働き方改革の一環として政府が推進していたリモートワークは、新型コロナウイルスの感染拡大によって一気に進みました。しかし、企業によっては、十分な準備を行えないまま導入したため、さまざまな弊害が顕在化し始めています。その一つが健康リスク、特に「リモートワークうつ」と呼ばれるメンタルケアの問題です。本記事では、まずリモートワークによる健康面での問題の実情を探り、企業が従業員のメンタルケアを行うべき理由とその方法について厚生労働省が提唱している「4つのケア」をご説明します。
リモートワーク時代の新たな健康リスク
「月刊総務」が2020年9月に公表したメンタルヘルスケアに関する調査結果によると、総務担当者の73.3%が「テレワークの方がメンタルケアが難しい」と回答しました。
出典:「メンタルヘルスケアに関する調査(2020年9月)」 (株式会社月刊総務)
同調査によると、「テレワークの推進によってストレスが増えていますか」という質問に対し、総務担当者の10.6%が「とても増えた」、44%が「やや増えた」と回答しており、全体の半数以上がテレワークの推進によりストレスを感じていることがわかります。また、「従業員のメンタル不調の要因はなんだと思いますか」という質問に対しては「テレワークによるコミュニケーション不足・孤独感」が最も多く60.0%、「外出しないことの閉塞感」が56.5%、「新型コロナウイルス感染への不安」が54.9%と続いています。以上の調査結果が示すように、多くの総務担当者が従業員のメンタルヘルスの不調とリモートワークが密接に関連していると感じていることがわかります。
従業員のメンタルケアの重要性
厚生労働省が策定した【労働者の心の健康の保持増進のための指針】では、メンタルヘルスの不調を次のように定義しています。
“精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行動上の問題を幅広く含む”
この定義から「従業員が重度の精神障害や鬱症状に陥らなければよい」というのではなく、企業は、従業員一人ひとりが「ストレスや強い悩み、不安など」を抱えた段階でできるだけ早めに状況を把握し、幅広い分野にわたりサポートすべきであることがわかります。
出典:職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~ |厚生労働省
従業員のメンタルケアが重要な理由 ~健康経営という考え方~
健康経営とは従業員の健康が企業の生産性向上や組織の活性化につながるとの認識のもと、健康管理を経営の視点で考え戦略的に実践することです。経済産業省では、健康経営を推進するために2014年度から「健康経営銘柄」の選定を、2016年度から「健康経営優良法人認定制度」を創設しています。
そして、「健康経営優良法人」認定のための条件として、従業員の心と身体の健康づくりに向けた対策を講じていることが求められ、その中には「メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組み」も含まれています。企業が認定を受けることができれば、社会的な評価も高まり、結果として株価の上昇や投資誘致などの効果も期待できます。
企業のメンタルケアの取り組み状況
リモートワークによる健康リスクの拡大から、企業が健康経営に力を入れる必要性はますます高まっています。しかし、その対策は遅れているのが現状のようです。
前出の「月刊総務」の調査によると、「従業員のメンタルケアのために行っている施策」として最も多かったのは「相談窓口の設置」(34.1%)であり、次に多かった回答は「実施している施策はない」(28.2%)でした。
職場環境改善に効果的な方法とは?
厚生労働省は「メンタルヘルス指針」(平成18年3月策定、平成27年11月30日改正)において、メンタルヘルス不調を防止するためには、未然にそれを防ぐ「一次予防」、メンタルヘルス不調者を早期に発見して、適切な措置を行う「二次予防」、メンタルヘルス不調者が早期に職場復帰するための「三次予防」が必要であるとしています。この基本的な考えに基づいて、事業者はメンタルヘルスのための計画を策定し、「4つのケア」を行うことが求められます。
01セルフケア
セルフケアといってもメンタルヘルスを個人任せにしてよいということではなく、個人に「気づき」を与えるためにはストレスチェックなどの実施が欠かせないということです。また、メンタルヘルスを正しく理解し、従業員自らがストレスに対処する方法を学ぶためには研修などの機会を通じて情報提供を行うことが大切です。テレワーカー向けにオンラインでの研修も検討できるかもしれません。
02ラインマネジメントによるケア
ラインマネジメントによるケアとは各従業員の直属の上司による観察・監督を含めた部署内でのケアを指します。テレワーカーのメンタル不調の最大要因として挙げられていたのが「リモートワークによるコミュニケーション不足・孤独感」だったように、これまで職場で毎日顔を合わせたり、雑談したりすることで観察できていた従業員の変化をリモートワークでは感じ取るのが難しくなっています。メールなどテキストでのやり取りは業務連絡・要件のみになってしまうため、意識的にテレワーカーとのWeb面談を実施したり、オンラインでのイベントを実施したりすることにより、コミュニケーションの機会を増やすことが必要です。そして、変化を察知したら、産業医などと密接に協力し、早めの予防を心がけるのがポイントです。
03事業所内産業保健スタッフ等によるケア
産業医や保健師、メンタルヘルス推進担当者は、セルフケアやラインによるケアが効果的に機能するように計画を立案したり、外部連携を行ったり、メンタルヘルス不調者の職場復帰を支援したりする役割を担います。
04外部連携
各従業員の効果的なメンタルケアのために外部の企業や組織と連携します。その一つとして、メンタルヘルスをテーマに従業員を対象にしたアンケートや調査を実施し、組織の現状をデータによって可視化・数値化する方法があります。それに基づいて、全社・部門・個人単位でどんな取り組みを行えるのか具体的な施策を提案してもらうこともできます。
出典:職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~ |厚生労働省
まとめ
コロナ禍によりリモートワークが導入され始めた頃は、メンタルケアの強化はあまり注目されていませんでした。コロナ禍が1年以上続き、なお、先行きが見通せない今、テレワーカーを念頭に置いたストレスケア対策を早急に検討することが必要になってきました。定着率を高め、持続的に組織が成長していくためには、企業側から従業員へ情報提供など積極的な働きかけを行うことが大切です。またシステムの導入も有効と言えます。自社に合った健康支援の実施には、会社の規模や予算だけではなく、従業員のニーズにあった施策かどうかという点も重要です。さまざまな要素を考慮しながら施策や導入するサービスを検討してみてはいかがでしょうか。
JTBの「健康支援サービス」は、コンサルティングと施策の提案でメンタルケアを含めた健康経営推進をサポートいたします。ぜひご相談ください。