コロナ禍を経て、働き方を見直す動きが活発化しています。柔軟な働き方を模索する多くの企業が、ワーケーションに注目しています。ワーケーションとは一般的にテレワークなどを活用し、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごすことです。ただし、ワーケーションをスムーズに導入するためには、企業の労働環境やルールの整備が必要です。
本記事では、一般的なワーケーションの定義や複数のタイプをはじめとして、メリットをお伝えするとともにデメリットへの解決策なども紹介します。また、記事の最後には2つのお役立ち資料をご紹介しています。ぜひ、ご覧ください。
INDEX
そもそも「ワーケーション」とは?
ワーケーションとは、仕事(Work)と休暇(Vacation)を融合させた造語です。普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしながら、自分の時間も楽しむ働き方です。
2000年代にアメリカで有給取得率向上やリフレッシュを目指して生まれ、日本でも浸透しました。これは、出張先などで滞在を延長して余暇を楽しむブレジャー(BusinessとLeisureの融合)とは異なり、仕事と余暇を両立させる点が特徴です。厚生労働省の2021年3月の「テレワークガイドライン」では、ワーケーションをテレワークの一形態と位置づけています。
観光庁の調査によれば、ワーケーションの認知率は約8割ですが、実際にワーケーションを経験した人は全体の4.3%と、少ない状況です。また、ワーケーションに興味や関心を持つ層は28.2%で、特に若い世代や家族が多い傾向です。
ワーケーションの経験率の低い理由として、会社の制度や活用のしやすさなどに課題がありますが、潜在的なニーズは存在していることが見受けられます。
参照:「新たな旅のスタイル」ワーケーション&ブレジャー|国土交通省観光庁
ワーケーションの2つ種類【休暇型・業務型】
ワーケーションには休暇型と業務型の2つの種類があります。
- 従業員のプライベートに合わせて実施される『休暇型』
- 企業が主導になって実施される『業務型』
01従業員のプライベートに合わせて実施される『休暇型』
休暇型ワーケーションは、休暇が主な目的で、福利厚生として導入される形態を言います。例えば、有給休暇を使い、リゾートや観光地で長期滞在しつつテレワークをするスタイルです。
企業が有給休暇の推進や、従業員のリフレッシュを目指すケースも多く「福利厚生型」とも呼ばれます。
02企業が主導になって実施される『業務型』
業務型ワーケーションは業務を主体とする形態で、地域課題解決型、合宿型、サテライトオフィス型、ブレジャー型の4つに分かれます。
企業が主導になって実施される 『業務型』 | ワーケーションの内容 |
---|---|
地域課題解決型 | 地域課題を解決するため、地域との交流を通じて活動します。 |
合宿型 | 旅先でチームの議論や研修を行う形態です。チームの結束強化やアイデアの発想を目指します。 |
サテライトオフィス型 | サテライトオフィスやシェアオフィスでテレワークする形態です。在宅勤務の代替場所として利用されます。 |
ブレジャー型 | 出張の際に余暇を楽しむ働き方です。出張の滞在先に余暇を組み合わせる形態で、ワーケーションとは異なる特性を持ちます。 |
JTBが考えるこれからのワーケーション
ワーケーションをきっかけに地域と関わり続ける「仕事(Work)×地域とのつながり(Association)」を新たな定義とし、地域と企業の関りを強化するアプローチを始めています。
詳しくはこちら
実際のワーケーションのスケジュール
一般的なワーケーションのスケジュール例をご紹介します。
スケジュール例(5日間)
- 1日目(有給利用)
- 家族での出発。ホテルチェックイン後は散策やリラックスを。
- 2日目・3日目(平日)
- 勤務日。朝食を楽しんだあと、ホテル内のスペースで仕事。
- 4日目・5日目(休日)
- カヌーや新しい体験を楽しみ、家族との思い出を作ります。
それぞれの日に、家族と過ごす時間を大切にしています。
【従業員】ワーケーションの3つのメリット
従業員から見たワーケーションのメリットは次の3つです。
- ストレスの軽減や生産性の向上が見込める
- 長期休暇を取得しやすくなる
- ワークライフバランスの改善につながる
MERIT01ストレスの軽減や生産性の向上が見込める
リフレッシュ効果によって気分転換ができ、観光地での仕事から遊びへの切り替えがスムーズになります。また、仕事以外のリゾート時間で家族とのコミュニケーションも増え、モチベーション向上にもつながります。
