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企業・団体向け WEBマガジン「#Think Trunk」 【インタビュー】障害者雇用がこれからの企業の重要戦略に!?定着率99%の秘密に迫る~株式会社JTBデータサービス~

2023.01.23
HR(Human Resources)
人材・組織力強化
生産性向上

障害者雇用とは、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)に定められている「障害者雇用率制度」に基づく雇用を指します。従業員を43.5人以上雇用している民間企業は、1人以上の障害者を雇用しなければなりません。2018年4月までは、知的障害と身体障害のある方のみが対象でしたが、障害者雇用促進法が改正され精神障害のある方も対象に加わりました。今後、雇用率は段階的に上がると言われる中、なかなか定着しないといったお悩みをお持ちの企業様も多いのではないでしょうか?そこで本記事では、JTBグループの特例子会社である株式会社JTBデータサービス 代表取締役 社長執行役員 大八木勢一氏にインタビュー。障害のある社員1年以上の定着率が99%に達する同社の取り組みや障害者雇用の意義について話を聞きました。

株式会社JTBデータサービスの皆さん(右から2番目=代表取締役社長執行役員 大八木勢一氏)

企業紹介・プロフィール

企業名
株式会社JTBデータサービス
企業サイト
https://www.jtb-jds.co.jp/
所在地
東京都江東区木場2-17-16ビサイド木場4階
従業員数
129名(うち障害者92名)※2022年6月現在
〈障害内訳〉2022年6月1日現在
聴覚48名、音声1名、上肢・下肢17名、内部4名、知的11名、精神11名

株式会社JTBデータサービス
代表取締役 社長執行役員
大八木 勢一(おおやぎ せいいち) 氏

㈱JTBにて法人営業、営業企画、人事部門を経て2021年4月より現職。22年11月より、障害者の職域拡大と社会的に意義のある事業を目指して、障害者に特化した人材紹介・定着サービスに着手。常に障害者が主体的に、そして継続的に働ける事業を模索している。

障害者雇用の現状と課題 ~働く上での悩みは障害者も健常者も同じ~

――まずは障害者雇用の現状について教えてください。

厚生労働省によると、日本国内の障害者の総数は964.7万人で、これは人口の7.6%に相当する数です。民間企業に雇用されている障害者の数は、2022年6月時点で61.3万人。19年連続で上昇し、過去最高を更新し続けています。また、2021年3月には障害者雇用促進法の法定雇用率が2.3%に引き上げられ、対象となる企業の範囲も従業員45.5人以上の企業から43.5人以上の企業へと広がりました。このたび、厚生労働省は2023年1月18日に企業の法定雇用率を2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%に引き上げることを決めました。雇用率は上がっているものの、障害者の活躍の場はまだ十分ではないのも現状です。

――法定雇用率が引き上げられたことにより、企業側にはどのような変化があったのでしょうか?

2018年4月1日から精神障害者が法定雇用率の算定基礎に含まれましたが、依然として身体障害(上肢、下肢)の方を求める企業が多い状況です。2021年に改定された法定雇用率の引き上げにより企業へは障害者雇用数の増加が求められ、新たに採用を始める企業も増えています。今後は精神障害者の方の採用も視野に入れる必要性が出てきましたが、精神障害や知的障害は目に見えにくく、さらに採用実績がない企業が多いため、採用に不安を抱えている企業が多いのではないかと思います。

――現状では企業の課題、総務人事担当者の課題としてはどのようなことが挙げられますか?

採用する障害の種類を広げると、それぞれの障害についての職場内の理解促進が必要です。特に精神障害の方の場合は、接し方に関する悩みなど、新たな悩みが人事担当者に寄せられることが考えられます。本来は、「障害によって業務を考える」のではなく、同じ土俵の上でどのような業務をしていただくのかを考えるべきだと思います。障害に対する物理的・精神的な配慮は前提として必ず必要ですがこれは健常者も同じです。その上で、配慮して終わりではなく、どのように活躍していただくかにもフォーカスする必要があります。もちろんキャリアアップに関しても同様です。

ただ、企業では一般的に、障害者採用の専任者がいないケースがほとんどです。そのため、障害のある社員の入社後のフォローも、人事担当者もしくは採用担当者が窓口になっているのではないでしょうか。障害に関する専門知識や経験を有しているわけではないので、障害のある社員や周囲の悩みを聞くだけでも精一杯の状態ではないかと感じています。

――JDSではどのように対応されているのでしょうか?

