「期待していた若手がまた辞めてしまった」「エンゲージメントサーベイのスコアが改善しない」「テレワークで部署間の連携が希薄になった」。こうした悩みを抱える人事担当者は少なくありません。その原因の1つとして、会社の向かう方向と社員の成長を結びつけることができる「的確で効果的な施策」を打つことが大変難しいということが挙げられます。
本記事では、個人向け施策としての「人材開発」、組織向け施策としての「組織開発」の2つのうち、特に難しいと言われる「組織開発」について、社員が「自分ごと」として参加できる組織を創ることを主題に、定義から具体的な進め方、成功事例、実践のポイントまでを徹底解説します。

組織開発とは何か|定義と本質を理解する
組織開発という言葉を聞いたことはあっても、具体的に何をすることなのか、なぜ今注目されているのか、理解が曖昧な方も多いのではないでしょうか。ここでは、組織開発の本質的な定義と、それが現代の企業経営において注目されている背景を明らかにしていきます。
組織開発の基本的な定義
組織開発の大家であるリチャード・ベックハードは、組織開発(Organization Development, OD)とは、「組織の効果性と健全性を高めるために、行動科学の知見を用いて、組織のプロセスに計画的に介入すること」と定義しています。
これは単に業績を上げるだけでなく、組織が活き活きと機能している状態を目指すという点が重要です。心理学や社会学といった行動科学の知見を活用し、人々の関係性やコミュニケーションのあり方といった「プロセス」に働きかけることで、組織全体の力を高めていきます。
組織開発が目指す3つのゴール|「やらされ感」を「自分ごと」へ
組織開発の真のゴールは、社員の「やらされ感」を「自分ごと」へと転換させることに集約されます。
具体的には、
- 企業の存在意義(ミッション・ビジョン・バリュー=MVV)と社員の成長を接続すること
- 社員一人ひとりの主体性を引き出し、エンゲージメントを高めること
- 変化に適応し続ける自己革新力のある組織を築くこと
の3つです。
まず、多くの企業でMVVが形骸化し、現場の業務と結びついていない問題があります。組織開発では、このMVVを組織の「背骨」として機能させ、企業の進むべき方向と社員の日々の業務、そして個人の成長を接続します。これにより、社員は自分の仕事が単なるタスクではなく、より大きな目的の一部であると実感できるようになります。
次に、社員が安心して自分の意見を述べ、主体的に行動できるように、心理的安全性の高い職場環境を作ることが必要です。失敗を恐れずに新しい挑戦をはじめ、自らの意思で組織に貢献しようとする環境を作るとエンゲージメントが生まれます。
最後に、外部環境の変化に対して組織自らが学習し、変化し続けられる「自己革新能力」を身につけることで、不確実な時代においても持続的に成長できる組織となります。
なぜ今、組織開発が必要なのか|VUCA時代と多様性の海を航海するために
現代は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った「VUCA」の時代と呼ばれます。過去の成功体験やトップダウンの指示だけでは対応できない状況下では、現場のチームが自律的に考え、行動できる能力が不可欠です。
さらに、終身雇用の崩壊、リモートワークの普及、多様なバックグラウンドを持つ人材の増加により、従来の同質的な組織文化を前提としたマネジメントは困難になっています。そして、それらを要因とするコミュニケーションの希薄化や一体感の喪失は、ますます大きな課題になりつつあります。
こうした課題に対し、組織開発は関係性を再構築し、共通の目的意識を醸成するアプローチとして注目されているのです。
人材開発と組織開発の違い
「人材開発」と「組織開発」は、どちらも「開発」という言葉が使われていますが、その本質は大きく異なります。この違いを理解して、双方の施策のバランスを取りながら取り組むことが、結果的に組織力の向上につながります。

人材開発とは|個人のスキル向上に焦点を当てる
人材開発(Human Resource Development, HRD)とは、社員一人ひとりのスキル、知識、コンピテンシーを向上させ、個人のパフォーマンスを高める取り組みです。
具体的には、営業研修、リーダーシップ研修、語学研修といった各種研修プログラムや、コーチング、メンタリングなどを通じて、個人の能力開発を行います。対象はあくまで「個人」であり、その人が持つ専門知識や技術力、リーダーシップスキルなどを伸ばすことで、業務遂行能力やキャリア成長を支援することが目的です。
