国内市場の成長が鈍り、「このまま国内だけで戦い続けて大丈夫だろうか」と不安を抱える企業は少なくありません。国内市場の縮小や競争激化により、企業は「どこで売るか」だけでなく「誰に長く選ばれるか」を考える必要に迫られています。
こうした環境の変化の中で、「越境EC」は、海外の消費者に直接届けられる販売チャネルとして、企業規模の大小を問わず現実的な選択肢として検討されるようになりました。
本記事では、越境ECの基本的な仕組みをはじめ、代表的なビジネスモデルや市場性、始め方、運用の注意点まで、現場で役立つレベルで体系的に整理して解説します。

越境ECとは?市場の拡大と注目される理由

越境ECは単なる「国内販売の延長」ではなく、世界市場を対象とした戦略的な販売手法です。まずは、市場が伸びている背景と、日本企業が注目すべき理由を押さえておきましょう。
越境EC市場の規模と将来予測
世界の越境EC市場は急速な拡大を続けており、2030年まで毎年20%以上の高い成長率が見込まれています。スマートフォンの普及やインターネット環境の整備により、国境を越えて商品を購入することが世界中で当たり前の消費行動となりました。
これに伴い、日本企業の参入数も年々増加傾向にあります。国内市場の縮小という課題に対する解決策として、越境ECを「次なる成長エンジン」と位置づけ、海外の巨大な需要を取り込もうとする動きが加速しているのです。
今、越境ECが注目される主な要因
円安によって日本製品の価格競争力が高まり、海外で「手に届きやすい高品質な商品」と認識されつつある点も大きな要因です。これにより、これまで価格面で躊躇していた海外層も、日本製品を積極的に購入するようになりました。
さらにインバウンド需要の回復や、越境対応可能なECモール・物流の整備により、中小企業でも海外展開が現実的になっています。以前のような多額の投資や専門知識がなくても挑戦できる環境が整ったことも、注目される理由の一つです。
日本企業にとっての参入メリットと可能性
国内市場だけでは、人口減少によりどうしても成長が頭打ちになってしまいます。越境ECに参入すれば、商圏を一気に世界へと広げられるため、新たな収益の柱を作ることができるのが最大のメリットです。
また、一度日本を訪れた外国人観光客が、帰国後に「あの商品をもう一度買いたい」と思った際の受け皿にもなります。旅の思い出とともに商品をリピートしてもらうことで、単発の販売にとどまらず、息の長いファンを世界中に増やすことが期待できます。
基本モデルと取引形態を理解する

越境ECにはいくつかの形態があり、それぞれに特徴があります。自社に適したモデルを選択することが成功への近道です。
BtoC・BtoB・CtoCの3つのモデル
代表的な形態は3つあります。企業が消費者に直接販売する「BtoC」、事業者間で取引する「BtoB」、そして個人同士で売買が行われる「CtoC」です。一般的に越境ECというとBtoCを指すことが多いですが、大口注文が見込めるBtoBも有力な選択肢です。
それぞれのモデルにより、期待できる利益率や必要な体制、参入ハードルが異なります。「ブランド認知を広げたい」のか、「まとまった量を販売したい」のか、目的を整理したうえで最適な形態を選ぶのがおすすめです。
国内ECとの主な違い
国内ECと異なる点は、「言語」「物流」「商習慣」の壁です。商品ページの翻訳や外国語での問い合わせ対応はもちろん、通関手続きや関税のルール、国ごとに異なる配送事情などを考慮する必要があります。
また、決済方法も国によって好まれる手段が異なります。クレジットカードが主流の国もあれば、電子マネーが浸透している国もあります。こうした違いを事前に把握し、現地のユーザーが安心して買い物できる環境を整えておくことで、トラブルを未然に防ぐ工夫が大切です。
インバウンドと連動させた越境EC戦略
訪日中の購入体験から、帰国後の越境ECでの再購入につなげる動きも広がっています。旅先で出会った商品を「また買いたい」と思ったときに、スムーズに購入できる受け皿を用意しておくことは、非常に効果的な販売戦略です。
また、購買データや国籍ごとの嗜好を分析・活用すれば、商品開発やプロモーションの精度を高め、長期的な顧客育成にもつなげられます。「どの国の人が何を好むか」というデータを蓄積し、次のマーケティングに活かす仕組みを整えることで、成果につながりやすくなります。
メリット・デメリットと検討すべき課題