社内にHR課という障害のある社員をフォローアップするための定着支援専門の部署を設けています。働く上での悩みなど面談を通してHR課の担当者が聞きとり、あわせて上司側の悩みも聞きながら解決していくという形です。この手法を長い間続けていることが定着につながっていると思います。専門部署の設置が難しい場合でも、採用してからの一定期間はフォローする担当の方が常駐しているという形が望ましいと思います。働く上でどのような課題があるのかをしっかり把握して、慣れるまでの期間をいかに安心して働いていただくか。ここをサポートできることが理想だと思っています。

――障害の有無に関わらず、試用期関でのフォローが大切だということですね。

離職する理由で最も多いのは、コミュニケーション不足です。慣れない環境で誰にも相談できず、解消する方法がないと思い込んでしまう人がとても多いのが現状です。障害者も健常者も、働く上での悩みは結局、同じです。職場トラブルや人間関係も、すべてコミュニケーション不足から起こります。

当社では、本人にヒアリングをしながら、性格や得意・不得意なもの、趣味や好きなもの、苦手なもの、どういったときに症状が出やすいのか、どのような時に安心するのか、やる気になるきっかけ、などを記した「ナビゲーションシート」というものを作成し、一人ひとりの特性がわかるようにしています。業務上のトラブルの際にはもちろん、人事異動や上司・同僚が替わった際にも、本人了解の上で関わる方にシートの内容を共有することによって、相互理解を図ってもらっています。

――障害者雇用を促進することで企業側にはどのようなメリットがあると思いますか?

組織において多様性を生み出せることです。多様な人材が集まる職場には、多様な能力が生まれます。また、障害のある相手の立場を理解して接するので、社員個々の人間力も高まるのではないかと思います。ダイバーシティを推進する企業にとっては身近な事例として感じることができることもメリットです。日常的にバリアフリーに関心を持つことにもなりますし、「SDGs(持続可能な開発目標)」の貢献にもつながります。また、私自身の事で言えば、より分かりやすく正確に伝えたいと思う気持ちから、抽象的な言葉を使わなくなりました。

取り組み紹介 ~国籍も障害も関係ないダイバーシティ環境を~

JDS社員同士の手話によるコミュニケーションの様子

――障害者雇用推進を目的にJTBの特例子会社として設立されたそうですが、現在は何名くらいの方が働いているのでしょうか?

社員数は現在129人で、そのうち92人が障害者の方です。会社としては、年間5~6億円の売り上げを上げています。約7割が障害者で構成している会社ですが、利益を上げ30年間続いています。もし私たちの対応の仕方や指導の仕方が違っていたのであれば、多くの方が離職していたと思いますし、当然、社員には健常者が増えていたでしょう。そうではなく、一企業として30年存在していますので、課題をひとつひとつ丁寧にクリアしていけば、健常者も障害者も関係なく一緒に働き成長することが可能だということです。

――障害社員の方が担われている業務について教えてください。

主な業務内容は、PCを使用したデータ入力、ギフトラッピング、名刺・ID作成、客室清掃になります。また RPA等の高度なスキルを必要とするIT業務も行っています。親会社であるJTBへの出向者は、旅行関連のサポート業務を担っています。

「障害者の仕事=作業」だと思う方は多いですが、当社では、障害の有無を問わず高いレベルで活躍をしている社員が多くいます。JTBに出向中の50名ほどの社員の中には、旅行業の接客を担う者もいます。長く働けば働くほど、キャリアアップしていく道があります。

最近は障害者の人材紹介事業における求職者との面談同席や、観光施設におけるバリアフリーに関するアドバイス業務等も担っています。

――制度の利用しやすさなど、障害者の方を配慮した環境が、1年以上の定着率99%という驚異の数字につながっているのだと感じます。他にはどのようなサポートを行っているのでしょうか?

