値下げしても乗り換えが起きにくく、過度な価格競争に巻き込まれるリスクを減らせます。
結果として、セールやキャンペーンなどの短期的な施策に依存することなく、ベースとなる売上が安定するのがメリットです。不測の事態や市場変動が起きたときも、根強いファンの存在が企業を支える土台となり、経営の安定性が揺るぎにくいこともポイントです。
メリット2LTV向上(購入頻度・単価の増加)
ブランドへの愛着が深いファンは、一度きりの購入で終わらず、何度もリピート購入してくれる傾向があります。また、新商品や関連商品への関心も高く、関連商品をあわせて購入するクロスセルのほか、自分に合った上位モデルや特別仕様を選ぶアップセルも自然な形で発生しやすいため、LTV(顧客一人あたりの生涯売上)が向上します。
CPAが高騰する中で利益を確保するには、一度獲得した顧客との取引期間を延ばし、取引総額を増やすことが欠かせません。ファンマーケティングは、既存顧客からの収益性を高めることで、高コストな新規獲得への依存度を下げ、収益構造を健全化する効果が期待できます。
メリット3UGC・口コミによる新規獲得コストの削減
熱量の高いファンは、自身のSNSや口コミを通して自発的にブランドの魅力を発信してくれます。これらUGCは、企業発信の広告よりも「リアルな声」として消費者に信頼されやすく、高い宣伝効果があります。ファンが語る熱意ある言葉は、新たな顧客を引きつける強力なコンテンツとなるのです。
広告費をかけずとも、ファンの発信によって自然と認知が広がり、新規顧客が集まる好循環が生まれることで、結果としてマーケティングコスト全体の抑制にもつながります。
ファンマーケティングを実践する5つのステップ

ファンマーケティングは個別施策から始めるのではなく、顧客理解から効果測定までのプロセスを丁寧に設計することが重要です。ここではファンマーケティングを実践し成功に導くための5つのステップを紹介します。
STEP01ペルソナ設計とインサイトの発見
まずは、ターゲットとなる顧客像(ペルソナ)を明確にすることから始めましょう。年齢や性別といった属性だけでなく、「どのような課題を抱え、どうなりたいと思っているか」という心理的な変化や理想の状態を具体的に描くことが大切です。
顧客がそのブランドを選ぶ本当の理由や、心の奥底にある感情的な動機(インサイト)を掘り下げることが重要です。表面的なニーズではなく、「なぜこのブランドに共感するのか」という根源的な理由を理解することが、ファンの心に響く施策を考える出発点となります。
STEP02KPIの設定(CPA中心からLTV・ブランド指標へ)
ファンマーケティングの成果を測るには、従来のようにCPA(顧客獲得単価)を追うのではなく、「顧客との関係性の質」を測る指標を導入することが重要です。
売上やLTVといった短期・中期的な数値目標に、NPS(推奨意向度。どれだけ「このブランドを人に勧めたい」と思われているかを示す指標)やブランドリフト(ブランド想起や好意度がどれだけ向上したかを測る指標)などの顧客との関係性の「質」を測る指標を組み合わせて成果を測りましょう。
そうすることで「どれだけ売れたか」だけでなく、「どれだけ愛されているか」「どれだけ推奨されたか」が可視化され、施策の方向性が正しいか判断しやすくなります。数値に表れにくい「熱量」を測るための独自のKPIを設定することも、チームのモチベーション維持に役立ちます。
STEP03カスタマージャーニーの全体設計
顧客がブランドを認知してから購入し、使用してファン化に至るまでの体験プロセス(カスタマージャーニー)を一つの流れとして設計します。個別施策を乱立するのではなく、全体で一貫性のあるストーリーの中で、どのタイミングでどのような体験を提供するかを整理しておくことが重要です。
具体的には、購入後のフォローや、継続利用者へのサプライズなど、顧客の感情が高まるポイントを意図的に作り出します。全体を通して「大切にされている」と感じられる設計になっているか、顧客目線でストーリーを見直すことが、ファン化への道筋をスムーズにするポイントです。
STEP04施策の実行(コミュニティ・イベント・SNSの統合)
設計したプロセスに基づき、具体的な施策を実行していきます。ファン同士が交流できるコミュニティ運営や、特別感を味わえるリアル・オンラインイベント、SNSでの双方向の対話などを、目的にあわせて組み合わせると効果的です。
重要なのは、施策自体を目的とせず、「企業とファンが関係を深めていくプロセスの一部」と位置づけることです。顧客がブランドの世界観に深く没入できるような機会を提供すれば、単なる購入者ではなく、ブランドを応援し、ともに育ててくれる存在へと関係が変化していくでしょう。
STEP05効果測定とPDCAの継続
施策実行後は、定期的に効果測定を行い、改善を繰り返します。売上・LTVなどの定量データだけでなく、アンケートによる顧客の声やSNS投稿などの定性データも収集し、ファンの感情の変化を捉えることがポイントです。
ファンマーケティングは一朝一夕で成果が出るものではありません。小さな成功体験を積み重ねながら、ファンの反応に合わせて柔軟に計画を修正していく姿勢が求められます。継続的なPDCAサイクルを回すことで、より強固な関係性を築いていきましょう。
ファンマーケティングの具体的手法

