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企業・団体向け WEBマガジン「#Think Trunk」 旅の思い出が、心の元気を取り戻すきっかけに。JTBが届ける“対話型”旅行プログラム「こことり®」の可能性

2026.04.06
HR(Human Resources)
人材・組織力強化
従業員満足(ES)向上

ストレス社会といわれる現代、多くの人々にとってメンタルヘルスケアは身近な課題となっています。不安や落ち込みを感じたとき、私たちはどうすれば心の元気を回復できるのでしょうか。

この問いに新たなアプローチで応えるのが、JTBがスタートした“対話型”旅行プログラム「こことり®」です。

今回は、サービス開発の経緯や実証試験で見えた効果、健康経営への活用の展望について、開発者の坂上琢と監修者の鈴木伸一教授(早稲田大学)に伺いました。

こことり®とは・・・

旅の思い出についての対話を通じて、やる気や活気を取り戻すことを目的としたプログラムです。豊富な旅行知識と経験を持つJTBスタッフが「こことり®旅ガイド」として対話を担当します。サービスの提供に先駆けて実証試験を実施し、参加者様の「主観的幸福感」が高まる傾向が示されました。

【対話型】旅行プログラム こことり™事業 実証試験を開始 旅をテーマにした対話を通じ、元気なこころをとり戻す|ニュースルーム|JTBグループサイト

本サービスは、利用者の心理的援助を行うことを目的とするサービスではありますが、利用者の心身の健康改善および問題解決を保証するものではありません。

目次を表示(編集禁止)

お話を伺った方

鈴木 伸一

早稲田大学 人間科学学術院 人間科学部 教授 鈴木 伸一 氏

岡山県立大学、広島大学を経て、2007年に早稲田大学人間科学学術院 准教授に。2010年より現職。主な著書に『実践家のための認知行動療法テクニックガイド』『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』など。

坂上 琢

株式会社JTB メディカル事業部 営業推進課 営業開発プロデューサー 坂上 琢

ヘルスケア領域の社会課題、顧客課題解決を目的とした事業開発、営業開発に従事。

無言の入院生活で再発見した「旅のチカラ」

――まずは「こことり®」が生まれた経緯についてお聞かせください。

坂上 琢(以下、坂上)

きっかけは、私が以前、大きな病気で1年弱休職し、長期入院を経験したことでした。医師や看護師の方々には大変よくしていただいたのですが、皆さんお忙しいので、ゆっくりお話をする時間はほとんどありません。人と話す機会がない毎日、一人で悶々と過ごす日々が続くにつれて、どうしてもネガティブなことを考えてしまい、気持ちが沈み込んでいくのを感じました。
JTBには「旅のチカラ」という言葉があります。弊社は、旅行が持つ非日常体験を通じて、人の心や行動に前向きな変化をもたらすと信じてきました。そして、病気と闘っている人や気持ちが塞ぎこんでいる人が、実際に旅に出なくても、旅に思いを馳せることで、笑顔が生まれ、心の元気を取り戻せるのではないかと考えたのです。
この気づきを形にしたいと思っていた矢先、社内で新規事業の公募がありました。これこそチャンスだと思い、「旅のチカラで心のケアをサポートする」というアイデアで応募しました。サービス内容をいろいろと模索し、「対話」をテーマにすることが決まった段階で、専門家である鈴木先生にご相談させていただきました。

――ご自身の原体験が、サービスの着想につながったのですね。

坂上

鈴木先生にご相談してからは、一気に霧が晴れていくような感覚でした。私の中にあった「人とのコミュニケーションが重要だ」という漠然とした思いに対して、先生が学術的な裏付けを与えてくださったのです。その一つが、「行動活性化療法」という考え方です。
先生から、行動活性化療法の理論や具体的な対話の進め方を非常に分かりやすく教えていただいたおかげで、サービスの骨子を固めることができました。そこから試行錯誤を繰り返し、教えていただいた内容をマニュアルやスクリプトに落とし込んでいきました。

旅はなぜ、心に効くのか――行動と感情をつなぐ仕組み

――旅が心に効く背景には、「行動活性化療法」の考え方があると伺いました。「こことり®」は治療そのものではなく、この考え方を日常のセルフケアに活かしたプログラムとのことですが、詳しく教えていただけますか。

鈴木 伸一教授(以下、鈴木教授)

行動活性化療法※は、主にうつ病の方への支援法として体系化されてきた心理療法の一つです。

「こことり®」は医療行為や心理治療を目的としたサービスではありません。日常のウェルビーイング向上をサポートするプログラムです。

私たちは不安や落ち込みを感じて元気がないとき、「何もしたくない」「やる気が出ない」と活動性が低下してしまう傾向があります。この「活動性が落ちる」という状態が、心の不調をさらに悪化させる悪循環の入り口になり得るのです。
しかし同時に、私たちはプラスの感情も経験することで心のバランスを保ってもいます。プラスの感情というのは、じっとしていてはほとんど得られません。仕事をやり遂げた達成感、友人と出かけた楽しさなど、何らかの「活動」を通して生まれるものです。
活動性が低下するということは、プラスの感情を得るチャンスが減ってしまうことを意味します。結果、マイナスの感情ばかりの中で過ごすことになり、「何をしても無駄だ」「楽しめるはずがない」という考えに囚われてしまうのです。

――負のスパイラルに陥ってしまうのですね。その状態から抜け出すために、「行動活性化療法」では何を行うのですか?