オフィスの雑音や環境の制約から解放されたワーケーションでの集中力は高く、個々の生産性が向上することが実験結果からわかっています。
株式会社NTTデータ経営研究所と株式会社JTB、日本航空株式会社が共同で実施した「ワーケーションの効果検証を目的とした実証実験」の結果によると、ワーケーションによって仕事のパフォーマンスが20.7%上昇するだけでなく、ワーケーション終了後も5日間は効果が持続することが分かかりました。
参照:JTB|ワーケーションは従業員の生産性と心身の健康の向上に寄与する ワーケーションの効果検証を目的とした実証実験を実施
MERIT02長期休暇を取得しやすくなる
ワーケーションの間に業務を進める考え方が浸透すれば、長期休暇を取る人が増える可能性があります。政府の働き方改革では、年休の消化を推奨しており、長期休暇を取得しやすい職場は注目され、優れた人材が集まりやすくなります。
日本でも旅先で仕事をしながら休暇も楽しむ柔軟なスタイルが定着すれば、仕事と休暇を両立させることで罪悪感が軽減され、長期休暇も取得しやすくなります。
MERIT03ワークライフバランスの改善につながる
ワーケーションにより、有給休暇の取得やリフレッシュが容易になると、個人のプライベートな時間を充実させることが可能になります。
従業員は自分の労働環境を柔軟に選択でき、働き方の選択肢が増えることで個々の状況に合った勤務が可能です。その結果、従業員の帰属意識が高まり、定着率の向上につながります。
【従業員】ワーケーションの3つのデメリット
従業員にとってのワーケーションのデメリットは次の3つです。
- Wi-Fi速度・セキュリティなど作業環境の整備が必要になる
- 労働時間などの自己管理が必要になる
- 費用負担がある
DEMERIT01Wi-Fi速度・セキュリティなど作業環境の整備が必要になる
ワーケーション導入には適切なWi-Fi速度やセキュリティなどの作業環境の整備が必要です。
ワーケーション先でも業務を行うために、作業環境として適切な作業スペースや高さ調整が可能な机、電源コンセントの必要があげられます。また、Wi-Fiの速度や安定性も大切で、速度が遅いと作業に支障をきたすこともあるため、事前に滞在先の設備確認が必要です。
公共のWi-Fiを利用する場合はセキュリティリスクがあるため、ポケットWi-Fiの活用やVPNを用いた暗号化、アクセス権限の見直しなど情報漏えいへのリスクに注意した適切な対策が重要です。
DEMERIT02労働時間などの自己管理が必要になる
ワーケーションでは、労働時間と休暇の切り替えが難しい側面があります。仕事とプライベートの切り替えが、自己の意思とスケジュール管理に依存しているためです。
完全に仕事だけに没頭することや、逆に仕事が全く進まない状態では、ワーケーションの意味が薄れます。従業員個々の自己管理とバランス感覚が重要になるのです。
DEMERIT03費用負担がある
ワーケーションには、テレビ電話やパソコンなどの設備に加え、有料サービスなどのコストがかかります。補助金制度がない場合、仕事環境を整えるための費用は、従業員の負担になります。
【企業側】ワーケーション導入の5つのメリット
企業側のワーケーション導入のメリットは次の5つです。
- 従業員の生産性の向上
- 従業員満足度の向上と離職率の低下
- 有給取得率の向上
- 企業イメージUPや人材獲得力の強化
- SDGsへの貢献・地域との関係性構築
MERIT01従業員の生産性の向上
ワーケーションの導入は、新たな環境での刺激によって集中力を高め、生産性を向上させます。従業員は独自の環境で仕事に取り組むため、創造力が刺激され、新しいアイデアや解決策が生まれるケースも多く、イノベーションが促進される傾向があります。
このような柔軟性のある作業環境は従業員の働きやすさをもたらし、結果として企業の業績向上が期待できます。
MERIT02従業員満足度の向上と離職率の低下
ワーケーションによる柔軟な働き方の提供で、従業員は自分のワークスタイルを実現しやすくなります。
その結果、従業員は企業に対する満足度向上と貢献意欲を高め、離職率の低下が期待できます。
MERIT03有給取得率の向上
日本は労働基準法の改正により、有給休暇取得が義務付けられたものの、実際に取得するのは難しく有給取得率は低い状況です。
この問題を解決する手段として、ワーケーションは長期休暇と業務を両立させることができます。休暇を取りながら仕事ができるため、従業員は有給を利用しやすくなります。有給取得率の向上は、従業員のエンゲージメントを高めます。