HR課では、月に1回、障害のある社員のコンディションチェックを実施して、上司や同僚などへの対応で困っていることがないかを確認します。異動や上司が代わるタイミングには、障害別の理解促進講座を開催するほか、3か月間のコミュニケーション力強化プログラムも実施しています。また、ナビゲーションシートを作成し、相互理解を深めています。障害に関する相談窓口は随時オープンしています。

また、障害に対する配慮は前提として、活躍のフィールドも準備しています。RPAなどの高度なスキルを有する業務やJTBグループへの出向、マネジメント職への登用等です。人事賃金制度(評価制度)では昇級・昇格に健常者との差はなく、マネジメント職への登用を見据えた教育も実施しています。現在でも複数の障害者が課長職に就いています。

スキルアップについては、PCスキル研修を実施しており、Word、Excel、PowerPointを学びたい社員にはマンツーマンにて対応し、今月だけでも9名が受講しています。講師には障害のある社員もいます。障害者が講師をすることが、受講者のキャリアアップに向けた目標にもなるようです。

私が着任当初から感じていることは、当社の社員は全員、「配慮を前提として行動することができる」ということです。会議など社員が集まってコミュニケーションを取る時には、 聴覚障害の方がいる場合にはUDトークやブギーボード(電子メモパッド)が必ず用意されます。社員自ら手話通訳をすることもあります。誰も指示していないのに当たり前にやるというのが、会社の文化として根付いています。

PCスキルアップ研修の様子

――外国人の障害者定着支援もお考えとのことですが、現在はどのような取り組みをされているのでしょうか?

現在、5名の在留外国人社員が在籍していて、2名はコロンビアとタイの聴覚障害者です。当社の経営理念「全ての人が共に活躍できる共存社会(ノーマライゼーション)を目指します」に基づき、障害者以外に外国人も働いている会社、国籍も障害も関係ないダイバーシティな環境を作りたいと思っていました。今後、訪日旅行が復活すれば、外国語ができる人材需要が増加し、外国人の障害者にも活躍のチャンスがあると思います。JTBグループの一員として、旅館・ホテルなどの観光業へのアプローチも視野に入れており、段階的に活躍の場を提供していきたいと考えています。

彼らは何か資格を取らなければ日本で生活するためのビザが取得できないということもあり、日本人よりも危機意識が高く、日々、弛まぬ努力をしています。その姿が一緒に働く日本人スタッフたちにも刺激になっているようです。外国の方はコミュニケーション能力が高く、積極的に話しかけてくれるので、一緒に働いていて楽しいですね。自国の文化も教えてくれるので、日常会話からも学びを得ることも多いです。

障害のある社員の実体験が新規事業を創出

JDSの障害者求人サイト

――これまでのノウハウを活かし「障害者人材紹介サービス」をスタートさせると伺いました。経緯を教えてください。

JDSの約7割の社員は障害のある社員です。紙媒体の減少、デジタル化に伴うAIの進化などがコロナ禍で予想以上に進み、当社の社員の職域を脅かすまでになってきていると感じ、既存事業の進化と平行して新たな領域に踏みだすタイミングだと考えました。「強みを活かせる事業とは何か?」と考えた時に、障害者の法定雇用率を達成している企業の割合がいまだ50%前後であるという課題に着目しました。そこから、30 年の歴史で培った当社の障害者「雇用・定着・活躍」のノウハウをプログラム化し、「企業様への障害者雇用促進=定着・活躍サービス」を始めてみようと考えました。

このサービスを始めるにあたり、複数のお客様にヒアリングしたところ、障害者の採用に関する意識は高いものの、採用後の定着や活躍についての意識には温度差があり、それが現在の障害者雇用の大きな問題点だと感じました。私たちが自社で行ってきたサポートは、採用したからには長く働いてもらいたい、キャリアアップしてもらいたいという考えが元になっている仕組みです。そこで、定着サービスに人材紹介もセットでサービス提供できれば、「定着が重要」という事に意識が向いてもらえるのではと思いました。

――どのようなサービスなのでしょうか?

企業が求める人材を紹介することはもちろんですが、採用後の丁寧なフォロー体制に力を入れたサービスです。求職者の立場から見ると、採用されてから職場に慣れるまでの過程で相談できる人がいないことが課題となっていました。職場に慣れるまでは健常者でも不安になりますので、障害者はさらに様々な悩みを抱えることになります。採用後も求職者に一定期間寄り添い続けることで、求職者の不安を解消し継続して働き続ける体制をフォローすることを重視しています。これは採用企業側に向けたサービスでも同様です。

PC業務が必要な場合は正確にスキルも把握してお伝えし、希望者へは企業実習を実施してミスマッチが少なくなるようにします。入社後3か月間は月に1回、コンデイションやコミュニケーションの状態をヒアリングし、最適な状態を保てるように企業とのつなぎ役となり、期間中は相談窓口も設置し、希望者にはスキルアップ研修を実施します。Word‧Excel‧PowerPointなどの確実なスキルアップのためのマンツーマン研修プランを行うことで、在宅勤務につなげるなど、きめ細やかにサポートします。

――他サービスとの違いはどのようなところでしょうか?

