「優秀な部下が、データの入力や書類作成といった作業に追われている」「残業を減らすよう指示はしているものの、根本的な業務量が減らずに困っている」
このような「現場の悩み」に直面している人事担当者も多いのではないでしょうか。その背景には、慢性的な人手不足や、古いシステムにより業務が属人化してしまうといった、多くの企業が直面している構造的な課題が潜んでいます。
本記事では、単なる「作業の効率化」で終わらせないための、実践的な4つのステップを解説します。コスト削減と従業員満足度を両立させ、限られた人材を「本当にやるべき仕事(コア業務)」に集中させるための、具体的な手法と成功事例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

業務効率化とは?いま日本企業が直面する課題と求められる変革

まずは、業務効率化の本質的な意味と、それが「改善」から「戦略」へと変化した背景を確認しておきましょう。
日本の労働生産性の現実と国際競争力の低下
公益財団法人日本生産性本部の調査によれば、日本の時間当たり労働生産性は2023年時点でOECD加盟38カ国中29位という状況です。これは単なる国際順位の問題ではありません。現場の長時間労働につながったり、企業の利益が圧迫されて給与が上がりにくくなったりする、多くの企業が抱える問題でもあります。
この状況が続けば、日本企業の国際市場における競争力が低下し、優秀な人材が海外企業へ流出してしまう可能性も高まります。だからこそ、従来のやり方を見直し、業務プロセスを根本から改善することが、今まさに求められているのです。
レガシーシステムが企業成長を阻むボトルネックに
多くの企業では、長年にわたって使われてきた古いITシステム(レガシーシステム)が複雑化し、維持管理だけでIT予算の多くが消えてしまう状況が続いています。本来であれば、DX推進や新しいサービスの開発といった「攻めのIT投資」に回すべき予算や人材が、古いシステムの延命対応に取られてしまっているのが現実です。
このまま改善が進まなければ、変化の早い市場で競争力を保つのが難しくなり、組織全体の成長スピードにも影響しかねません。レガシーシステムをどう最適化し、未来へ向けた投資へシフトできるかは、企業の持続的成長に直結する課題です。
業務効率化の真のゴール:人的資本の最大化とイノベーション創出
業務効率化とは、単にコストを削減したり、作業時間を短縮したりすることではなく、「限られた時間と人材を、より価値の高い仕事に振り向けるための仕組みづくり」です。その最終的な目的は、従業員一人ひとりが持つ能力や経験を最大限に発揮できる状態をつくること、すなわち「人的資本の最大化」にあります。
ルーチンワークや定型業務から解放されることで、従業員は「本来やるべきだった仕事」や、新しいアイデアを生み出す「創造的な仕事」に時間とエネルギーを注げるようになります。こうしたイノベーションの創出こそが、企業の持続的な成長につながる最も大切な道筋です。
業務効率化がもたらす5つのメリット

業務効率化を進めることで、企業には多くのメリットが生まれます。ここでは5つの具体的なメリットを紹介します。
コスト削減:人件費・外注費・残業代を同時に削減
業務プロセス全体を見直すことで、まず目に見えて現れるのがコスト削減の効果です。例えば、これまで当たり前だった作業の手順がスリム化されれば不要な残業が減り、残業代を直接的に抑えることができます。
また、業務の「ムラ」や「ムダ」が特定されることで、これまでなんとなく外部に委託していた業務を見直し外注費を減らすきっかけにもなるでしょう。このように、業務効率化は人件費や外注費といった複数のコストを同時に削減できる好循環が期待できます。
業務のスピードアップ:承認や報告フローの自動化
日々の業務の中で、意外と時間を取られているのが、稟議書の承認や日々の報告といった「待ち時間」です。紙の書類が複数の部署を回っている間に、大切なビジネスチャンスを逃してしまっているかもしれません。
こうした承認や報告のフローを、ワークフローシステムなどでデジタル化するだけでも、意思決定のスピードは格段に上がります。お客様への対応も迅速になり、社内の停滞感が解消されることで、ビジネス全体がスムーズに回り始めます。
従業員満足度の向上:仕事の「ムダ疲れ」を減らす
「このデータ、さっきも別のシートに入力した気がする」 「必要な書類を探すだけで午前中が終わってしまった」——こうした「仕事のムダ疲れ」は、従業員のモチベーションを大きく低下させてしまいがちです。
業務効率化によって、こうした二度手間やムダな検索時間がなくなると、従業員はストレスなく本来の業務に集中できます。自分の能力をしっかりと発揮できる環境が整うことで、仕事へのやりがいや従業員満足度が自然と高まる効果も期待できます。
離職率の低下:定型業務の削減が心理的余裕を生む
従業員満足度の向上とも深く関連しますが、特に意欲の高い社員にとって、単純な定型業務ばかりが続くと、キャリアへの不安や「この会社で成長できるのか」という不満につながりやすくなります。これが、早期離職の一因となることも少なくありません。
定型業務を自動化したり、アウトソーシングで手放したりすることで、従業員はより付加価値の高い仕事や、新しいプロジェクトに挑戦する「心理的な余裕」が生まれます。この余裕が、会社への信頼感の向上や、優秀な人材の定着につながります。
顧客満足度の向上:フロント業務へ時間を再配分
業務効率化は、社内だけでなく、社外、つまりお客様にも良い影響を与えます。例えば、バックオフィス(事務処理)の時間が短縮されれば、その分のリソースを営業やサポートなどお客様と直接関わる「フロント業務」に再配分できます。
お客様一人ひとりの課題にじっくりと向き合う時間が増えることで、より丁寧な対応や、一歩踏み込んだ提案ができるようになるのがメリットです。結果として、サービスの品質が向上し、「顧客満足度が高まる」という企業にとって望ましい好循環が生まれます。
企業変革を成功に導く業務効率化の4ステップ

