コロナ禍により業績が低迷している状況を打破するため、ブランディング戦略に力を入れたいと考える総務・人事担当者も多いのではないでしょうか。これまでブランディングというと、顧客向けのブランディングであるアウターブランディングがメインでしたが、自社で提供できる価値は何かを考える従業員向けのインナーブランディングの重要性が改めて注目されています。今回は、インナーブランディングの定義や重要性、成功させるポイントについてお届けします。
インナーブランディングとはなにか?
ブランディングには、顧客や株主など外部のステークホルダーを対象にした「アウターブランディング」と、企業が従業員に向けて行う「インナーブランディング」の2つがあります。
アウターブランディングは、顧客やユーザーといった社外に向けたブランディング活動です。商品コンセプトの策定やロゴ・商品パッケージの制作、広告出稿などを行います。一方、インナーブランディングは、企業が経営方針やビジョン、目指すべき姿、事業戦略などを全従業員に共有し理解してもらうことで、企業の一員として誇りを持ってもらう啓蒙活動です。こうした企業と従業員の信頼関係を構築する活動を行うことで、従業員エンゲージメントが向上し、組織が強くなると考えられています。
インナーブランディングが重要な理由とは?
次にインナーブランディングが重要な理由を、組織と従業員の2つの観点から見ていきます。
まず組織です。コトラーのマーケティング理論によると、マーケティングは時代に合わせてその定義をアップデートしてきました。現代のマーケティングは「自己実現中心」と言われており、「顧客の自己実現のために、自社で提供できる価値は何か」を考えることがポイントになってきています。つまり、サービス提供者である社員一人ひとりが、自社の提供価値や強み、特徴などを等しく理解し、組織として一枚岩になり顧客に正対する必要があるのです。
次に従業員です。これまでは、従業員が働くモチベーションは、主に給与・報酬の面が大きいとされてきました。しかし、最近の若い世代は「仕事を通じた社会貢献」や「自分の成長を実現すること」に、仕事へのやりがいを見出す傾向にあります。これは、マズローの法則でいうところの「モチベーション3.0」の「自己実現」にあたります。仕事そのものに対して、価値や魅力を感じてモチベーションを保つ段階です。
したがって、企業の成長には、従業員の自己実現と企業としてのミッションをリンクさせることが大切になってきます。企業は、従業員が何をしたいのかを把握するとともに企業として考える価値観を共有することが必要なのです。そうすることで従業員のモチベーションがあがり、モチベーションがあがった従業員によって、品質の高いサービスが提供でき、顧客の満足度が高まるといった流れが生まれます。結果、離職率も低下し、業績も向上。持続的な成長へのサイクルが完成します。
事例にみるインナーブランディング成功のポイント
インナーブランディングを成功させるポイントとして、以下の3ステップが挙げられます。事例とともにお伝えします。
01経営者が主導する
02従業員がプロセスを楽しめるような仕組みを作る
03企業理念を従業員に伝え続ける
この成功ポイントをおさえた、インナーブランディングプロジェクトの企業事例をご紹介します。
IT企業A社のインナーブランディング・プロジェクト
STEP01従業員が抱える課題の把握
経営トップが発信する経営理念を理解している従業員が少なく、自社が目指す将来へのビジョンに対する理解や主体的に仕事を生み出していこうという内発的なモチベーションが足りていない状況でした。
経営層と従業員の間にあるギャップを可視化するため、全社員向けのアンケートを実施。アンケートによって、今まで目に見えなかった社内の課題を明確にするとともに、「アンケートに答える」ことで従業員一人ひとりに当事者意識を芽生えさせるという効果がありました。
STEP02組織変革プロジェクトの立ち上げ
自社の現状と理想とのギャップを埋めるために、経営トップが日頃から口にする「自己実現」をキーワードにして企業成長を実現させるプロジェクトを発足。自己実現は、マズローが提唱する人間の欲求の最上位を占めるもので、この欲求が満たされないままでは自社の成長は難しいと判断しました。そこで、マズローの欲求の段階と会社が実現したいことを照合し、社内からプロジェクトを実行する担当者を募りカテゴリーに沿った企画を提案することになりました。従業員がプロジェクトに参画し、実現したい企画を決めるという仕組みが、楽しみながら企業成長を実現させ、従業員の内発的モチベーションを刺激することにつながりました。