MERIT04企業イメージUPや人材獲得力の強化
ワーケーションの導入は、企業のイメージアップや人材獲得力の強化につながります。多くの企業がテレワークを取り入れていますが、ワーケーション導入はまだ少なく、採用時の大きな差別化ポイントになります。
企業が多様な働き方を推進する姿勢を示すことは、新たな価値観を持つ求職者に魅力的に映ります。結果として、多様な人材の獲得が期待できます。
MERIT05SDGsへの貢献・地域との関係性構築
地域課題解決型のワーケーションは、新しい場所で働くことを通じて、企業と地域社会とのつながりを深める機会を提供します。地元の文化や人々との交流で、地域経済の活性化や課題解決に貢献できます。
また、持続可能な開発目標(SDGs)に貢献することも可能です。例えば、現地での活動や取り組みを通じて、地域の教育や健康、環境保護などに関連する目標を支援できます。
【企業側】ワーケーション導入の5つのデメリットと対策方法
企業側視点のワーケーション導入のデメリットは次の5つです。合わせてその対策方法を紹介します。
- 作業環境・通信環境を確保できない
- セキュリティに不安がある
- 労働時間の把握や人事評価がしづらくなる
- コストを捻出できない
- ワーケーション対象外の部門が不満を感じる
01作業環境・通信環境を確保できない
ワーケーションでは、観光地やリゾート地で働きます。しかし、現地のホテルや旅館のなかには、業務に適したデスクやライトなどの設備が整っていない施設もあります。またネットワークの遅延や切断により、従業員が効率よくワーケーションができない恐れがあります。
【対策】快適な労働環境をあらかじめ選択しておく
多くのホテルや旅館は、ワーケーションの受け入れに積極的です。ビジネス向けに整備された施設や、自治体が用意したワーケーションの施設などを従業員に紹介すると、ワーケーションの活用が進む可能性があります。
02セキュリティに不安がある
通常のオフィスとは異なり、ワーケーション先はセキュリティ体制が万全ではない場合があります。情報漏洩につながる行動として、以下が挙げられます。
- 従業員がフリーWi-Fiスポットを利用する
- パソコンなどの業務用端末や書類を紛失する、または盗まれる
- 機密情報が表示された画面を盗み見られる
【対策】セキュリティ関連の仕組みを見直す
情報漏洩を避けるためには、高セキュアな状態をキープするためのツールが必要です。ウイルス対策などができるセキュリティソフトや、VPNツールなどを端末に導入するようおすすめします。併せて、情報管理が可能なワーケーション施設を従業員に伝え、優先して使用するよう促すことも大切です。
セキュリティ関連の仕組みを業務マニュアルにまとめて周知すると、従業員はルールを守りやすくなります。
03労働時間の把握や人事評価がしづらくなる
タイムカードやICカード打刻などで勤怠管理をしている企業では、ワーケーションにあたり労働時間の把握が難しくなります。業務時間を管理するツールを導入しなければ、労働時間を正確に把握できません。
また、ワーケーション先では従業員の働きぶりが分からないため、アウトプット主体の人事評価になりがちです。努力が反映されない、公平に評価されないと感じさせる状態では、従業員のモチベーションを低下させてしまいます。
【対策】ツールを導入し評価基準を見直す
「チャットツールなどで進捗具合を報告させる」「オンラインで打刻できる勤怠管理システムを導入する」などの手段を取るとワーケーションでも業務時間が把握可能です。
また、目標管理制度を人事評価に取り入れると、ワーケーションを導入しても従業員のモチベーションを保ちやすくなります。目標管理制度とは、従業員が自ら目標を決め、目標の達成具合が人事評価に反映される制度です。
04コストを捻出できない
ワーケーションでは、従業員個人が交通費や宿泊費を負担するケースが多く見られます。ワーケーション先までの距離や宿泊する施設によっては、高額なコストが発生しかねません。
ただし、企業が負担する費用の線引きは、企業ごとに異なります。ワーケーション先の食費や滞在中の交通費・観光費などを負担するかどうかは、企業で決められます。
【対策】自治体の補助金や割安な宿泊施設を利用する
テレワーク推進のために、政府はワーケーション補助金を導入しました。ワーケーション補助金の対象は、宿泊費・交通費・施設利用料・通信機器の導入費用などです。補助対象や補助金は自治体ごとに異なるため、個別に確認が必要です。