ファンづくりは多くの手法を組み合わせて行いますが、特に実施効果が高く、導入しやすいものを5つに絞って紹介します。
ファンイベント・リアルコミュニティの開催
リアルな場での交流は、ブランドへの共感や信頼を短時間で高める最も強力な施策です。開発者トークショーや工場見学、ファンミーティングなど、普段は見られない裏側を見せたり、世界観を体験できる空間を共有したりすることで、急速に距離が縮まります。
参加者同士の横のつながりが生まれるような交流時間を設けるのもポイントです。「同じものが好きな仲間」との出会いは、ブランドへの帰属意識を高める大きな要因となります。オンラインでは味わえない温度感のあるコミュニケーションが、深いファン心理を醸成します。
SNSでの継続的なつながりとオンラインコミュニティ
ファン同士や企業とファンが日常的に交流できる場所を持つために、SNSやオンラインコミュニティも活用しましょう。SNSでは一方的な情報発信だけでなく、ファンからのコメントに返信したり、ファンが投稿した写真を紹介したりと、双方向のコミュニケーションを心がけることが大切です。
オンラインコミュニティでは、ファン同士が情報交換や悩み相談を行える場所を提供します。企業が過度に介入せずとも、ファン同士で助け合う文化が育てば、コミュニティ自体が価値を持ち始め、離脱を防ぐ強力なプラットフォームとなるでしょう。
アンバサダー・インフルエンサーの活用
ブランドを深く愛用しているコアなファンを「公式アンバサダー」として認定し、活動を支援する手法です。発信や企画参加を促すことで、企業側では生み出せないリアルな声が広がります。
選定の際は、フォロワー数などの影響力よりも、ブランドへの「愛着の深さ」や「熱量」を重視するのがおすすめです。本当にその商品が好きな人の言葉には嘘がありません。周囲の共感を呼びやすいため、結果として信頼性の高い認知拡大につながります。
ファン参加型の商品開発・共創プロジェクト
商品の企画、ネーミング、デザイン選定などのプロセスにファンを巻き込む手法です。「自分の意見が商品になった」という体験は、ファンにとって何よりの喜びであり、「自分たちが作ったブランド」という強い当事者意識(心理的所有感)を生み出します。
完成した商品は、開発に関わったファンが熱心な発信者となって広めてくれる効果が期待できるのもポイントです。プロセスそのものをコンテンツ化して発信すれば、参加していない顧客にもブランドの開放的な姿勢やストーリーが伝わります。
会員制度・サブスクリプションによる関係の可視化と継続化
会員ランクに応じた特典や、定額制(サブスクリプション)サービスを提供することで、関係性を継続させる仕組みです。会員に対し、限定情報や先行予約、会員限定コンテンツなど、特別感のある体験を提供することが重要です。
「自分はこのブランドの特別なメンバーである」という所属感や優越感を感じられる設計にすることで、解約率を下げ、LTVを高めることができます。顧客自身が自分のステータスを誇らしく思えるような、情緒的な価値を与えましょう。
ファンマーケティングの成功事例

ここからは、ファンマーケティングに成功した企業の事例を紹介していきます。
01 サントリー株式会社 様新幹線を貸し切り「山崎」の世界観を体感
JTBが支援したサントリー株式会社の事例です。ウイスキー「山崎」の40周年を記念し、新幹線を貸し切る特別ツアーを実施しました。車内を「走るショールーム」に見立て、特別な内装や老舗料亭の料理、トークショーを提供。移動時間そのものを、ブランドの世界観に浸る贅沢な体験へと変えました。
参加者からは「新幹線でのセミナーは最高の思い出」「五感で感動した」といった声が寄せられました。単なる移動を特別な体験に変えることで、顧客の心に深い感動を残し、ブランドへの愛着を一層強固なものにしています。
02 カルビー株式会社 様全国17カ所で600名のファンと交流、購入金額1.6倍を達成
カルビー株式会社は、全国の工場や契約農家の畑を舞台に、ファンミーティング「Calbee Fan With! Project」を展開しています。収穫体験や社員との交流など、現場ならではの体験を提供。2024年度は約600名のファンと400名の社員が参加し、熱気あふれる交流が行われました。
特筆すべきは、イベント参加後の商品購入金額が約1.6倍に伸長した点です。一部の熱心なファンは運営企画にも携わるなど「共創」の側面も強く、体験を通じて高まった熱量が、そのままLTV向上へと直結しています。
参考:カルビー株式会社
03 株式会社ヤッホーブルーイング 様500人から5,000人規模へ成長したファンイベント「超宴」
株式会社ヤッホーブルーイングは、ファンイベント「よなよなエールの超宴」を長年開催し、熱狂的なコミュニティを築いています。「大人の文化祭」をテーマに、当初500人規模だったイベントは5,000人規模へと成長。社員自身がスタッフとして参加し、フラットに交流を楽しむ姿勢が特徴です。
直近のリアル開催では満足度94%という驚異的な数字を記録しました。短期的な販促ではなく、顧客と「友人」のような信頼関係を時間をかけて育むことが、結果として盤石なファンベースの構築につながっています。
ファンマーケティングを成功させる組織づくりと推進体制