STEP03ビジュアル戦略で組織変革の本気度を伝える
企業を変えていくことに対する本気度を全従業員に伝えるクリエイティブ戦略を策定。ロゴマークやポスター、PR動画などのオリジナルのコンテンツがトップクリエイターによって作られました。オフィス内で目に止まりやすいポスターのデザインは、プロジェクトのフェーズが進むたびにビジュアルを変更されるなど、プロジェクトを盛り上げる演出を行い、プロジェクトの重要性や組織変革の意識を全従業員に持ってもらえる工夫を行いました。
STEP04全社員参加のプレゼンテーション・イベントを実施
プロジェクト参加者は6名ずつ13チームに振り分けられ、創立記念イベントにて「自社の未来を創る」企画をプレゼンテーションすることに。各チームで動画やCGなどを使用したプレゼンテーション資料をもとに、“自社をどういう企業に変革させたいのか”を従業員の前で発表しました。各チームのプレゼンテーションを見て、従業員は実行してみたい取り組みに投票。上位3チームが授賞式で表彰され、取り組みを実行に移しました。
インナーブランディングの代表的な手法
ここで、インナーブランディングの代表的な手法をいくつかご紹介します。
キックオフミーティング
企業や部署の戦略や目標を全員で共有する場として行われます。年度の初めに会社全体で開催したり、四半期毎に部署単位で行ったりする企業もあります。組織のリーダーが従業員に直接語りかけることができるのが最大のメリットです。定期的に開催すると効果的です。
オフサイトミーティング(戦略キャンプ)
企業や部署の戦略や目標について共有する場としては、キックオフミーティングと同じですが、リゾート地や温泉地など普段とは違った場所で行うのが特徴です。非日常空間で、カジュアルな形で行うため、従業員の積極的な参加が期待できます。今後ワーケーションを絡めての実施も増えそうです。
社内向け特設Webサイト
社員向けサイトや特設コーナーの制作はインナーブランディングを進める上で有効です。タイムリーに情報を掲載できることと従業員がいつでも見ることができるのがメリットです。
研修・セミナー
すでに実施している業務研修やセミナーに企業理念に触れるプログラムを加えるのもおすすめです。従業員がビジョンや理念について考える機会を多数つくること、また従業員自らがインナーブランディングを進めていく仕組みを作るのが理想的です。
ワークショップ
違う部署の従業員同士が考え、意見を交換することで共通の認識を持ちやすくなるのがメリットです。また現場の温度感を掴むこともできるので、会社からの一方通行ではなく、相互のやり取りにより企業理念やビジョンを浸透させることができます。
1on1ミーティング
多くの企業で取り入れられているのが部下と上司が面談を頻繁に行う「1on1ミーティング」です。部下と本音で話せる環境を作ることは、部下のマインドセットに最適ですが、何より部下の考え・価値観を直接聞けるというのが最大のメリットです。
HR Techサービスの導入
ここ数年、注目されているのが人事の領域にデジタルの力を取り入れ、社員の価値観やモチベーションを可視化し、施策の効果を高めようという「HR Tech」です。さまざまなものがありますが、企業理念やビジョンの浸透度を可視化したり、KPIを設定し、施策をリコメンドしてくれたりするものもあります。インナーブランディング浸透のPDCAをサポートしてくれます。
まとめ
今回は、改めて注目されているインナーブランディングについてお届けしました。コロナ禍により社員間コミュニケーションが希薄になっていると言われていますが、企業と従業員のコミュニケーションも同様なのではないでしょうか。企業と従業員のコミュニケーション促進はエンゲージメント向上につながります。その1つの方法がインナーブランディングです。インナーブランディングは、「組織」「従業員」の2つの観点からも重要になってきているとお伝えしました。推進にあたっては、「組織」と「従業員」の2つの観点で考えていくのがおすすめです。 インナーブランディングの成功が企業の成長に大きく関わり、またインナーブランディングなしでは、自己実現という従業員の欲求を満たすことは難しい状況になりつつあると言えます。貴社でもインナーブランディングを始めてみてはいかがでしょうか。