組織開発との決定的な違い
端的に言えば、人材開発が「個人の能力」に焦点を当てるのに対し、組織開発は「人々の『間』にある関係性やプロセス」に焦点を当てます。
組織開発は、チームや部門、組織全体というシステムを対象とし、そこで働く人々の相互作用や関係性、コミュニケーションの質、組織文化などに働きかけます。例えば、チームビルディングによってメンバー間の信頼関係を構築したり、ビジョン策定ワークショップで組織全体の方向性を共有したりすることで、組織の健全性と信頼性を高めていきます。
この違いを意識して進めることは、従業員の「また研修か」という誤解を避け、組織開発が組織全体の土台を見直すような、根本的な取り組みであることを明確に示すうえで重要です。
なぜ両方必要なのか|相乗効果を生む統合的アプローチ
人材開発と組織開発、どちらか一方だけでは不十分です。個人が成長しても組織文化や関係性が変わらなければ力を発揮できませんし、組織文化が良くても個人のスキルが伴わなければ成果は出ません。
優れた組織は、人材開発によって個人の能力を高めながら、組織開発によってその能力を最大限に発揮できる環境を整えています。例えば、リーダーシップ研修(人材開発)で学んだスキルを、チームビルディング(組織開発)の場で実践し、組織全体の変革につなげていく。このような統合的アプローチこそが、真の組織力向上を実現する鍵となります。
組織力向上の観点から見ると、個人の能力向上と組織の関係性改善は車の両輪のような関係にあり、どちらも欠かせない要素です。人材開発で培った個人の力を、組織開発によって結集させることで、1+1が3にも4にもなる相乗効果が生まれるのです。
組織開発のメリットと注意点|導入前に知っておくべきこと
組織開発には多くのメリットがありますが、同時に注意すべき点や課題も存在します。導入を検討する際は、両面を理解した上で、自社に適した形で進めることが重要です。

組織開発のメリット
組織開発がもたらすメリットは多岐にわたります。社員が「自分ごと」として仕事に取り組むようになり、定着率が向上します。組織力向上の観点から見ると、以下のような具体的な効果が期待できます。
01 エンゲージメントと生産性の向上
社員が組織の目的を理解し、自分の役割に意味を見出すことで、仕事への情熱とコミットメントが高まります。その結果、業務効率や成果の質が高まり、生産性の向上につながります。
また、心理的安全性の高い環境では、アイデアを自由に共有し、建設的な議論ができるため、新たな発想やイノベーションが生まれやすくなります。
02 離職率の低下と人材定着
組織開発により良好な人間関係と成長機会が提供されることで、特に若手社員の定着率の改善が期待できます。採用・育成コストの削減にもつながり、組織の知識とスキルが蓄積されていきます。
03 変化への適応力の強化
自己革新力を持つ組織は、市場環境の変化に素早く対応できます。現場レベルで問題を発見し、解決策を見出す力が養われるため、組織全体の適応力が高まります。
04 組織力の総合的な向上
個人の能力だけでなく、チーム間の連携やコミュニケーションの質が改善されることで、組織全体としてのパフォーマンスが向上します。部門の壁を越えた協働が促進され、組織の総合力が発揮されるようになります。
組織開発の注意点
一方で、組織開発には注意すべき点もあります。これらを事前に理解し、対策を講じることで、より効果的な取り組みが可能になります。
01 時間とコストの投資が必要
組織開発は短期的な成果を求めるものではなく、中長期的な取り組みです。効果が現れるまでに半年から数年かかることもあり、その間、継続的な投資が必要となります。
02 抵抗や反発への対処
変化を好まない社員からの抵抗や、「また新しい取り組みか」という冷めた反応に直面することがあります。特に過去に失敗経験がある組織では、慎重な導入が求められます。
03 専門知識とファシリテーション能力の必要性
効果的な組織開発には、行動科学の知見やファシリテーションスキルが必要です。内部だけで進めることが難しい場合は、外部の専門家の活用も検討する必要があります。
04 成果の測定の難しさ
組織文化や関係性の改善といった定性的な変化は、数値化が困難です。経営層への説明や投資対効果の証明において、工夫が必要となります。
組織開発には注意点もあるものの、「組織力の向上」には「組織開発」と「人材開発」の両輪が欠かせません。
成功したときのメリットは大きく、何もしなければ始まりません。注意点に配慮しながらも、継続的に取り組みを進めることが成功への鍵となります。