なお、割安な宿泊施設には、ウィークリーマンションやマンスリーマンションなどが挙げられます。
05ワーケーション対象外の部門が不満を感じる
テレワークに不向きな仕事は、ワーケーションにも不向きです。例えば、生産・研究にかかわる仕事や宅配関連の仕事などは、ワーケーションができない可能性が高いと推測されます。
ワーケーションができない部門で働く従業員が不満を感じると、生産性が低下する恐れがあります。
【対策】働き方の見直しやテスト的な導入を実施する
働きやすい環境を提供すると、ワーケーションができない部門の納得を得られる可能性があります。働きやすい環境づくりの一例として、以下の施策が挙げられます。
- 時差出勤を認める
- 加湿器やコーヒーメーカーなどオフィスの設備を充実させる
- オフィスのインテリアを見直す
また、ワーケーションができるか判断しにくい部門があれば、小規模な人数でテストを実施すると、ワーケーションの必要性や実施における課題が明らかになります。
ワーケーションを導入した2つの企業事例
01 株式会社日本経済新聞社 様ワーケーション導入で新たな働き方の可能性を探る
日本経済新聞社様は、SDGs推進プロジェクトの一環として、2020年にワーケーションを導入されました。
- 導入の背景
- ワーケーションを通じて従業員の理解を促進する目的
- 抱えていた課題
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- 自社サービスのリリースにあたり、理解を深めるための課題解決
- 社としてワーケーションをテーマに捉えて、体験することで理解を深める
- 実施内容
- 三菱地所の「WORK×ation Site」を利用し、軽井沢や南紀白浜でのツアーを企画
(テレワークとアクティビティを組み合わせ、従業員に特別な経験を提供することで、オフィス外での仕事や現地の余暇を通じてリフレッシュし、交流の機会も設定) - 成果
- 参加者は非日常感を楽しみつつ、仕事へのストレス軽減や部署間の交流を実感
参加者の声からは、ワーケーションの経験による前向きな感想が多数寄せられ、仕事とプライベートの切り替えやチームワーク向上に貢献したことが示されました。
- 詳細はこちら
- ワーケーション導入で新たな働き方の可能性を探る
02 IT・システム関連企業 E社 様初めてのワーケーション...不安があったが、お金をかけてでも、やる価値あり!
IT・システム関連企業 E社様は、都内に拠点を置く活気ある企業で、社長は新しい取り組みを積極的に取り入れる姿勢を持っています。ワーケーションを導入する前からテレワークを採用しており、コロナ禍を契機にワーケーションに興味を持たれ、JTBと協力し、軽井沢での実施を決定されました。
- 導入の背景
- 社長の新しい試みへの積極性
- 抱えていた課題
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- ワークとバケーションの区別
- セキュリティ確保
- Web会議環境の整備
- 実施内容
- 軽井沢プリンスホテルで実施(3~4名で3泊4日から6泊7日の期間)
目的を明確化し、条件を整理、食事は基本的に自己負担で、一食のみ会社負担のレストランディナーを提供 - 成果
- 集中力やコミュニケーションの向上
(参加者からは良いフィードバックがあり、「費用をかけても価値のある経験だった」との意見)
最終的には全従業員に経験させたいと継続検討中です。ワーケーションは効果的な手法であり、企業にとっても従業員にとってもプラスになることが示されました。
まとめ:ワーケーションを上手に活用しよう
ワーケーションの概要や種類、従業員側と企業側それぞれのメリット・デメリットを紹介し、ワーケーションを導入した2つの企業の事例もご紹介しました。
新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークが一般化し、ワーケーションが注目を集めるようになりました。また、近年の働き方改革の一環としてワーケーションの重要性が高まっています。
JTBは2021年10月から2022年1月にかけて、企業の人事総務担当者や従業員を対象にワーケーションに関する調査を実施しました。この調査結果を基に、ワーケーション導入企業と未導入企業の違いにフォーカスし、導入のヒントを提供しています。また、JTBのワーケーション制度もご紹介し、従業員の働き方に関心を持つ皆様の参考となる情報を提供しています。
詳細は下記サイトよりご覧ください。従業員の働き方改革を考える皆さまのお役に立てれば幸いです。