越境ECは新たな収益源をつくれる一方で、実務面では負担やリスクも伴います。ここでは、検討時に知っておきたいメリットと、運用時に直面しやすい課題を紹介します。
越境ECのメリットと得られる効果
越境ECに取り組むと、国内では届かない顧客層に商品を届けられ、売上と収益を多角化できるようになります。特定の市場に依存しない体制を作ることは、経営の安定化にも寄与します。また、世界中の人々に商品が選ばれることは、企業としての自信にもなるはずです。
さらに、ブランド価値の向上や海外からの支持が社内のモチベーション向上にもつながります。「自分たちの商品が海を越えて愛されている」という実感は、社員の士気を高め、より良い商品作りへの原動力となるでしょう。
デメリットと現場でぶつかる壁
一方で、言語・物流・決済などの対応に加え、社内リソースの不足や判断の遅れなど、現場では多くの負担が発生しがちです。特に、配送トラブルやクレーム対応などは、国内取引とは異なる難しさがあり、担当者の負担になることも少なくありません。
準備不足のまま開始すると、想定外のトラブルに追われ、継続が難しくなることもあります。専任の担当者を置くのが難しい場合でも、兼務でどの程度まで対応できるか、事前に業務量をシミュレーションしておくことが重要です。
課題を解決する3つのアプローチ
こうした課題を乗り越えるには、「まずは小さく始める」ことが大切です。最初から大規模に展開せず、特定の国や商品に絞ってテスト販売を行うと、リスクを最小限に抑えられます。
また、すべてを自社で行おうとせず、翻訳や物流、カスタマーサポートなどを専門の代行業者に任せるのも有効な手段です。外部のプロの力を借りながら、少しずつ社内にノウハウを蓄積していく体制づくりが、息の長い運営を支えます。
越境ECの始め方|3つのステップで整理する導入プロセス

越境ECは「とりあえず出店する」のではなく、市場選定・販売方法・集客という順序で準備することで成功率が大きく高まります。ここでは多くの企業が採用している基本プロセスを3ステップに整理し紹介します。
STEP1 戦略立案と販売国の選定
まずは、「どの国・地域で」「誰に」「何を」届けたいかを明確にします。市場規模や競合の状況、法規制などを調査し、自社の商品が受け入れられそうな国を絞り込むことが第一歩です。
例えば、ターゲットの国や年代、性別を明確に絞り込めば、より響くプロモーションが可能になります。漠然と「世界中」を狙うのではなく、具体的なペルソナ(顧客像)を設定することが、結果的に成功への近道となります。
STEP2 出店方法と運営体制の準備
次に、販売チャネルを決定します。集客力のある大手ECモールへ出品するのか、自社のブランドの世界観を表現しやすい自社ECを構築するのか、代理販売を委託するのかなど、それぞれのメリットを比較して選びましょう。
あわせて、物流ルートの確保や決済システムの導入、多言語での商品ページの作成、カスタマー対応体制などもこの段階で整備しておきます。注文が入ってから慌てないよう、商品の梱包方法や返品時の対応ルールなど、具体的な業務フローをこの段階で固めておくことがスムーズな運営につながります。
STEP3 集客とプロモーションの実行
お店を開いただけではお客様は来てくれません。現地のSNSやWeb広告を活用し、ターゲット層に商品の存在を知らせましょう。現地の文化やトレンドに合わせた情報発信が、成功のカギを握ります。
また、一度購入してくれたお客様へのフォローも重要です。メルマガ配信やクーポン配布などで再訪を促し、リピーターを育てていくことが大切です。地道なコミュニケーションを続けることで、ブランドのファンを増やしていきましょう。
越境ECプラットフォームの選び方と特徴比較

海外販売を始める際には、どのプラットフォームを使うかが大きな判断ポイントになります。それぞれのプラットフォームの特性を理解し、自社のリソースや戦略に合ったものを選びましょう。
モール型と自社EC型の特徴と選び方
AmazonやeBay、Shopeeなどの「モール型」は、圧倒的な集客力が魅力です。すでに利用者が多いため、商品を見つけてもらえるチャンスが増えますが、出店手数料や競合との価格競争が発生しやすい点には注意が必要です。
一方、「自社EC型」は、デザインや販売方法を自由にカスタマイズでき、ブランドの世界観を伝えやすいのが特徴です。ただし、自力で集客を行う必要があるため、広告運用やSNS活用などのマーケティング力が求められます。まずはモール型で認知を高めてから、自社ECへの移行を検討してもよいでしょう。
主要プラットフォームの種類と活用しやすい地域
プラットフォームによって強い地域やユーザー層が異なります。ターゲットとする国の消費者が、普段どのアプリやサイトを使って買い物をしているかを調査しましょう。
例えば、欧米ならAmazonやeBay、東南アジアならShopeeやLazadaなどが主流となっています。現地でシェアの高いプラットフォームを選ぶことで、その国のユーザーにとって「買いやすい」環境を提供でき、購入のハードルを下げることができます。
プラットフォームより重要になる運用体制の整備
どのプラットフォームを使っても、多言語対応・物流管理・カスタマーサポートなどの運用は避けられません。システムを入れたからといって自動的に売れるわけではなく、日々のきめ細かな対応が顧客満足度を左右します。
すべてを自社で行うのか、外部サービスを活用するのかを含めた体制設計が、事業を継続できるかどうかを左右します。社内の人手が足りない場合は、物流や翻訳の一部をアウトソーシングするなど、無理のない運用体制を構築しましょう。
失敗しないための実践的ポイント