目的別・組織開発の代表的な手法

組織開発には、様々な課題や目的に対応するための豊富な手法(ツール)が存在します。ここでは、現状把握から文化変革まで、代表的な手法を「解決したい目的」別に分類し、それぞれの特徴と活用方法を解説します。
【診断系】エンゲージメントサーベイ
組織の健康状態を客観的に把握するには、診断系の手法が有効です。エンゲージメントサーベイは、社員のエンゲージメントとモチベーションの状態をスコア化し、組織の課題を可視化します。
エンゲージメントサーベイでは、仕事への熱意、組織への愛着、価値観の共有度などを定量的に測定します。年に1~2回実施することで、施策の効果測定や経年変化の把握が可能になります。重要なのは、調査結果を社員にフィードバックし、改善アクションにつなげることです。「調査するだけ」では、かえって社員の不信感を招く可能性があります。
【対話系】ワールドカフェ
組織開発の核心は「対話」にあります。ワールドカフェは、カフェのようなリラックスした雰囲気の中で、4~5人のグループが入れ替わりながら対話を重ね、組織全体の集合知を引き出します。
参加者は小グループでテーマについて対話し、一定時間後、ホスト役を1人残して他のメンバーは別のテーブルへ移動します。これを繰り返すことで、少人数の対話の親密さと、大人数でのアイデアの交差を両立させます。新しいビジョンの策定や、部門を超えた課題解決など、多様な意見を集約したい場面で特に効果的です。
【チーム開発系】チームビルディング
個人のスキルが高くても、チームとして機能しなければ成果は出ません。チームビルディング研修は、体験型のアクティビティを通じてチームの一体感を醸成します。
チームの成長を4段階で説明する理論「タックマンモデル」によれば、チームは「形成期→混乱期→統一期→機能期」という段階を経て成熟します。特に意見の対立が激化する「混乱期」を乗り越えることが重要で、チームビルディングはこのプロセスを意図的に促進します。アウトドア活動やワークショップ、シミュレーションゲームなどを通じて、メンバー間の信頼関係を構築し、役割分担やコミュニケーションルールを確立していきます。
【戦略系】ビジョン策定
組織全体が同じ方向を向くためには、明確な戦略とビジョンが必要です。ビジョン策定ワークショップでは、経営層と現場が共に未来を描き、組織の進むべき方向を共有します。
その代表的な手法の一つが、アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)です。これは、組織の強みや成功体験に焦点を当て、そこから理想の未来を描き出すアプローチです。「Discovery(発見)→Dream(夢)→Design(設計)→Destiny(実行)」の4Dサイクルを通じて、ポジティブな変革エネルギーを生み出します。トップダウンではなく、対話を通じて「ありたい姿」を共創することで、社員の当事者意識が醸成されます。
【文化変革系】カルチャーデック
組織文化は一朝一夕には変わりませんが、日々の行動を通じて徐々に醸成されます。カルチャーデック作成は、自社の価値観や行動規範を明文化し、採用や評価の基準とします。
カルチャーデックとは、企業文化を視覚的に表現したドキュメントです。単なる理念の羅列ではなく、具体的な行動例やストーリーを交えて、「私たちはこういう組織である」ということを内外に示します。Netflix社の「Freedom & Responsibility」やAirbnb社のカルチャーデックは有名な例で、これらは採用面接や新人研修、日々の意思決定の指針として活用されています。
組織開発の実践ロードマップ|明日から始める7つのステップ
組織開発が大切だとわかっていても、範囲が広く「何から手をつければいいのか」と悩む担当者も多いのではないでしょうか。しかし、そのプロセスは具体的なステップに分解できます。
ここでは、初めて組織開発に取り組む担当者でも実践できるよう、現状の漠然とした問題意識を実行可能なアクションプランへと変える7つのステップを提示します。

STEP01【診断】組織の「健康診断」で現状を正しく知る
治療の前に診断が必要なように、組織開発の第一歩は現状を正確に把握することから始まります。ここで有効なのが、マッキンゼーの7Sフレームワークなど、組織を構造的に分析するツールです。
7Sフレームワークは、組織を以下の7つの要素に分解して分析します。
ハードの3S(比較的変更しやすい要素)
- Strategy(戦略):企業の目標達成のための方針や計画