鈴木教授

大きく二つの要素を重視します。
一つは、行動とその先にあるプラスの感情との結びつきを、体験を通してもう一度実感してもらうこと。
もう一つは、行動によって得られたプラスの感情を通じて、次の行動への意欲につながる良い循環を作っていくことです。

不安や落ち込みといったマイナスの感情をどうにかしようと考えるのではなく、プラスの感情をいかに増やしていくかに焦点を当てるのが、このアプローチの特徴です。

――そのアプローチに、なぜ「旅」が有効なのでしょうか?

鈴木教授

旅は「活動の集合体」であるという点が、大きく関係しています。

気分が落ち込んでいるとき、「楽しいことを考えましょう」「行動しましょう」と言われても、多くの方は「それができれば苦労しない」と感じるでしょう。しかし、「これまでの思い出を聞かせてください」と問いかけると、多くの方が楽しかった記憶や良かった体験をいくつか持っているはずです。
数ある思い出のなかでも、旅はさまざまな活動の積み重ねで成り立っています。計画を立て、目的地へ移動し、現地で何かを見たり食べたり、人と交流したり……。その中には、たくさんの「楽しかった思い出」があります。
旅の体験を振り返ることは、「自分の行動が嬉しい感情や楽しい体験につながっていたんだ」と、行動と感情の結びつきに気づくための絶好のテーマなのです。

過去の旅を語り、未来の一歩を踏み出す。プログラムの全体像

――「こことり®」では、具体的にどのようなプログラムを行うのでしょうか。

坂上

プログラムは、対面またはオンラインミーティングツールを使って、「こことり®旅ガイド」とともに50分間のセッションを2回実施し、最後にセッションの振り返りや今後の過ごし方に対するアドバイスをいたします。

1回目のセッションで行うのは「過去の旅の振り返り」です。これまでの旅の思い出を語っていただきながら、ご自身がどんなことに楽しみや喜びを感じていたのかを再認識します。
2回目のセッションでは、「いつか行ってみたい旅」について考えます。1回目で思い出した「楽しかった自分」を軸に、未来に目を向けるのです。
もしもここで、「またロンドンに行きたい」と話になったとしても、ゴールは壮大な旅行計画を立てることではありません。そこに向かうための「明日からでもできる小さな一歩」を、一緒に考えます。

――「小さな一歩」というと?

坂上

「YouTubeで現地の動画を見てみる」「本屋さんでガイドブックをめくってみる」など、ほんの些細なことでいいのです。
大切なのは大それた目標ではなく、ご自身が少しでも満足感や喜びを得られるような、新しいチャレンジを始めてみること。「近所を散歩してみようかな」といった、旅とは直接関係ない行動でもまったく問題ありません。

――参加者それぞれの一歩を、対話を通じて促していくのですね。「こことり®旅ガイド」とは、どのような方々なのでしょうか?

坂上

こことり®旅ガイドは、豊富な旅行経験を持つJTBの添乗員や、旅行の企画・販売に長年携わってきたスタッフが務めます。彼らは、私たちが「コミュニケーション能力」と一言で表現する以上の、特殊なスキルを持っています。
例えば添乗員は、初対面のお客様と空港で出会い、1週間~10日間と旅を共にします。その間、安全かつ楽しい時間を提供し続けなければなりません。人の心を読み、先回りして喜ばせようとする、一朝一夕では身につかないホスピタリティ力を持っているのです。

――まさに旅のプロですね。

坂上

こうしたスキルに加えて、今回のプログラムのための専門的なトレーニングも受けています。鈴木先生に作成いただいたマニュアルに基づく座学はもちろん、ロールプレイングやOJTを重ね、この対話が何のために行われるのかを深く理解した上で、お客様と向き合っています。
こことりプログラムの参加者様が、ニューヨークのホテルでの思い出を語られた際、こことり旅ガイドが「セントラルパークから近くて便利なホテルですよね。」と話しているのを見ました。このとき、二人は頭の中にまったく同じ情景を浮かべながら、話に興じていたのです。
単に話を聞くだけでなく、同じ景色を共有し、時にはお客様が忘れていた記憶を引き出す「呼び水」になれる。旅の知識と経験が豊富なガイドだからこそ提供できる価値であり、このプログラムの大きな魅力だと考えています。

実証試験のデータから見る「こことり®」の価値とは?

