新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、社会全体のオンラインシフトが進み、多くの人がリアルイベントから遠ざかっていました。そのため、少し落ち着きを取り戻しつつある今、多くの企業がリアルイベントの開催を検討し始めています。ワクチン接種率の高まりなどにより、ようやくリアルイベントが再開されつつあります。しかし、実際にリアルイベント開催にあたり、感染拡大につながるのではないかと不安を感じる方も少なくありません。感染拡大防止のためには適切なリスクマネジメントが必要です。そこで本記事では、コロナ禍におけるリアルイベントのリスクマネジメントについて実例とともに解説します。延期・中止していたリアルでのビジネスイベントをお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。
オンライン化の中で浮かび上がるリアルイベントへの渇望
ビジネスイベントのオンライン化と問題点
コロナ禍において、企業説明会、入社式、内定式、新人研修、表彰式などのビジネスイベントの多くがオンライン化されました。また、社外向けイベントにおいても、イベントプロモーションや展示会、経営方針発表会などの多くがオンライン化の流れを余儀なくされました。
しかし、急激に浸透したオンラインイベントですが、いくつかの問題点も浮上しました。ここでは、オンライン新人研修とオンライン展示会に焦点を当ててご紹介します。
まずは、新人研修です。オフライン研修の場合、新人研修の期間に新入社員同士は毎日のように直接顔を合わせるため、交流を深めることができます。しかし、オンライン研修の場合、新入社員はそれぞれの自宅で研修を受けることとなるため、オフライン時のように新入社員同士の交流を深めることは難しい状況です。また、一方的に聞くだけなど受け身になりやすいといった問題や社員の緊張感や集中力が低下しやすいなどの問題も明らかになりました。
次に展示会です。オンライン展示会においても、いくつかの問題点が明らかになりました。まず、サイトの構築のために新たなコストがかかるということです。さらに、実際に現場で商品を見ながらお互いに会話を交わし、相手の反応を見ながら関係性を構築していくことができません。加えて、リアル展示会であれば可能な来場者に対するプッシュ型の営業をかけられない点も挙げられます。
リアルイベントを渇望する声
企業のイベント担当者に対しJTBが行った調査によると、2021年度においては、社内・社外イベントともに、実に60%を超えるイベントがオンラインで行われました。
今後、コロナが収まることを想定した場合の企業の意向としては、オンラインとオフラインとの両方を同時に行うハイブリッド型での開催を考える企業が最多を占めています。特に、参加人数が300人を超える大きなイベントに関してはハイブリッド型を望む傾向にあります。
しかし、コロナ感染を不安視する人は多く、以前のように気軽にリアルイベントに足を運ぶ人は減少しているのが実情です。そこで、感染状況の落ち着きを見ながらまずはハイブリッド型イベントから開催し、その後は状況に合わせて検討していくというのが多くの企業の考えです。
ワクチン接種率がほぼ8割近く(※2021年11月末現在)に上るなど、一旦状況は落ち着きつつありますが予断は許さない状況です。今後は、多くの企業においてハイブリッド型イベントを含めたリアルイベントの開催を検討することが多くなってくるでしょう。
関連情報:ホワイトペーパー(お役立ち資料)
企業の「セミナー・展示会イベント・研修」担当者に聞いた!「ビジネスイベントの現在とこれから」
JTBでは、これまで2020年度、2021年度と複数回にわたり調査を実施。企業側の開催意向や参加者のニーズの変化等を考察してきました。これからのビジネスイベントはどうあるべきなのか?他社はどのように考えているのか?そして、参加者は何を求めているのか?今後の貴社のビジネスイベントの企画のヒントになれば幸いです。
リアルイベント成功のためのリスクマネジメントとは
リアルイベントの実施にあたっては、リスクを把握したうえで準備を進めることが重要です。コロナ禍の今、一番のネックが「感染リスク」です。リアルイベントを行いたいものの、どのように取り組めばよいのか頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。ここからはリアルイベントにおける感染対策についてご紹介します。
事前準備の5つのポイント
リアルイベントの開催には、会場選びやスタッフの体調管理などをはじめとした、入念な事前準備が大切になります。事前準備で気をつけるべき5つのポイントを紹介します。
01会場準備
会場では、物理的な距離の確保が必要です。300人規模の会場の場合には、参加人数を100人に限定するなど、キャパシティに対して参加人員を少なくするのがポイントです。そのうえでソーシャルディスタンスを反映させた会場レイアウトを検討します。また会場の換気や入場者と退場者の導線なども確認が必要です。なお、来場者以外にオンラインでの参加を募り、リアルとオンラインとを取り入れたハイブリッド型の開催もおすすめです。
02スタッフの管理
参加スタッフの体調管理は不可欠です。スタッフが当日、発熱や体調不良となった場合、不参加を徹底させるのはもちろん、事前の健康診断受診や定期的な健康観察も検討が必要です。また不測の事態に備え、余裕のある人員を確保することも重要です。
03参加者の管理
当日の参加条件として発熱がある場合は参加しないことや、十分な感染対策をしたうえで開催する旨を事前に通知します。また感染リスクを下げるために当日はスタッフが大声で指示を出せないことなども伝えておきます。また、当日はマスク着用を義務づけるとともに、密を避けるためにあらゆる場面でソーシャルディスタンスを確保します。名刺交換や事後のアンケートなどをデジタル化するのも有効です。