- Structure(組織構造):指揮命令系統や部門の構成
- Systems(システム):人事評価制度や情報システム、業務プロセス
ソフトの4S(変更に時間がかかる要素)
- Shared Value(共通の価値観):組織の中心となる理念やビジョン
- Skills(スキル):組織全体として持つ技術力やマーケティング力
- Staff(人材):従業員の能力やモチベーション
- Style(組織風土):リーダーシップのスタイルや意思決定の様式
この分析により、「戦略と組織構造が一致していない」「共通の価値観が現場に浸透していない」といった、組織の整合性が取れていない状態の根本原因を明らかにできます。
STEP02【計画】対話を通じて「ありたい姿」を共創する
現状を診断したら、次は「どこへ向かうのか」という未来図を描きます。しかし、これをトップダウンで決めてしまうと、現場の「やらされ感」を生む原因となります。重要なのは、対話を通じて「ありたい姿」を共創(Co-creation)することです。
例えば、代表的な手法にフューチャーサーチがあります。これは、組織の未来に関わる多様なステークホルダー(従業員、顧客、取引先など)を集め、2~3日間かけて集中的に対話を行う方法です。「過去(組織の歴史)」「現在(現状の課題とトレンド)」「未来(ありたい姿)」を共に探求し、最終的に未来に向けた具体的なアクションプランを共創します。
このプロセスを通じて、社員は組織の未来を「自分たちの物語」として捉え、変革へのポジティブなエネルギーが生まれます。
STEP03【目標設定】組織開発の目的・ゴールを明確にする
ビジョンを実現するために、具体的な目的とゴールを設定します。「離職率を3年で半減させる」といった定量目標だけでなく、「社員が誇りを持って働ける組織にする」といった定性目標も重要です。
OKR(Objectives and Key Results)は、こうした目標を効果的に設定・管理するフレームワークの一つです。OKRでは、野心的で魅力的な目標(Objective)と、その達成度を測るための具体的な成果指標(Key Results)を設定し、会社、チーム、個人と階層的に連動させることで、組織全体のベクトルを合わせます。
重要なのは、これらの目標を社員と共有し、「なぜこの目標を目指すのか」という意味づけを明確にすることです。
STEP04【手法選択】課題に応じた最適な「打ち手」を選ぶ
組織開発には多種多様な手法が存在しますが、重要なのは「流行りの手法を導入すること」ではなく、「自社の課題と目的に最適な手法を選択すること」です。
例えば
- チーム内の信頼関係が課題 → 1on1ミーティングの導入
- 部門間の連携不足 → ワールドカフェやオープンスペーステクノロジー
- ビジョンの浸透不足 → MVVワークショップやストーリーテリング
- 若手の離職率が高い → メンター制度やブラザーシスター制度
手法選択の際は、組織の規模、文化、リソース、緊急度なども考慮し、段階的に導入していくことが成功の鍵となります。
STEP05【実行】施策の実行と対話の場づくり
計画ができたら、いよいよ実行フェーズです。ワークショップやチームビルディングを実施する際、「やらされ感」ではなく「参加したい」と社員が思える設計が不可欠です。
実行時のポイント
- 小さく始める:パイロット部門で試行し、成功体験を作る
- 巻き込み型で進める:現場のキーパーソンを「チェンジ・エージェント」として任命
- 継続的な対話:定期的なフィードバックの機会を設ける
- 楽しさを演出:堅苦しい雰囲気ではなく、参加者が楽しめる工夫をする
STEP06【評価】変化を可視化し、次のアクションに繋げる
施策を実行したら、必ず効果測定を行います。エンゲージメントサーベイのスコア、離職率、生産性指標といった定量データだけでなく、社員の表情や対話の質、チーム内の関係性といった定性的な変化も観察しましょう。
評価の方法
- 定量評価:KPIの達成度、サーベイスコアの変化、離職率の推移など
- 定性評価:社員へのヒアリング、行動観察、360度フィードバックなど
- プロセス評価:施策の実施率、参加率、満足度など
この評価を通じて、「施策は有効だったか」「新たな課題は生まれていないか」を検証し、PDCAサイクルを回していきます。
STEP07【定着】変革を文化として根付かせる
介入によって生まれたポジティブな変化を一時的なもので終わらせず、組織の文化として根付かせることが最終ステップです。
定着化の方法
