「広告やコンテンツは打っているのに、思うように商談が進まない」
「リードは取れるが、受注やファン化につながらない」
BtoBマーケティングの現場では、こうした悩みが後を絶ちません。
そうした中、改めて注目されているのが展示会・交流会・イベントなどの「オフライン施策」です。情報があふれ、“見られない前提”が強まる今だからこそ、物理的な接点が生む価値をどう最大化するかが問われています。
「第9回JTB Engagement Salon」では、野村不動産の宮地氏と行動経済学コンサルタントの山本氏が登壇。「顧客の行動を促すBtoBマーケティング術」をテーマに、対談が行われました。

JTB Engagement Salonとは…
特定のビジネステーマについて考え、ディスカッションし、気づきを得ることを目的としたサロン形式のイベントです。テーマ理解を深めるだけでなく、同じ悩みを抱える異業種担当者同士の交流の場としても開催しています。
お話を伺った方

野村不動産株式会社
都市開発第二事業本部 物流事業部 副部長 兼 事業企画課長 宮地 伸史郎 氏
2005年 新卒で総合不動産会社に入社。
2017年 野村不動産株式会社にキャリア入社。都市開発事業本部にてオフィスビルの商品企画・推進事業に従事し、都市開発事業本部にて、新規事業としてサテライト型オフィス事業「H¹T(エイチワンティー)」を立ち上げる。
2022年 都市開発第二事業本部 物流事業部に異動。2024年 副部長に就任(現職)。物流事業部にて大規模高機能型物流施設「Landport」のマーケティング・商品企画・営業企画・人材育成・CRM・新規事業を所管。

Behavioral Science Group, LLC
行動経済学コンサルタント 山本 将太 氏
2015年 新卒で東証一部上場企業に入社。
その後、Web広告代理店での勤務を経て、独立・起業。
マーケターとして、業界・業種問わず累計100社以上の集客・売上支援に携わる。
現在は行動経済学コンサルタントとして活動。
スタートアップから大企業まで様々な企業に対して、マーケティング・営業・商品設計など幅広い領域における行動経済学の導入支援やコンサルティングを行っている。
“人は合理的に動かない”からこそ、オフラインが効く
対談で浮かび上がったのは、「人は合理的に動くとは限らない」という事実です。象徴的だったのが、サテライト型オフィス事業『H¹T』の「登録無料」施策です。導入をブーストする狙いで登録無料にしたものの、結果として社内手続きが後回しになり、開始が進まない――宮地氏はこの点を“失敗”として語りました。
合理的には「無料=導入しやすい」はずなのに、行動としては進まない。
このギャップは、オフライン施策の設計にも直結します。「良いコンテンツを用意した」だけでは人は動かず、次の行動を生む仕掛けが必要になるからです。
接点数×歩留まりの掛け算を最大化する
宮地氏が取り組む物流施設は、野村不動産が物流会社に貸し、その先で荷主企業が利用する――いわば“BtoBtoB”の世界です。関係者が増えるほど、判断軸や優先順位も増え、「良い商品だから」という理由だけでは検討が前に進まない。結果として、認知から商談・商談から契約までの間に、小さな離脱ポイントが点在します。
そこで、顧客接点を大きく4つの段階で捉えました。
- 展示会やリスティング等で知ってもらう/接点を作る
- メルマガ等で再認識してもらう
- イベント等で検討を進める
- その先でテナント化・関係深化へつなげる

ポイントは、三角形の下側を厚くしながら、上に行くほど小さくなる歩留まりを改善し、接点数×歩留まりの掛け算を最大化すること。BtoBのマーケティングを“点”ではなく“流れ”として設計する視点です。
オフラインの価値を“成果”に変えるための条件
ここで重要なのが、「オフラインは効く。しかし、効いた熱量を成果に変えるのは営業の動きである」という現実です。
宮地氏は、マーケティングを「戦略→コンテンツ化→発信→分析」という施策の流れだけで終わらせず、その結果を現場に戻す「教育研修」までを含めて捉えるべきだと語りました。施策で接点が増えるほど、商談対応に必要な営業人数は増え、若手の登用も進みます。そのときに起きやすいのが、提案内容や説明のばらつきです。だからこそ、分析で得た学びを“現場が同じ品質で動ける状態”にできなければ、オフライン施策で生まれた熱量も受注や関係深化まで運びきれない――ということです。

