働き方や働くことに対して人々が意識を変えていく中で、企業を支える人材に対してどのように投資を行うか、いわゆる「人的資本経営」が求められる時代になりました。その投資手段の一つして、改めてワーケーションに取り組む企業が増えています。
本記事では、「人的資本経営」とは何か、そして、企業が取り組むワーケーションの現況や、実施することでどのような効果をもたらしてくれるのかなど、具体的な取り組み事例を交えて紹介します。ぜひ、最後までご覧ください。
INDEX
注目を集める人的資本経営
人材を企業の“資本”ととらえ、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値の向上につなげようという経営手法、それが「人的資本経営」です。昨今、この人的資本が世界中で注目されています。その流れを受けて、日本でも2023年3月期より、有価証券報告書において、人的資本情報の開示が義務化されました。この初年度を「開示元年」とするならば、2年目を迎えた2024年は「実践元年」と言えるでしょう。
人的資本経営を実現するためには、従業員のエンゲージメントを高めることが重要だと言われています。では、「従業員のエンゲージメント」とは何でしょうか。それは従業員が仕事に対して積極性を持ち、意欲ややりがいを感じる状況のことを表します。エンゲージメントが高い状態であれば、モチベーション高く仕事に取り組むので必然的に生産性の向上にもつながるでしょう。エンゲージメントの高い従業員は、会社にとってプラスとなってくれる存在なのです。
日本における従業員エンゲージメントの状況
残念ながら日本の従業員エンゲージメントは芳しくないと言われています。2023年、アメリカの世論調査およびコンサルティングを行う企業・ギャラップ社が日本の会社員1,000人に行った職場の従業員意識調査でも、日本の従業員の多くが仕事に誇りややりがいを持っておらず、会社に貢献したいという気持ちも低いという結果も出ています。
このような結果から見ても、従業員が仕事にやりがいを持ち生き生きと働いてもらうために、従業員のエンゲージメント向上のための施策を検討・実施し、会社に貢献したいと思える環境を整える必要があると言えるでしょう。
引用・参考 : 2023 年版 ギャラップ職場の従業員意識調査:日本の職場の現状
人的資本経営に結びつく「ワーケーション」の在り方
私たちJTBでは、ワーケーションを「人的資本経営」のための一つの手段として捉えています。従業員一人ひとりの「個」を主軸に据え、普段のオフィスとはかけ離れた場所で休暇を楽しみながら働く旧来型のスタイルから、会社が地域とのつながりを通して従業員に新たな体験を提供し、会社への「帰属意識」を高めたり、企業力の底上げ・組織風土の改革につながる新しいワーケーションの在り方を提唱しています。
それがワーケーションをきっかけに地域と関わり続ける「関係人口」を増やし、新たなビジネスチャンスの創出や、地域が抱える課題解決にも寄与する「仕事(Work)」×「関係⼈⼝(Related Population)」という考え方です。
一般的に「ワーケーション」という言葉は「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた内容になりますが、JTBでは地域との緊密なつながりを重視し、「関係人口」を増やす新しいワーケーションのアプローチを提案しています。
例えば次のようなシーンでの活用が期待できます。
- 従業員のキャリア自律支援の1つとして…
- 地域貢献や社会貢献を通じた企業の組織改革として…
私たちが提唱するワーケーションを活用するには、企業や組織が従業員に「どれだけの体験を経験価値として提供できるか」が重要なポイントになります。
観光庁推奨ワーケーション導入事例のご紹介
観光庁でも、仕事と休暇を組み合わせた滞在型休暇を、働き方改革と合致させた「新たな旅のスタイル」を推奨しています。個人ではなく企業を対象に、さまざまな経営課題の解決や地域との持続可能な関係づくりを行っています。すでに数多くの企業が採り入れており、その効果を実感しています。
ここからは地域との関係作りをキーワードにしたワーケーションの導入事例をご紹介いたします。
株式会社野村総合研究所(NRI) 徳島県三好市で行う三好キャンプ
- 実施内容
- 2017年から取り組んでいる、通称“三好キャンプ”。徳島県三好市にある古民家で、平日は通常の業務を行い、週末は休暇を取るスタイルのワーケーションです。1ヵ月を前後2週間で区切り、延べ15名から16名の従業員が参加しました。
- 効果
- 体験した従業員の成長ぶりが成果と言えるでしょう。ワーケーションに参加したことで、考え方も変わり、地方の課題に対して視野が広がっただけでなく、時間の使い方を考え直すきっかけにもなりました。また、中には地域での活動に対して、自分が役に立てたことに喜びを感じる社員もいました。
株式会社内田洋行復興再生に重点をおいた地方創生