- 制度への組み込み:人事評価制度や採用基準にMVVを反映
- 日常への浸透:会議の進め方、意思決定プロセスに新しい価値観を反映
- 象徴的な行動:経営層が率先して新しい行動様式を実践
- 継続的な強化:定期的な振り返りと改善の機会を設ける
変革が日常の仕組みに落とし込まれることで、それはやがて当たり前の「文化」となり、組織の持続的な成長を支える基盤となります。
組織開発を成功させる5つのポイント|失敗しないための実践知
組織開発に取り組んでも、多くの企業が途中で頓挫してしまいます。なぜ失敗するのか、どうすれば成功するのか。ここでは、実践から得られた5つの重要なポイントを解説します。

POINT01経営層のコミットメントを引き出す
組織開発はトップの関与が不可欠ですが、「説得」しようとすると抵抗に遭うことが少なくありません。目指すべきは、経営層を変革のパートナーとして巻き込むことです。
具体的なアプローチ
- ビジネス言語で語る:「離職率低下による採用・育成コストの削減効果は年間〇〇円」など、経営課題と直結するデータを示す
- 相談から始める:「承認してください」ではなく「会社の未来のために、〇〇という課題についてご意見を伺えませんか?」というスタンスで対話を始める
- 経営層自身の体験:経営チーム向けのワークショップを先行実施し、組織開発の価値を体感してもらう
POINT02「共感」を設計する|社員が自分ごとにする仕掛け
施策が一時的な盛り上がりで終わる最大の原因は、社員が「自分ごと」として捉えていないことです。企業の存在意義と個人の成長ベクトルを重ね、社員の心に火を灯す「共感」をどう設計するかが鍵です。
共感を生む仕組み
- ストーリーテリング:数字や理論ではなく、実際の成功体験や感動的なエピソードを共有
- 参加型の設計:課題発見から解決策の立案まで、現場メンバーが主体的に関わる
- 小さな成功の共有:日々の小さな改善や成果を可視化し、称賛する文化を作る
POINT03現場を巻き込む推進体制づくり
組織開発を推進するには、現場に近い立場の「チェンジ・エージェント」が不可欠です。人事部門だけでなく、部門横断のプロジェクトチームを立ち上げ、現場の声を吸い上げながら施策を進める体制を作りましょう。
推進体制の構築
- チェンジ・エージェントの任命:各部門から影響力のあるメンバーを選出
- 権限の委譲:実行計画の細部は現場チームに裁量権を与える
- 定期的な情報共有:進捗や課題を全社で共有する場を設ける
POINT04小さな成功体験を積み重ねる
いきなり全社展開しても失敗のリスクが高まります。まずは課題意識が高く協力を得やすい一部門でパイロットプロジェクトを試行し、小さな成功体験(スモールウィン)を作ることが重要です。
段階的な展開
- パイロット部門の選定:変革に前向きで、影響力のある部門から始める
- クイックウィンの創出:3ヶ月以内に目に見える成果を出す
- 横展開の戦略:成功事例を他部門に共有し、「うちもやりたい」という流れを作る
POINT05外部の専門家を効果的に活用する
すべてを内製化する必要はありません。ファシリテーションや専門知識が必要な場面では、外部の組織開発コンサルタントを活用することで成功確率が高まります。
外部活用の効果的な方法
- 役割分担の明確化:外部は専門知識とファシリテーション、内部は実行と定着化
- ナレッジトランスファー:外部の知見を内部に移転する仕組みを作る
- 段階的な内製化:最初は外部主導、徐々に内部主導へ移行
これらのポイントを押さえることで、組織開発の成功確率は大幅に高まります。重要なのは、完璧を求めすぎず、柔軟に調整しながら前進することです。
アプローチ別に見る組織開発の成功事例
「うちの会社でも本当にできるのだろうか」という不安を持つ方も多いでしょう。ここでは、JTBが支援し、実際に組織開発で成果を上げた企業の事例を紹介します。経営視点、研修、サーベイという異なるアプローチで成功を収めた3つの事例から、具体的な取り組みと成果を学びましょう。
01 株式会社ヤクルト本社 東日本支店 様 経営理念を体現するイベントで一体感を醸成

02 フォルシア株式会社 様 体験型研修で信頼と協働を生む組織へ

03 株式会社ワークマン 様 サーベイを起点に「本音で話せる組織」へ改革

よくある組織開発のQ&A
組織開発を検討する際によく寄せられる質問とその回答をまとめました。初めて取り組む方が抱きやすい疑問や不安を解消し、自社での導入をスムーズに進めるための参考にしてください。

Q1組織開発と人材開発、どちらから始めるべき?