さらに宮地氏は、過去の販売経験を例に「成果を左右するのは外部環境だけではなく、社内の認識も同じくらい大きい」と示唆しました。営業はデータや理屈だけで動くとは限らず、「今売れているか」「周囲がどう言っているか」といった空気に引っ張られ、自己防衛的に“動かない”選択をしてしまうことがある。だから、人の行動特性を前提にして社内の理解・納得まで設計しないと、施策は途中で空転しやすい――という指摘です。
なぜオフライン施策が有効なのか?行動経済学で読み解く4つの効果
では、オフライン施策では具体的に、どのように商談を進めるのでしょうか。山本氏が行動経済学の観点で読み解くと、主に4つの効果が浮かび上がりました。
01 タッチポイントが“第一想起”をつくる(長期検討のBtoB取引に効く)
BtoB取引では比較検討期間が長いため、「思い出されること」が重要です。対談では、タッチポイントの多さが第一想起を得やすくなることが語られました。さらに単純接触効果の観点でも、接触が好意形成に寄与する可能性が示されています。
02 オフラインは“見られる”前提――注意(アテンション)を獲得しやすい
デジタル接点では、情報過多の中で「見られない前提」が強まっています。一方オフラインは、物理的接触そのものが起きる。対談でも、オフラインでの接触が持つ強さが指摘されました。
03 「時間と手間をかけた行動」が、意思決定を押す
展示会や内覧会の価値は「情報を渡すこと」だけではない、という点です。わざわざ会場に足を運び、説明を聞き、時間を割いた――その行動があると、人は無意識に「行ってよかった」と感じられる理由を探し始めます。結果として、比較検討の局面でも候補から外れにくくなり、検討が次の段階へ進みやすくなる。オフラインの強みは、こうした“次の行動の後押しをしてくれる”ことにあります。
04 場の雰囲気や対人印象が意思決定を左右する(BtoB取引でも、人は感情で動く)
オフライン施策の高揚感や、交流・会話(場合によってはお酒を交えたカジュアルさ)が、ポジティブ感情を生みやすいという文脈も語られました。理屈だけではなく、“この会社と進めたい”という感覚をつくることが意思決定を左右する――という示唆です。
次の挑戦:ホットリードの獲得へ向けて
オフライン施策はやること自体がゴールではありません。設計の精度が成果を分ける――その具体例として語られたのが、野村不動産が出展した展示会「国際物流総合展」の振り返りです。
野村不動産は90コマ規模で出展し、KPIを超えるリードを獲得。一方で「もっとできることがあった」という課題感も残ったといいます。

そこで来期は、単なるリード獲得ではなく、契約やファン化につながるホットリードの獲得へ舵を切ります。
“中に入ったら役に立つはずなのに、入りにくい”――そのギャップを、動線や見せ方といった体験設計で丁寧に埋めていく。そうすることで、価値が「伝わる」ではなく「届く」展示へと変えていく。オフライン施策は、設計を磨くほど成果が積み上がっていくことが示されています。
まとめ:オフライン施策は「体験設計」で成果が決まる
対談を通じて浮かび上がったのは、BtoBのオフライン施策は、次の行動を促す“体験設計”があって初めて効果が出るということです。
情報が過剰な時代に、リアルの接点は希少です。だからこそ、来場者が入りやすく、分かりやすく、短時間でも腹落ちする──動線や時間配分、見せ場(ピーク)、最後の印象(エンド)まで、磨き込むほどオフライン施策は「リード獲得」にとどまらず、商談化・ホット化へと成果を押し上げていきます。
本対談は、オフライン施策を成果に変えるための考え方と、改善の着眼点を具体的に示してくれました。
ご登壇いただいた野村不動産の宮地さん、ならびに行動経済学コンサルタントの山本さん、貴重なお話をありがとうございました。
「交流創造事業」を事業ドメインとするJTBは、旅行だけでなく企業のビジネスイベント開催も通じて、企業のエンゲージメント課題の解決を支援しています。年間1万件(2024年度実績)を超えるイベントを手がけるほか、企業のイベント担当者を対象とした調査も定期的に実施するなど、ビジネスイベントに関する知見やノウハウを擁しています。

参加者に記憶に残る体験をしてもらい、やがてはビジネスにつながるようなイベントを設計するには、満たすべき「3つのニーズ」があります。希望するすべての人が支障なく参加できる『フィジカルニーズ』、ビジネスに役立つ『ビジネスニーズ』、そして心に響き、記憶に残る楽しさや驚きの体験で心を動かす『エモーショナルニーズ』。
これらを満たした設計がイベントの成功に不可欠であり、そこに「行動経済学」などの科学的見地からアプローチしているのが、JTBのビジネスイベント事業となります。
顧客との関係性の強化に、ココロ動くJTBのイベント手法を取り入れてみてはいかがでしょうか。