- 実施内容
- 「熱中小学校」という学校の跡地を活用した地方創生の取り組み事例です。宮城県丸森町では、台風被害の復興再生に重点を置き地方創生にも取り組んでいます。森林療法を実践して、チームビルディングという形で時間有休など採り入れた働き方を1週間行い、その後、ヘルスケアアンケートなどを行いました。
- 効果
- 地域の理解促進や貢献、リフレッシュができただけでなく、従業員同士のコミュニケーションが高まるという大きな効果を上げることができました。また、今後も丸森町でリモートワークを行うプログラムも予定されており、地域との関係作りの活性化にもつながりました。
JTBが考えるこれからのワーケーション
JTBでは、先の「仕事(Work)」×「関係⼈⼝(Related Population)」という概念に基づき、企業の底上げにつながるワーケーション企画を次々と考案しています。先駆けて参加した従業員や、体験会に参加してくださった皆さまからは、普段体験することができない、さまざまな効果を得ることができたといった反響が寄せられました。
01体験実践型ワーケーション
コワーキングスペースと地域コーディネーターがいる全地域で実施できる、農業やアウトドア調理などを実際に体験するワーケーションです。従業員にとってはリフレッシュ効果によるストレス軽減や帰属意識の向上が図れ、かつ社員間のコミュニケーション促進、エンゲージメント強化につながります。
スキルの習得や新しい考え方、アイデアを社員が持ち帰るなど、社内ではなかなか実施できない人材開発も実現できます。
体験実践型ワーケーションに参加してみて
JTBの社員が体験をしてきましたので、その感想をご紹介します。
- Aさん
- 普段なかなかお話しする機会がない農家さんとコミュニケーションが取れたこと、加えて、流れているラジオが聞こえなくなるほど一心不乱にさくらんぼを収穫し、選別することで自分自身と向き合うという貴重な経験をさせていただきました。
- Bさん
- プログラムの期間や各日のタイムスケジュールによって農作業・ワーケーション共に生産性や心身状態が変わると思うので、個人的にはいろいろ体験してみたいなと感じました。
- Cさん
- 農家さんの立場からすると、一時的ではなく継続的に支援しないと本来の目的には繋がらないのではないかという課題感も感じました。毎回人が変わりすぎるのも受け入れ側にとっては大変だと思います。農家さんのご理解とご協力があってこその事業だということを改めて感じました。
他に、「農業を体験して、農業を通してビジネスにも生かせる、地方・農業に興味がでた」「農家の方のコツコツ仕事を行う姿勢、辛抱強さ、メンタルタフネスな部分に刺激をうけた」といった農業に対する興味関心や、「仲間と一緒に達成する喜びを味わえた」というチームビルディングの重要性を感じたようなコメントも寄せられました。
- 詳細はこちら
- JTBアグリワーケーション®研修
02復興ワーケーション
復興ワーケーションと銘打ち「復興計画の作成・推進に伴走して欲しい」という被災地の声に応えて、通常業務を続けながらまとまった期間、復興支援に従事します。また、現場での復興支援だけでなく、遠隔地からも継続した支援を行うことを目的としています。
復興ワーケーションに参加してみて
体験会に参加してくださった方の感想をご紹介します。
- Aさん
- ニュース等で見聞きしていた現状とは異なっており、改めて現地の情報を取りに行く重要性を実感しました。地元の方の想いに直接触れ、「何かやらねば」という気持ちが加速しました。参加する前と後では明らかに自身の中でも火が付いた感覚になりました。
- Bさん
- 和倉温泉の被災状況と復興へ数年かかる現状を認識しました。観光業は裾野が広く、旅館だけでなく、そこに産品を提供していた1次産業事業者や下請けの各種サービス業にも影響が及んでいることが特に印象に残っており、それら事業者の支援が必要だと実感しました。最終日に個人として企業としてどう関われるかをあらためて考えてアウトプットすることにより東京に戻ってからも現業の忙しさに埋もれないように関係人口として取り組んでいきたいと思いました。
- Cさん
- 単なるワークとバケーションのワーケーションは沖縄等の主たる観光地は馴染むと思いますが、ローカル地域おいては、関係人口に資するワーケーション展開こそが地域貢献に繋がると感じています。
まとめ
本記事では、人的資本経営の視点からワーケーションの効果と具体的な取り組み事例についてご紹介させていただきました。企業が人的資本を最大限に活用するためには、柔軟な働き方の導入や環境整備を行うだけでなく、従業員エンゲージメントを高める観点でワーケーション等の取り組みを実施していくことが大切です。
普段見ることがない景色を見るからこそ、そこで感じる「心」の動きを大切に育み続け、組織はその機会を作り続ける必要があります。JTBでは組織を担う人材へと成長する一躍を担うことが出来ればと思っております。