業務効率化を一過性の取り組みで終わらせないためには、体系的なアプローチが有効です。ここでは、着実に成果を出すための実践的な4ステップを紹介します。
ステップ1 現状把握と課題の可視化‐ムダを「見える化」する
効率化の第一歩は、まず「何にどれだけ時間がかかっているか」を正確に知ることから始めます。多くの現場では、長年の勘や経験則で業務が回っており、担当者自身も気づいていない「無意識のムダ」が潜んでいることが少なくありません。
まずは業務フローを書き出し、各作業の担当者、所要時間、発生頻度などを客観的に「見える化」することが効果的です。これにより、どこに時間がかかっているのか(ボトルネック)や、どの業務が属人化しているのか、といった課題がはっきりと見えてきます。
ステップ2 優先順位付け‐どこから手をつけるか?
Step1で課題が見えてくると、「あれもこれも改善したい」と焦ってしまいがちですが、すべてを同時に進めるのは現実的ではありません。リソースは限られているため、「どこから手をつけるか」という優先順位付けが成功の鍵を握ります。
例えば、「改善による効果の大きさ(インパクト)」と「実行のしやすさ(難易度)」の2つの軸で、洗い出した課題を整理するのがおすすめです。まずは「効果が大きく、かつ実行しやすい」領域から着手することで、早期に成功体験を積むことができ、次のステップへの弾みになります。
ステップ3 自動化・アウトソーシング‐AIやBPOの活用
優先順位が決まったら、いよいよ具体的な実行に移します。このとき、単に「社内のやり方を変える」だけでなく、AIや外部サービスといった「新しい選択肢」を柔軟に取り入れる視点が大切です。
特に、定型的な業務や専門性が高い業務は、社内だけで抱え込む必要はありません。AIやRPA(ロボットによる業務自動化)を活用して作業そのものを「自動化」したり、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを利用して業務プロセスごと「外部に委託」したりすることを検討しましょう。
そうすることで、社員はより付加価値の高いコア業務に集中できる環境が整います。
ステップ4 効果測定と改善‐PDCAで継続的に進化
業務効率化は「実行して終わり」ではありません。施策を実行した後、必ず「どれくらいの効果が出たのか」を具体的に測定することが大切です。例えば、残業時間がどれだけ減ったか、コストがどれだけ削減できたか、従業員の満足度に変化はあったか、などを評価します。
もし予想通りの効果が出ていなければ、その原因を探り、次の改善策を考えましょう。改善点を見つけては見直しを重ねることで、組織の中に習慣として根づき、日々進化し続ける取り組みに変わっていきます。
目的別・業務効率化の実践手法とツール活用