04備品の準備
アルコール消毒液、予備のマスク、飛沫防止用のパーテーションやアクリル板、注意喚起を伝えるための掲示板、足元に印をつけるシール、検温のためのサーモグラフィー、参加者を確認するためのバーコードなどや名刺交換のためのデジタルアイテムといった、感染対策に必要な物を揃えておきます。
05運営計画の策定
上記4つのポイントを踏まえて運営計画を策定します。参加条件やスタッフ・関係者の健康管理、当日の会場のレイアウトや参加者導線をマニュアルとしてまとめます。万が一体調不良者が出た場合の対処方法もあらかじめ決めておきます。
リアルイベントで「3密」を避ける5つのポイント
次にイベント当日、気をつけるべき5つのポイントを参加者の動きに合わせてご紹介します。
01会場入口
会場入口は人が集まりやすい場所の一つです。密にならないように、受付時間に時間差を設ける、待機場所を用意するといった工夫を検討します。また、感染対策から、事前に参加者には当日は大声で指示を出せない旨を周知しておきます。必要事項を記入した掲示板を準備し、伝えたいことはそこに記しておきます。そのほか、入口には「ソーシャルディスタンスをキープするための足元シール」「検温のためのサーモグラフィー機器」「アルコールなどの消毒液」などを準備しておきましょう。
会場入口に到着するまでに、エレベーター、エスカレーターなどを利用する場合、そこにもお知らせボードを設置したり、ソーシャルディスタンスを考慮したシールを貼るなど3密防止を図ります。
02受付
受付での参加者確認には、バーコードなどのデジタルツールを活用します。また、スタッフと参加者との間には飛沫防止としてアクリル板などを設置します。パンフレットなどは、手渡しではなく各自で取ってもらうスタイルやデジタル配信を検討します。スタッフが直接手渡しする場合は、手袋を使用するのがよいでしょう。
03会場内
ソーシャルディスタンスを保つため、人と人の距離は2メートル以上空けけることを意識します。また、手すりやノブなどのこまめな消毒、換気の徹底を行います。
また登壇者と来場者との距離を2メートル以上空けたうえで、登壇者にはフェイスマスクなどを使用してもらいます。ワークショップなどを行う場合には、アクリル板などを設置し飛沫感染防止に努めます。
椅子やテーブルを並べる場合も、2メートルを意識して並べます。固定されている椅子やテーブルで、そのような配慮が難しい時は、席をひとつ空けて着座してもらうよう依頼します。ドアノブや手すりなど、人が手を触れる場所はスタッフが定期的に消毒します。加えて、会場内の換気も定期的に行います。
04休憩中
可能であれば、トイレを複数の場所にわけて案内します。また、ゴミを定期的に片づけ、こまめな消毒を行いましょう。喫煙所の閉鎖も密を避けるためには効果的です。
05会場出口
会場出口も人が集まりやすいところの一つです。入退場自由なイベントの場合には導線をわけます。入口や会場内にスタッフが集中し、出口の案内がおろそかになることも考えられます。
時間差をつけた規制退場や掲示板による注意喚起などを行い、密にならないよう努めます。名刺交換や参加後のアンケートをデジタル化することで、筆記用具や印刷物のやり取りからの感染リスクを下げます。
出典:イベント開催のための「3密を避ける対策」~コロナ禍での300人セミナー運営~|株式会社ウィズアス
リスクマネジメントを行ったイベント事例
01 イベント事例 イベント企画会社A社主催の大規模なカンファレンス
A社は2020年、国内外のブランド企業のトップマーケッターを200人以上集め、各業界の取り組みの共有や課題解決方法の議論のためのカンファレンスを開催しました。会場入口にサーモグラフィーカメラを設置して体温測定を行ったり、紙による名刺交換での接触を避けるため、QRコードを用いた非接触形式の名刺交換システムを採用するなどの感染対策を施しました。登壇者についての感染対策も徹底。海外から入国後14日以内の人や、濃厚接触者の疑いがある人など、一定の条件を定め、その条件の人は直接登壇の形を取らず、リモートでの登壇としました。加えて、登壇者と聴講者との距離も2メートル以上離し、ソーシャルディスタンスをキープ、感染リスクを下げました。
02 イベント事例 国際見本市を開催するB社主催のエレクトロニクス開発・実装展
B社は2021年1月、東京ビッグサイトにてエレクトロニクス開発・実装展を開催しました。来場者数の制限、全参加者のマスク着用、全参加者サーモグラフィーによる体温測定、ソーシャルディスタンスの徹底、飛沫防止シートの設置、看護師の医務室常駐、セミナーごとの消毒の徹底、注意喚起看板の設置といった感染対策を実施。政府・自治体および展示会業界のガイドラインを基に安全を確保したイベントを開催。3日間の来場者は14,000人を上回り盛況のうちに終了しました。
まとめ
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、社会全体のオンライン活用が進み、多くの人がリアルイベントから遠ざかっていました。人との直接の交流が少なくなった今、リアルイベントを望む人が増えつつあります。そのため、今、多くの企業がリアルイベントの開催を検討し始めています。
これからのリアルイベントは、感染拡大を防止するためリスクマネジメントが必須事項です。実例を見てもわかる通り、感染対策は特別なものではなく、基本に忠実に行うことが大切です。顧客との接点が大きく変わり、オンラインがメイン手段の1つとなったコロナ禍。これからは、戦略的に、リアル、オンライン、ハイブリッドを使い分ける時代です。顧客との接点強化のために、リアルイベントの開催を検討してはいかがでしょうか。