A:理想的には両方を並行して進めることが望ましいですが、現実的には組織の状況によって優先順位をつける必要があります。
一般的な判断基準
- 人材開発を優先すべきケース:基礎的なスキル不足が明確で、個人の能力向上が急務の場合
- 組織開発を優先すべきケース:個人の能力は高いが、チームとして機能していない、部門間の連携が取れていない場合
多くの場合、まず組織開発で土壌を整えてから、人材開発で個人の能力を伸ばす方が効果的です。なぜなら、いくら個人が学んでも、それを活かせる環境がなければ意味がないからです。組織開発により心理的安全性が確保され、学習する組織文化が醸成されれば、人材開発の効果も格段に高まります。
Q2組織開発の効果が出るまでどのくらいかかる?
A:効果が現れるまでの期間は、取り組み内容と組織規模によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
- 3ヶ月~6ヶ月:雰囲気の変化、対話の増加など、定性的な変化が現れ始める
- 6ヶ月~1年:エンゲージメントスコアの改善、離職率の低下傾向など、定量的な変化が見え始める
- 1年~3年:組織文化の変革、持続的なパフォーマンス向上など、本質的な変化が定着する
重要なのは、短期的な成果(クイックウィン)を設定し、小さな成功を積み重ねながら、長期的なゴールに向かって継続することです。「すぐに効果が出ない」と諦めるのではなく、変化の兆しを丁寧に観察し、社員と共有することで、モチベーションを維持できます。
Q3経営層の理解が得られない場合の対処法は?
A:経営層を説得するのではなく、巻き込むアプローチが効果的です。
段階的なアプローチ
- データで現状を示す:離職率、採用コスト、生産性低下など、具体的な数値で危機感を共有
- 他社事例を活用:競合他社や業界のベストプラクティスを紹介し、取り残されるリスクを訴求
- 小規模な実証実験:「まず3ヶ月、1部門だけで試させてください」と提案し、成果を見せる
- 経営層自身の体験:経営チーム向けのワークショップを企画し、組織開発の価値を体感してもらう
また、組織開発を「コスト」ではなく「投資」として位置づけ、ROI(投資対効果)を明確にすることも重要です。「離職率が10%下がれば、採用・教育コストが年間〇〇円削減できる」といった具体的な試算を示すことで、経営層の関心を引くことができます。
まとめ
組織開発の本質は、個々のスキルアップ(人材開発)に留まらず、人と人との「関係性」や「プロセス」に働きかける点にあります。企業のMVVと社員の成長を結びつけ、「やらされ感」を「自分ごと」へと転換させることが、その最大の目的です。
成功の鍵は、現状診断から「ありたい姿」を一方的に決めるのではなく、対話を通じて「共創」することです。経営層と現場を巻き込み、小さな成功体験(スモールウィン)を積み重ねることで、変革は一時的なものではなく「共感」を伴う組織文化として定着します。完璧を求めず、まずは身近な対話から始める。その一歩が、自己革新を続ける強い組織創りにつながります。
JTBでは、エンゲージメント向上や組織力強化に向け、サーベイ分析からワークショップ設計、チームイベント運営までを一貫して支援します。課題に応じて最適なソリューションをご提案しますので、ぜひお問い合わせからご相談ください。
