人材獲得競争が激しさを増す中、注目されているのが「EVP」です。「EVP」は、「従業員への価値提供」を意味します。「EVPが充実する企業の従業員はイキイキとしている(Employee Engagementが高い)」と言われ、いま企業には、EVPをいかにバランスよく、的確に提供できるかが問われています。では、「EVP」とはどのようなものなのでしょうか。また従業員はどのような価値提供を受け、企業を評価しているのでしょうか。本記事で詳しくご紹介していきます。
INDEX
そもそも「EVP」とは?
EVPは「Employee Value Proposition」の頭文字をとったもので、日本語では「従業員への価値提供」と訳されます。つまり企業が従業員に提供できる価値を指すもので、企業を起点として企業と従業員の関係性を表すものではなく、従業員を起点として企業と従業員の関係性を表す考え方だと言えます。
近年、なぜEVPが注目されているのかというと、従来の終身雇用制度や年功序列制度といった日本型の雇用形態にメリットを感じなくなった人たちが、転職活動を活発化させているという背景があります。
売り手市場の中で、いかに優秀な人材を獲得するかが企業側としては大きな経営課題となりました。そこで従業員に対してどのような価値を提供できるのかを明確にし、発信することの重要性が高まったのです。また不本意な人材流出を避けるためにも、EVPは注目されています。
つまりEVPでターゲットとなるのは従業員や求職者となります。
「EVP」の導入にどのようなメリットがあるのか?
EVPを策定し、企業が従業員に対して提供できる価値を言語化、視覚化し発信することに、どのようなメリットがあるのでしょうか?
01企業理念等の浸透
EVPの策定は、企業理念等に沿って行うのがひとつのセオリー。EVPと制度が矛盾してしまうと従業員の納得感が得られないためです。従業員はEVPを通して、その先にある自社の理念等を意識することができるようになるでしょう。
02従業員エンゲージメントの向上
EVPを設定することで、従業員エンゲージメントの向上が期待できます。EVPというメリットを享受できることで従業員の満足度は高まります。それにより離職率の低下や定着率の向上が見込めるでしょう。
03優秀な人材の確保
EVPを発信することで、求職者に自社の魅力をアピールすることができます。その会社に入社するとどのようなベネフィットを得られるか、具体的にイメージしてもらうことで入社意欲を高めることができるのです。
EVP作成の第一歩…「働きがい」を知る
EVPの例としてあがるのが「手当や昇給制度」「勤務体系・働き方」「評価制度」「キャリア形成支援」などです。他社が設定しているEVPを真似るだけでは、本来の目的から外れてしまいます。
実際にEVPを策定するステップとして最初にやるべきことは「自社の分析」です。現状、従業員に提供できている価値を分析していくのです。職場環境や各種人事制度、福利厚生などを客観的、かつ多角的に把握。そして従業員はなぜ自社で働いているのか、目的は何か、何に満足し、何に不満をいだいているのか...。「従業員の働きがい」を知ることで、現状、従業員に提供できている価値が見えてきます。
働きがいにつながる8項目…10年で唯一、下落傾向にあるのは
働き方改革の推進、さらに新型コロナウイルス感染症の蔓延により、従業員の働く環境は大きく変化しました。それにより「働きがい」についても変化があったようです。EVPの策定に向けて、自社の分析と共に、自社の業界、さらには労働者全体のトレンドにも注視しましょう。
国内最大級の社員クチコミと評価スコア数を有する、転職・就職のための情報サイト「OpenWork」(オープンワーク株式会社運営)では、投稿される8つの評価項目について10年分を分析しています。8つの項目は以下の通り。
- 法令順守意識
- 風通しの良さ
- 社員の相互尊重
- 20代成長環境
- 待遇面の満足度
- 社員の士気
- 人事評価の適正感
- 人材の長期育成
OpenWorkでは、これらが「働きがいをもって働くための重要な指標であり、これらの項目の評価点がその企業の強みや課題を可視化し、企業の個性にもなる」としています。ほとんどの評価項目が右肩上がりなのは、各社この10年で働き方改革を推進してきた結果だと考えられます。つまり企業の取り組みに対し、従業員は高く評価していることの表れだと考えられるでしょう。
そのような中、唯一下落となったのが「20代成長環境」。企業において若手の育成に課題があることが伺えます。
若手の成長環境…評価があがった業界、下がった業界
「20代成長環境」について、5年間で0.1以上スコアに増減があった業界を並べると、最もスコアが下がったのが「官公庁」、最もスコアが高かったのが「インターネット」でした。マイナスに転じたのは、いわゆるオールドエコノミーとされる業界が多く、プラスに転じたのはニューエコノミーとされる業界に多いという特徴が見てとれます。
なぜ「20代成長環境」だけが下落したのか?
ひとつの要因に働き方改革の影響もあるでしょう。この10年で有給消化率は大幅に改善され、残業時間も大きく削減されました。またさまざまなハラスメントが問題視され、その対策が講じられるようにもなりました。労働環境、すなわち働きやすさは劇的に改善したと言えるでしょう。
一方で「残業もない、有給休暇も自由に取ることができる」という環境しかしらない若手社員に対し、「無理をさせてはいけない」「厳しいことを言ってはいけない」等々、大切に扱う意識が強くなりました。なかには「大切に扱う」≒「楽をさせる」という方向に進んでいってしまったケースも。こうなると「成長」という点ではマイナスとなります。重要なのは、働き方とのバランスだと言えるでしょう。
なぜ、業界間で「20代成長環境」の格差は生じるのか?
業界間の格差については「時代の先進性」にあると考えられます。つまりニューエコノミーとされる業界のほうが、“時代の最先端をいっている”といった感覚を持ちやすく、若手社員にとっては成長を感じられる環境だと言えます。一方でオールドエコノミーとされる業界では既存のビジネスがベースになるケースが多く、相対的に成長を感じにくいという事情があると考えられます。
働きがい1位「グーグル」社員からの評価は?
さらにOpenWorkによる「働きがいのある企業ランキング2022」によると、1位を獲得したのが「グーグル」。前出の8つの評価指標のうち「人材の長期育成」以外の項目すべてで5段階評価中4.5以上という高評価を獲得しています。
新卒入社と中途入社の会社評価を見てみると、「人材の長期育成」「20代成長環境」で評価に差が生じています。自由な社風で知られるグーグル。その中でキャリアを形成していくには自主的なキャリア開発が必須。「働きがい1位」とはいえ「人材育成・成長環境」という点には課題があると言えるかもしれません。
まとめ
今回、「従業員への価値提供」を意味する「EVP」の概要と、従業員が実際に企業から受けている価値提供について見てきました。
EVP策定の第1歩は自社分析を進め、従業員が何に働きがいを感じているのかを明らかにすることです。そうすることで、現時点、会社が提供している価値と課題が浮き彫りになります。そのうえで評価を得ている部分を高めていくのか、それとも課題を価値にしていくのか、検討していくことになります。企業のグローバル化の進展により、ますます人材獲得競争は厳しさを増します。自社の発展のためにもEVP策定、優秀な人材の確保は急務です。
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