――サービスの公開に先立って実証試験を行ったと伺いました。どのような結果が得られたのでしょうか。

鈴木教授

私たちはサービスの公開に先立ち、20歳から75歳までの男女71名を対象に、プログラムの効果を検証する実証試験を行いました。その中で変化がみられたのは「主観的幸福感」という指標です。これは、現在の生活がどのくらい充実しているか、幸せだと感じているかを示すものです。
下の左グラフから分かるように、プログラムに参加したグループは参加しなかったグループと比較して、主観的幸福感の得点が統計的に意味のある形で向上しました。
さらに、右グラフが示しているように、その状態はプログラム終了から数週間が経過したフォローアップの時点でも維持されていることが確認できました。

待機期間中のB群は変化していないのに対し、プログラムに参加したA群はプログラム前後で優位に得点が増加していることから、プログラムの効果が示されたと考えられる。
プログラムの維持効果をさらに検証するために、プログラム前・後そしてフォローアップまでの3時点での得点変化を検討した。その結果、プログラムによって得られた効果は、フォローアップまで維持されていることが示された。

――幸福感が向上し、それが持続したということですね。

鈴木教授

得点の上昇幅自体は、28点満点中の2点程度であり、決して大きな変化ではありませんが、「参加者様が、自身の生活を肯定的に捉えるきっかけを作ることができた」と解釈することができます。
さらに重要なのが、「プログラムの効果が終了後も持続した」という点です。これはいわば、プログラムによる一時的変化ということではなく、今後につながる心のベースラインが少し上がった状態です。だからこそ、セッションが終わって数週間経っても、その肯定的な気持ちが残っていたのではないかと考えています。

人々のウェルビーイングを高める新たな一手として。「こことり®」が目指す未来

――今後、どのような方々に「こことり®」を届けていきたいとお考えですか。

坂上

先生は私に、「一般的なメンタルケアが“不安を減らす”アプローチだとすれば、『こことり®』は“楽しみを増やす”アプローチだ」と語ってくださったことがあります。
現に、ある高齢者の参加者様は、プログラムをきっかけに「旅行に行きたい」といって、介護付きの旅行を手配されていました。このような事例を、幅広い年齢層の方々に届けていきたいです。
ストレス社会の最前線で働くビジネスパーソンにも、このプログラムは大きな価値を提供できるのではないかと考えています。
実は今、JTBグループの健康保険組合で従業員を対象にした「こことり®」のトライアルを進めています。まずは自社で実績とエビデンスを積み、将来的には企業の健康経営や福利厚生の一環としてご活用いただきたいです。
その際は、弊社が持つ他のソリューションと「こことり®」を組み合わせ、トータルで皆様のウェルビーイングをサポートする形を模索していきたいと考えています。

――鈴木先生は、現代の働く人々が抱える課題に対し、「こことり®」がどのような役割を果たせると考えますか?

鈴木教授

現代の企業では、ストレスチェックの実施が義務付けられるなどメンタルヘルス対策への意識は高まっています。しかし、これらの多くは「あなたがどれだけストレスを溜めているか」というネガティブな側面を可視化するものです。結果を知らされても「じゃあ、どうすればいいんだ」と途方に暮れてしまう人も少なくありません。
仕事でしんどいときに「仕事で充実していることは?」と聞かれても、答えられる人は限られています。一方、「今までで一番楽しかった旅の話を聞かせてください」と問われれば、人は今の自分と切り離して思考を巡らせることができるかもしれません。
「こことり®」は、ネガティブを減らすのではなく、自分の中にあるプラスの感情を取り戻すという、まったく違う軸からのアプローチだと思います。

――最後に、このサービスを通じてこれからの社会を生きる人々にどのような変化をもたらしたいか、展望を聞かせてください。

坂上

これまで私は、旅は元気な人がするものという固定観念がありました。ですが「こことり® 」を通じて、むしろ「少し元気がないな」と感じている人にこそ、旅のチカラが効果を発揮すると気づかされました。
気分が落ち込んでいる方々が、新しいアクションを起こすお手伝いがしたい。このサービスが多くの人にとって、日常に彩りを取り戻すための小さなきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

鈴木教授

現代、特に若い世代は、SNSなどを通じて他者からの評価に自己肯定感を委ねがちです。自分の頑張りを自分で認め、自分の行動が幸せに繋がっているという実感を持つことが、心の健康にとって非常に重要です。
このプログラムが、楽しかった旅の記憶を呼び覚ますだけでなく、「自分の行動が自分を幸せにする」という感覚を思い出すきっかけになってくれたらと願っています。自分を軸とした幸せのあり方を見つける一助となる可能性が、「こことり®」にあると信じています。

本記事に関するお問い合わせ、ご相談、ご不明点などお気軽にお問い合わせください。

#Think Trunk

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