ファンマーケティングは、マーケティング部門だけの取り組みでは成果が出ません。経営層・現場・顧客接点のすべてが連携し、全社的に推進する体制づくりが求められます。
経営層の理解とコミットメントを得る
ファンづくりは即効性のある施策ではないため、経営層の理解がないと途中で予算が打ち切られるリスクがあります。ファンづくりの目的や効果を、LTVやブランド価値の観点で可視化し、投資する価値を示すことから始めましょう。
その際、「売上」だけでなく「顧客資産の蓄積」がいかに経営の安定に寄与するかを伝え、トップからのコミットメント(確約)を得るよう働きかけるのがポイントです。全社的な方針として位置づけられることで、各部署の協力が得られやすくなり、施策の継続性が担保されやすくなります。
推進チームの構成と役割分担
ファンマーケティングは、カスタマーサクセス、商品開発、データ分析など、部署を横断した連携が必要です。各部門からメンバーを選出してチームを組み、それぞれの知見を持ち寄るのが理想的です。
例えば、SNS担当が拾ったファンの声を商品開発にフィードバックしたり、営業現場の課題をイベント企画に反映させたりと、部門の壁を越えた情報共有の仕組みを作りましょう。役割と意思決定の流れを明確にし、短いサイクルで施策を試し改善していくことが成功への近道です。
外部パートナーとの連携活用
すべての施策を自社で行う必要はありません。特に大規模なイベント運営やコミュニティ設計、データ分析などは、専門企業と連携することで、クオリティと成功確率が高まります。
商品力や想いといった自社の強みと、パートナーの企画力や運営力などを掛け合わせる視点が大切です。JTBのようなプロモーションやイベント運営に長けた企業を巻き込めば、社内の負担を減らしつつ、顧客に最高品質の体験を届けることが可能になります。
ファンマーケティングの注意点と失敗を避ける5つのポイント

ファンマーケティングには成功事例が多い一方で、誤った進め方によって成果が出ないケースも存在します。ここでは企業が陥りやすい失敗と、その防止策を解説します。
1. 短期成果だけを求めすぎない
ファンづくりは短期施策ではなく種をまき、水をやって育てるような、中長期で見るべき取り組みです。開始直後から急激に売上が跳ね上がるような即効性を求めすぎると、強引な売り込みに走ってしまい、逆効果になることがあります。
成果が出るまでには一定の時間が必要であることをチーム全体で認識し、1~2年単位で効果を捉える視点が必要です。焦らずじっくりと信頼関係を構築していく姿勢が、結果として最短で強固なファンベースを築くことにつながります。
2.期待とのズレに備える
熱心なファンほどブランドへの期待値も高いため、その期待を裏切るような変更や不誠実な対応があると失望が大きくなり、ときには強い反発から炎上を引き起こすことがあります。
「コミュニティのガイドライン」を事前に策定するなど、万が一の危機対応プロセスを事前に整えておくことが重要です。
3. 初心者や新規ファンも参加しやすい場を設計する
古参のコアなファンだけが集まり盛り上がる環境になると、コミュニティが閉鎖的になり、新たなファンが入りづらくなります。これではファン層の広がりが止まってしまいかねません。
新規参加者向けのウェルカムプログラムを用意したり、コアなファンが新規メンバーを歓迎する仕組みをつくったりと、常に「開かれたコミュニティ」を意識した運営が必要です。
4. 商材との相性を見極める
すべての商品がファンマーケティングに向いているわけではありません。一般的に、感情的な価値やストーリー性がある商品、趣味性の高い商材のほうがファンを生みやすい傾向があります。
一方で、コモディティ化が進んだ日用品などは、ファン化の難易度が高くなりがちです。自社の商材が「語りたくなる要素」や「体験価値」を持っているかを見極め、場合によってはファンマーケティング以外の戦略を優先するという判断も必要です。
5. 成果測定はLTV・声・参加行動の3軸で行う
ファン施策の効果は、売上やフォロワー数だけでは測れません。見かけの数値は良くても、ファンの熱量が下がっている場合があるからです。
LTVやリピート率などの「定量指標」と、口コミやファンの声といった「定性指標」、そしてイベント参加回数などの「行動指標」。これら3つを組み合わせ、多角的に評価することが、ファンの状態を正しく把握し施策の精度を高めることにつながります。
まとめ

ファンマーケティングは、広告費の高騰や市場の変化に対応し、企業が持続的に成長するための強力な経営戦略です。顧客を「ターゲット」ではなく「パートナー」として捉え直し、共感と信頼をベースにした関係を築くことで、売上の安定やLTVの向上といった確かな成果につながります。
まずは、自社の顧客が「なぜ私たちを選んでくれているのか」を知ることから始めてみましょう。顧客の心に寄り添い、共に歩む姿勢こそが、最強のマーケティングチームを作る第一歩となります。
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