越境ECは参入しやすくなった一方で、運用が続かず撤退する企業も少なくありません。よくある失敗の原因を事前に知り、対策を講じることが成功への近道です。
商品選定と価格設定で失敗しないために
海外で売れる商品には必ず理由があり、感覚だけで決めると在庫が残るリスクがあります。「日本で売れているから海外でも売れるはず」という思い込みを捨て、現地のニーズを冷静に分析することが大切です。
現地のニーズ調査やテスト販売に加え、関税・送料を含めた実質価格で利益が出るかどうかの視点が不可欠です。販売価格が高騰して競争力を失うことのないよう、コスト構造をしっかりとシミュレーションしてから参入を決めましょう。
カスタマーサポート体制を整える重要性
問い合わせ対応や返品の案内など、購入後のサポート体制によってリピート率は大きく変わります。多言語対応・時差への配慮・FAQや返品ルールの明確化など、信頼を損なわない仕組みづくりが求められます。
特に、言葉の壁による誤解を防ぐため、わかりやすい説明文や画像を用意しておくことが重要です。顔が見えない取引だからこそ、丁寧で迅速な対応が信頼を生み、次の購入につながります。
物流・配送トラブルを防ぐためのポイント
国際配送は国内配送に比べて、距離が長く関与する業者も多いため、遅延や破損のリスクが高まります。配送状況を追跡できるサービスを利用し、万が一の紛失に備えて保険をかけておくと安心です。
また、国によって配送にかかる日数や通関の厳しさが異なります。お客様にあらかじめ配送目安を長めに伝えたり、禁輸品や規制について事前に確認したりしておくことで、トラブルを最小限に抑えましょう。
越境ECで成果を上げた企業の成功事例

ここでは、JTBが越境ECを支援し、新たな販路獲得・ファンづくりに成功した2つの事例を紹介します。
01 兵庫県鞄工業組合 様ターゲットを明確化し販路を開拓した事例

02 UCCホールディングス株式会社 様体験と物販を融合した事例

越境EC支援サービスの種類と選び方

自社だけで越境ECを運営するのが難しい場合、外部の支援サービスを活用することで負担を減らし、成功までの時間を短縮できます。重要なのは、自社の状況や目標に合った支援の形を選ぶことです。
支援サービスの種類(コンサル型・代行型・一体型)
支援サービスには主に3つのタイプがあります。戦略立案を支援する「コンサルティング型」、翻訳・出品・物流など実務を代行する「運用代行型」、両方を一括で担う「一体型」です。
例えば、戦略はあるけれど人手が足りない場合は「代行型」、そもそもどこの国を狙うべきかわからない場合は「コンサル型」など、自社の課題に合わせて使い分けるのがおすすめです。必要な部分だけを外部に頼ることで、コストパフォーマンスよく運営できます。
サービス選定時に確認すべきポイント
パートナー選びでは、まず実績と得意領域の相性を見極めることが欠かせません。支援実績や得意とする国や市場が、自社の狙うターゲットと噛み合っているかを丁寧にチェックします。
さらに、料金体系や広告運用などサポートの範囲も事前に必ず確認しましょう。特に、物流やカスタマーサポートなど、トラブルが発生しやすい領域をどこまで担ってくれるのかを把握しておくと、運用開始後の不安を大幅に減らせます。
まとめ

国内市場の縮小が続く中、越境ECは企業が成長を続けるための大きなチャンスです。ハードルが高そうに見えるかもしれませんが、適切な戦略とパートナーを選べば、リスクを抑えて挑戦することが十分に可能です。
JTBでは、世界120ヵ国に広がるネットワークと豊富な知見を活かし、お客様の海外展開をトータルでサポートしています。単なる実務代行にとどまらず、マーケティングによる戦略策定から出店・集客支援、施策の検証まで、事業の成長に中長期的に寄り添う「コーディネーター」として伴走いたします。
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