日々、障害のある方々と一緒に働いている当社の社員が、その経験を活かして求職者にヒアリングを実施するところです。また、同じ障害のある社員が面談に同席することもあります。人材紹介サービスに障害者の方が関わるケースはあまりないと思いますが、求職者と同じ目線で相談に乗ったり、本質的な質問が出来るところも、大きな違いではないかと思います。ここは障害者が主体的に関われるところなので、当社の社員にとっても良い刺激になっています。

――サービスの利用者が増えていくと障害者雇用率も上がるというのは素晴らしいシステムですね。

実は今回、Webサイトは外注せずにすべて内製化して、当社の外国人と障害のある社員が一から勉強して作り上げました。障害者が利用するサービスということで、障害のある社員の仕事のひとつとしたかったのです。さらに、今回ノウハウを取得した社員が別の社員に教えるという形も作りたかった。プロが作ったものには及びませんが、社内の評判も良く、納得いくものができあがりました。障害者の目線で制作してくれているので、必要とされている情報が盛り込めたのではないかと思っています。サービスの利用者が増えていけば対応する項目も増えていくので、サービスの広がりと同時に、障害のある社員の職域も増えていくという流れも作っていきたいと思っています。

――「障害者人材紹介サービス」の今後の展開を教えてください。

障害の種類や国籍を問わず、誰もが持続的に活躍し続けられる人材紹介を行っていきたいと考えています。法定雇用率が上昇することで、企業の障害者数も増加していくと思いますので、次のステップとしては、職場内で障害者をサポートする側の人材もあわせて企業様に紹介していきたいと考えています。

株式会社JTBデータサービス社屋入口

――障害者雇用を促進したいが、上手くいかないと悩む担当者の方にメッセージをお願いします。

障害の特性によりコミュニケーション手段は異なりますが、当社では障害のある社員も健常者となんら変わりなく活躍しています。障害者だから仕事を任せるのが不安という先入観をなくし、活躍のフィールドを広げていきたいと思っています。働き方のニーズが多様化している現在では、健常者と同様、障害者も個人に寄り添うことが重要です。我々は多くの障害者とともに日々働いていますので、不安な点等あればお気軽にご相談ください。障害のある方も「働きたい」だけではなく、さらに「活躍したい」とも思ってもらいたい。それには本人の努力も必要ですが、機会も必要です。「成長したい」と思うことが当たり前になるような世の中にしていくために、我々が少しでも貢献ができればと思っています。


まとめ ~お互いへの配慮を前提としながら課題を解決~

今回は、障害者雇用についてお届けしました。障害者雇用は、法律で定められているものですが、社内風土の変革や優秀な人材の確保などさまざまなメリットを企業にもたらします。戦略的に推進する価値ある取り組みだと言えます。取り組みにあたって、大切なのは、健常者も障害者も同じ土俵の上に立ち、お互いへの配慮を前提としながら活躍の場を見つけていくということ。最近ではさまざまな障害に対しての理解が進みつつあるものの、まだまだ障害のある方に対する対応には差異が見られます。本記事でご紹介したJDSの取り組みや、「障害者人材紹介サービス」の内容が、障害者雇用を前向きに考えるきっかけになれば幸いです。


ホワイトペーパー(お役立ち資料)障害者人材雇用における6つのポイント ~障害のある方の活躍に向けて~

障害者の雇用は、企業の社会的責任(=CSR)に対する物差しのひとつになっています。単に法定雇用率の達成を目指すのではなく、障害者を企業の戦力として対応していくことが、SDGs、ESGの観点でも持続的な企業価値の向上に繋がります。

本資料では、障害者雇用を取り巻く環境に触れた上で、障害者雇用に関する想定される課題と、それらの解決策をご紹介しています。本資料がお客様の課題を解決する一助になれば幸いです。ぜひ、ご覧ください。

本記事に関するお問い合わせ、ご相談、ご不明点などお気軽にお問い合わせください。

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