ここでは、業務効率化の目的別に、具体的な実践手法や役立つツールをご紹介します。
プロセス自動化:RPAによる定型業務の削減
データの入力、レポートの作成、メールの自動送信など、毎日パソコンで繰り返している定型業務はありませんか?こうした作業は「RPA(Robotic Process Automation)」と呼ばれる、ソフトウェアのロボットが得意とする分野です。
RPAは、人が行うパソコン操作を記録し、24時間365日、ミスなく自動で実行してくれます。作業時間の劇的な短縮が期待できるため、従業員は、より創造的な判断や分析といった、人にしかできない業務に時間を使えるようになります。
コラボレーション強化:Slack/Teamsによる情報共有革命
「あの資料はどこにあるのか」「あの件はどうなったか」といった、情報共有のためのコミュニケーションに時間がかかっている場合、業務のスピードは大きく低下します。特にメールでのやり取りは、情報が分散しやすく、過去の経緯を追うのも大変です。
「Slack」や「Microsoft Teams」といったビジネスチャットツールは、こうした課題の解決に効果的です。プロジェクトや議題ごとに情報を集約でき、スピーディな情報共有が可能です。検索性も高いため、チーム全体の連携(コラボレーション)がスムーズになります。
営業生産性向上:SalesforceなどCRM/SFAによる属人化解消
営業部門では、お客様の情報や商談の進捗が、特定の担当者の頭の中にしか存在しない「属人化」が起こりがちです。これでは、担当者が不在の際の対応遅れや、組織としての営業戦略が立てにくいといった課題が生まれます。
「Salesforce」に代表されるCRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援システム)は、こうした情報を一元管理するのに役立ちます。顧客情報や活動履歴をチーム全体で共有することで、属人化が解消され、営業活動の生産性を高める効果が期待できます。
戦略的アウトソーシング:BTM(Business Travel Management)/BPOによるコア業務への集中
自社のリソースを、より重要度の高い「コア業務」に集中させるため、それ以外の業務(ノンコア業務)を外部の専門企業に委託する「アウトソーシング」も、有効な戦略です。
例えば、出張の手配から申請・承認、経費精算までを一括管理する「BTM(Business Travel Management/出張管理)」を活用して専門企業に委託したり、人事・経理の一部業務をBPOで外部化したりすることで、社内の担当者は本来の業務に専念できます。
これは単なる「外注」ではなく、限られた人材を最大限に活かすための、積極的な経営判断といえます。
その他の実践手法
このほかにも、業務効率化には様々な手法があります。代表的なのが「ECRS(イクルス)」という改善のフレームワークです。「なくせないか(Eliminate)」「一緒にできないか(Combine)」「順序を変えられないか(Rearrange)」「もっと簡単にできないか(Simplify)」の順で検討することで、業務のムダを見つけやすくなります。
また、紙の書類を電子化する「ペーパーレス化」や、部署ごとに散在しているデータをまとめる「データベース一元化」も、すぐに取り組める基本的な施策です。最近では、ChatGPTのような「LLM(大規模言語モデル)」を活用し、文章作成や情報収集を効率化する動きも広がっています。
業務効率化の成功事例と導入効果

ここでは、実際に業務効率化に成功した企業の事例を紹介します。各社がどのように課題を乗り越えたのか、具体的な成果を見ていきましょう。
01 公益社団法人 日本小児科学会 様BPO導入で、専門資格の審査業務負担を軽減

02 外資系製薬メーカーX社 様タクシーチケット関連業務のアウトソーシングで生産性向上

業務効率化で陥りがちな失敗パターンと回避策

業務効率化は、進め方を誤ると期待した成果が出ないこともあります。ここでは、よくある失敗パターンと、それを避けるための対策をご紹介します。
ツール導入が目的化してしまう
「RPAやチャットツールを導入すれば効率化できるはず」と、新しいツールを導入すること自体が目的になってしまうケースは少なくありません。しかし、現場の業務フローや課題が整理されないままツールを入れても、かえって作業が複雑になったり、使われないまま放置されたりすることがあります。
大切なのは、まず「どの業務の、どの部分を効率化したいのか」という目的を明確にすることです。現状の課題を可視化した上で、その解決策として最適なツールを選ぶことが失敗を避けるためのポイントです。
現場がついてこないーマネジメント変革不足
経営層や管理職がトップダウンで効率化を指示しても、実際に業務を行う現場の理解や協力が得られないと、施策はうまく進みません。「新しいやり方を覚えるのが面倒」「自分の仕事がなくなるのではないか」といった現場の不安に、寄り添えていないことが原因です。
なぜ効率化が必要なのか、それによって現場の負担がどう減るのか、といった「目的」や「メリット」を丁寧に説明し、現場の声を吸い上げながら進めるマネジメントが欠かせません。小さな成功体験を共有し、現場を巻き込んでいくことが重要です。
部分最適の罠ー全社視点の欠如
各部署が個別に効率化を進めた結果、自分の部署の業務は楽になったものの、そのしわ寄せが他の部署に行ってしまうことがあります。例えば、営業部が入力方法を変えたことで、経理部の作業が逆に増えてしまう、といったケースです。
これは、会社全体としての流れ(プロセス)を見ていない「部分最適」の罠です。部署間の連携を考慮し、会社全体として最も効率的なのはどのような形か、という「全体最適」の視点を持つことが、真の業務効率化には求められます。
成功企業が実践する「改善が止まらない仕組み」
業務効率化に成功している企業に共通しているのは、一度きりのプロジェクトで終わらせず、「改善し続けること」が組織文化として根付いている点です。時代や市場の変化に合わせて、常により良いやり方がないかを模索し続けています。
例えば、現場から改善提案を吸い上げる仕組みを設けたり、定期的に業務プロセスを見直す機会を持ったりすることが効果的です。PDCAサイクルを回し続けることで、改善活動が止まらない「生きた仕組み」が組織に定着していきます。
まとめ

業務効率化は、単なるコスト削減の手法ではなく、企業の競争力を高め、従業員の満足度を向上させるための重要な「経営戦略」です。限られた人材でより大きな成果を生み出すためには、まず業務の全体像を把握し、改善すべき領域を明確にすることが欠かせません。
そのためには、本記事で紹介したステップに加え、外部の専門性を取り入れることも効果的です。JTBでは、人事・総務・採用のアウトソーシングをはじめ、業務内容やコストの可視化から導入後の運用改善まで幅広く支援しています。自社だけでは手が回らない領域があれば、まずはお気軽にご相談ください。
